セミシャワーと太陽の烽火(のろし)|新城和博のコラム|fun okinawa~ほーむぷらざ~

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新城和博

2017年7月26日更新

セミシャワーと太陽の烽火(のろし)|新城和博のコラム

ごく私的な歳時記Vol.31|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、この20年も振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。



セミの声で目覚めるようになった。寝ている部屋の、すぐそばに植えている黒檀(こくたん)からセミの声がユニゾンで押し寄せてくる。この家に引っ越したときに植えた3本の黒檀も、気が付けばそれなりに背も高くなり、枝ぶりもしっかりとしている。3本というのは僕たちヤーニンジュ(世帯・住んでいる家族)の分である。

ためしにその3本の黒檀にホースで散水してみた。ぶわっと何匹ものセミが飛び出してきた。おう、慌てふためいている。くるりと半円をかくもの、電線にすがりつくもの、違う木のもとに飛び立つもの。想像していたよりも多い。ちょっと面白くなって、毎朝、植物の水掛けのときに、セミシャワーと称してシャーと散水している。セミの合唱隊にはすまないが、ちょっとした気分転換である。

今年の夏の初めは、空気中のゴミが少ないのかどうか、よく分からないが、首里から見る慶良間の島々が例年に増して、鮮やかな日が続いていた。島の山肌の緑、砂浜の色合いもびっくりするくらいくっきりと見える。近眼で老眼の僕が言うのもなんだが。

夕方、仕事を終え帰宅途中、空がとてもきれいな夕映えなので、思わず首里の端っこの丘に寄り道した。西の海、慶良間の島々の向こうに沈む夕日が見られるかもしれないと。

車を寄せて、誰もいないはずの丘に登る。そこは首里王朝時代には通信手段としての狼煙(のろし)をあげるところだった「火立毛(ヒータチモー)」である。丘のてっぺんが小さな毛(モー・広場)になっている。

誰もいないだろう、と思うのは、この丘の周りがお墓だらけだからだ。小さな門中墓が並んでいるなか、お騒がせしてすいませんと、お墓の主さんたちに会釈しながら、夏草をかきわけ登るのである。サシグサがからみつく。草刈りのあるお盆はまだ先だ。

街の端っこの火立毛から眺める夕暮れは、なかなかのものだった。



那覇の街並みが黒々としていくなか、西の海では、混沌(こんとん)とした茜(あかね)色のスペクタクル、とでも言いたくなるような壮大な景色が広がっていた。沖縄の童歌で「西の海が 燃えている」と歌っているのがあったが、確かに燃えている。ゆったりと流れる大きな雲の切れ間に沈む太陽からの合図、烽火(のろし)のようだ。何を伝えたいのかは分からない。

夕日は毎日沈んでいるのに、僕たちはその劇的な光景を当たり前のものとして見過ごしている。それは仕方ないことだろう。少し顔をあげれば、遠くを眺めたらとは思うが、その「少し」ができないのが、都市生活者の日常なのかもしれない。でも大自然はすぐそばにあるのだ。

誰もいない火立毛から、静かに太陽の烽火が消えていくさまを眺めた、わずか10数分間。長い夏の始まりに身も心も染まった。夏が、夕方と星晴れの夜だけだったら最高なのにナー。


※狼煙(煙などで合図を伝える場合ののろし)
 烽火(炎などで合図を伝える場合ののろし)

 

<新城和博さんのコラム>
vol.34 かつてここにはロマンがあった
vol.33 夏の終わりのウッパマ
vol.32 ちょっとシュールでファニーな神さま
vol.31 セミシャワーと太陽の烽火
vol.30 甘く香る御嶽かいわい
vol.29 松の浦断崖と田園段丘の旅
vol.28 一日だけの本屋さん
vol.27 春の呑み歩き
vol.26 そこに市場がある限り
vol.25 すいスイーツ
vol.24 妙に見晴らしのよい場所から見えること
vol.23 帯状疱疹ブルース
vol.22 隣の空き地は青かった
vol.21 戦前の首里の青春を偲ぶ
vol.20 君は与那原大綱曳をひいたか?
vol.19 蝉の一生、人の一日


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新城和博さんのコラム[カテゴリー:まち歩き 沖縄の現在・過去・未来]
ごく私的な歳時記 vol.31

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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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