甘く香る御嶽(うたき)かいわい|新城和博のコラム|fun okinawa~ほーむぷらざ~

沖縄で暮らす・食べる
遊ぶ・キレイになる。
fun okinawa 〜ほーむぷらざ〜

沖縄の魅力|スマイリー矯正歯科

COLUMN

新城和博

2017年6月23日更新

甘く香る御嶽(うたき)かいわい|新城和博のコラム

ごく私的な歳時記Vol.30|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、この20年も振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。

今年の二十四節季の小満(しょうまん)・芒種(ぼうしゅ)、いわゆる梅雨の前半は雨も少なく心配していたが、梅雨の駆け込みのような大雨で、島全体は、夏を迎える準備が整ったような気がした。

アカショウビンも、いつのまにか鳴き声が聞こえなくなった。今年はいつもより長くとどまっていたようで、5月の初めから6月にかけて、あの気持ちのいい鳴き声が早朝の首里・弁が岳かいわいに響いていた。



同じ頃、窓を開けると、とてもいい香りがしてきた。甘い花のふんわりとした香りである。森全体から漂ってくるようなこの香りはいったいなんだろうと思いつつ、朝、窓を開けるのが楽しみだった。ある朝、早起きしてその香りがどこから来るのかを探しに弁が岳の中を歩いたが、結局よく分からなかった。

植物に詳しい友人に聞いてみると、どうやらその香りはクロツグという植物らしいことが分かった。御嶽などの拝所にあるヤシ科の植物である。この時期、花が咲いて甘い香りを放っているという。「石灰岩地帯、うす暗いガマ(洞窟)や御嶽の近くにはたいていこの植物が生えている」のだそう(『おきなわ野山の花さんぽ』安里肇栄著 ボーダーインク刊)。



弁が嶽は、世が世なら首里随一の聖域といっていいので、さもありなん、と納得した。クロツグの花はまだ見ていないが、きっとこの森のどこかに生えているのだろう。

梅雨の切れ間をぬって、知念半島をドライブした。ふと思い立って第一尚氏由来の拝所・月代宮(佐敷上城跡)に寄ってみた。与那原・佐敷・大里・知念・玉城あたりを、風光明媚(めいび)な場所を目指してドライブすると、必然的に拝所・御嶽めぐりになるのだ。

するとここであの香りに遭遇したのである。
甘い、いい匂いが御嶽の下の広場に漂っている。すこし探して見つけた。クロツグである。初めて対面したが、なんかよく知っているような気がする。『おきなわ野山の花さんぽ』によると、「葉柄は中がフカフカ、重さ、太さ、曲がり角具合から手ごろな木刀。少年たちがこれでよくチャンバラをしてた」のだそうだ。

人けのない場所でこの香りに包まれながら、眼下に広がる佐敷、中城湾を眺めるのはなかなかいい気分だった。三山統一を果たした尚巴志(しょうはし)王も、この香りに包まれていたのだろうか。葉柄を刀に見立てたりして。



数日後、斎場御嶽(せーふぁうたき)に、世界遺産になってから初めて行ってみた。20数年ぶりである。すると、そこでもあの甘い香りがしたのである。そりゃそうだ、「石灰岩地帯、うす暗いガマ(洞窟)や御嶽の近くにはたいていこの植物が生えている」のだから。

夏至を過ぎた朝、梅雨前線が北上するのを待っていたかのように、弁が岳かいわいにアカショウビンの鳴き声が響いた。どうやら今年の夏は弁が岳の森で過ごす気かもしれない。


 

<新城和博さんのコラム>
vol.34 かつてここにはロマンがあった
vol.33 夏の終わりのウッパマ
vol.32 ちょっとシュールでファニーな神さま
vol.31 セミシャワーと太陽の烽火
vol.30 甘く香る御嶽かいわい
vol.29 松の浦断崖と田園段丘の旅
vol.28 一日だけの本屋さん
vol.27 春の呑み歩き
vol.26 そこに市場がある限り
vol.25 すいスイーツ
vol.24 妙に見晴らしのよい場所から見えること
vol.23 帯状疱疹ブルース
vol.22 隣の空き地は青かった
vol.21 戦前の首里の青春を偲ぶ
vol.20 君は与那原大綱曳をひいたか?
vol.19 蝉の一生、人の一日


過去のコラムは「コノイエプラス」へ


新城和博さんのコラム[カテゴリー:まち歩き 沖縄の現在・過去・未来]
ごく私的な歳時記 vol.30

新城和博

タグから記事を探す

この記事のキュレーター

キュレーター
新城和博

これまでに書いた記事:90

ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

TOPへ戻る