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新城和博

2025年7月10日更新

蝉が鳴かない夏|新城和博さんのコラム

ごく私的な歳時記Vol.127|首里に引っ越して30年ほど。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、季節の出来事や街で出会った興味深い話題をつづります。

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 今年の梅雨坊主は、気象庁にみつからないように、南西諸島のあちこちに隠れていたが、そろそろ見つかってもいいかなといった頃合いで顔を出したかと思うと、あっというまに北東あたりへ行ってしまった。

 夏到来ではあるが、毎朝の全国お天気ニュースを見ると南西諸島はほかの地域と比べると2、3度低かったりするのは、もう慣れっこになってしまった。日差しの強さは違うよ、やっぱり、と東京からやってきた友人は言う。避暑地と名乗ってもそろそろいいかもしれない。

 ぼくは去年から使い始めた日傘をくるりと回して、すこし退屈な夏の予感におびえたりする。



 そんな朝、なじみの鍼灸院の方からショートメールが届いた。ここしばらく仕事が切羽詰まり、身体がこわばっているのがわかるが、ぜんぜん通院する時間がない。助けてーと誰かに言いたかった、そろそろ針灸されたいと思っていたのだ。

「新城さん、今年は蝉がぜんぜん鳴いてません。どうしてでしょうか。教えてください」

 肩と腰と足の張りとは、まったく関係なかった。

 蝉のことはまったく詳しくないが、確かにぼくもうすうす感じていたのだ。蝉が鳴いてない。うちのすぐそばの森からも今年はあの轟音ともいえる蝉の大合唱が聞こえてこない。場合によってはヘビメタなみの音量でわしゃわしゃわしゃシャウトしている蝉たちの気配がしない。
 

 僕が泣けない理由は自分なりに思うところはあるが、今年の蝉が鳴かないことについてはそんなにこころ当たりはないと返事しておいた。

 ただし蝉って素数の周期で大発生する「素数ゼミ」って話があるけれど、あれは北米大陸かどこかの話であった。逆もあるのだろうか。いずれにせよ、原因は七、八年前にあるのだ。

 もっといえば蝉の周期は、沖縄戦にリセットされたのではないかという噂もある。80年前の沖縄戦によって壊滅的状態になったのは人間だけではなく、この島で共に生きている動植物、昆虫にもなんらかの影響があったかもしれない。あの夏の日、蝉は鳴いていたのかな。

 いずれにせよ、今年の夏は蝉が鳴かない分だけ早朝から午前10時半くらいまでは、例年より涼しく感じることは確かだ。それとなく気にしてみると、首里、那覇だけでなく、やはり沖縄島全体的に蝉は鳴いてないようだ。地上に出てから昔むかしのパンク・ロッカーのように生き急いでシャウトしていた蝉も、地球の温暖化により、省エネタイプのセミ世代が出てきて、静かに木陰で休み続けている、ということも考えられないこともない。
 

 どんなジャンルにも専門家はいるのだから、この謎についてあっさり答えたりするのだろうが、世間的にはまだまだあまり蝉が鳴いてませんよ問題は注目を集めていないようだ。

 しかしなじみの鍼灸院の方はなぜぼくにそんな質問をしたのだろうか。

 みなさんも今年の夏、日傘をくるくる回しながら、耳をすませてみてください。

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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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