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新城和博

2017年4月26日更新

浮島書店繁盛記 一日だけの本屋さん|新城和博のコラム

ごく私的な歳時記Vol.28|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、この20年も振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。



一日だけの本屋さん。なんてすてきな響き。4月のある土曜日、那覇の浮島通りで、本を通して知り合った友人たち数人で、ほんとうに開店した「浮島書店」という名前の本屋さん。

本の編集者という生業(なりわい)をしているのであるが、「趣味は読書」の人なので、本好きの友人や本屋さんの知り合いも何人かいる。ここ数年、老中(時代劇の人ではなく、「老後よりちょい前」という意味合いである)の楽しみとして、一箱古本市やら本を絡めた街歩きやら、仕事を少し抜きにして、那覇の町角でブックイベントを行っている。

浮島通りの人気オリジナルTシャツ屋「琉球ぴらす」のO(オー)さんが、それまでずっと借りていた木造のかわいらしい店舗を離れるということになり、すでに引き払っているのだけども、まだ1カ月ほどは借りているので、何かおもしろいイベントができるんだったら使っていいよと、誘われた。同じ浮島通りに移動した琉球ぴらすの新店舗にTシャツを買いに来ただけだったのに、そんなうりずんの風のような誘いに乗らない手はない、ということで、思いついたのが「一日だけの本屋さん」だった。

何事もいいだしっぺが面白い。面倒くさいが面白い。

その店舗は、通りにかつてたくさんあった木造2階の狭い間口の建物。いずれ取り壊されるということで引き払ったのではあるが、商品棚や照明などはそのまま使えるという、なんて都合のいい条件。

棚を調整し、台を置き、参加する古本屋さん、本もあい仲間らと前日に新刊、古書、愛蔵本を持ち寄り、並べてみたら、なんか昔からそこにあったかのように、ちょっとした老舗のこじゃれた本屋さんのたたずまいになった。やはり50年以上さまざまな店の店舗だっただけはある。どんな商品をおいても、店のたたずまいが包み込んでくれるのだろう。

浮島通りの名前にちなんで、集めた本のテーマはほんのりと「浮」と「島」。こじつけでもいいから、というので並べられた本を眺めてほぉと声がでる。沖縄の本、小説、絵本、詩集、随筆、とにかく一日だけ並べる本たちだから、一期一会的な棚なのだ。



せっかくだから本を浮かせて販売しようということで、天井からつるしてみた。テグスで結んだので、浮いているように見えなくもない。一人しか通れない狭い階段を上がる2階のスペースは、座り読みのコーナーをつくった。とっておきの古い雑誌を並べてみた。お宝は創刊1年ごろの70年代後半の「POPYE」、90年代那覇市が刊行していた雑誌。

一日だけの本屋さん「浮島書店」は口コミだけの宣伝だったけど、ネットでの拡散もあったのか、思いがけずたくさんの人が遊びに来てくれた。一日だけではもったいない、という言葉はくすぐったいが、こんな本屋さんが通りにあったらいいよね、というつぶやきには同感だ。いや僕のどぅーちゅいむにー(モノローグ)だったかもしれない。

本が並ぶと、人は足をとめる、時間を少し緩やかに使う。来店したお客さんはじっくりと本を眺めているようだ。気がついたお客さんは浮いている本を見上げたりする。壁には僕の趣味である那覇の古い地図をポスターの代わりに貼ってみたのだが、それには特に声を掛けられなかった。しかたないので、なんとなく古い物好き、もしくは街歩き好きそうなお客さんに声をかけて、説明する。このあたりが一日だけの本屋さんのよいところで、リピーターの評判を気にしないのだ。午後2時から浮島書店界隈(かいわい)を、古地図片手にお客さんと一緒に街歩きもできたからよしとしよう。



2階の座り読みコーナーはなかなか降りてこない人が続出した。青春がそこにあったようなのだ。雑誌は、泡盛と同じように、古くなるとおいしく味わえるのである。

何故か夕方のテレビニュースで取り上げられたこともあって、浮島書店は夜7時の店じまいまで客足は途切れなかった。約束通り、一日だけの本屋さんは、その日のうちに店をたたんだ。片付けられた店内は不思議と暖かさに包まれていた。僕たちはとても満足した。いつか誰かが「そういえばこのあたりに本屋さんがあったよね」とつぶやいたら、もう完璧である。




 

<新城和博さんのコラム>
vol.34 かつてここにはロマンがあった
vol.33 夏の終わりのウッパマ
vol.32 ちょっとシュールでファニーな神さま
vol.31 セミシャワーと太陽の烽火
vol.30 甘く香る御嶽かいわい
vol.29 松の浦断崖と田園段丘の旅
vol.28 一日だけの本屋さん
vol.27 春の呑み歩き
vol.26 そこに市場がある限り
vol.25 すいスイーツ
vol.24 妙に見晴らしのよい場所から見えること
vol.23 帯状疱疹ブルース
vol.22 隣の空き地は青かった
vol.21 戦前の首里の青春を偲ぶ
vol.20 君は与那原大綱曳をひいたか?
vol.19 蝉の一生、人の一日


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新城和博さんのコラム[カテゴリー:まち歩き 沖縄の現在・過去・未来]
ごく私的な歳時記 vol.28

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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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