蝉の一生、人の一日|新城和博のコラム|fun okinawa~ほーむぷらざ~

沖縄で暮らす・食べる
遊ぶ・キレイになる。
fun okinawa 〜ほーむぷらざ〜

沖縄の魅力|スマイリー矯正歯科

COLUMN

新城和博

2016年7月22日更新

蝉の一生、人の一日|新城和博のコラム

ごく私的な歳時記 Vol.19
首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、この20年も振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。

新城和博さんのコラム


毎年聞いているはずだが、今年は特ににぎやかに感じる蝉(せみ)の声。

いや、はっきりいえば、うるさいとまで感じる。

いつもの年の蝉声が「しゃかしゃかしゃかしゃじわわ」くらいだとすると、今年は「しゃかにかしゃかにかしゃかにかしゃかにしゃかにかじわわわわー」くらいの違いはある。

ある種の蝉の大量発生には周期があると聞いたことがあるが(周期ゼミというやつ)、沖縄でもなにかしらローカルな周期があったりして。

蝉の成虫の期間は1週間ほどらしいが、それはきっと鳴き過ぎて体を悪くした結果に違いない(雄しか鳴きませんが)。もし自分が蝉だったとしたら、あんなには鳴かないな、きっと……寝不足になると、どうでもいいことを考えがちだ。

首里の森のそばに住んでいるので、朝、窓をあけるとダイレクトに蝉の声が飛び込んでくる。体全体で「しゃかにかしゃかにかしゃかにかしゃかにたじわわわわー」を受け止める。まるでセミシャワーだ。目が覚めた。

それにしても今年は蝉の鳴き始める時間が早いのでは? 午前5時くらいから鳴いているような……。弁当、朝ご飯の担当の週は、どうせ早起きしないといけないので気にならないのであるが。あけもどろの東の空を眺めつつ蝉の合唱を聞いて一日が始まる、と思えば、まぁ優雅なものかもしれない。

毎年関心するのは、あんなに鳴く蝉が、午前10時近くになると、次第に静かになっていくことだ。沖縄でいうところの「10時茶(ジュウジチャー)」の休憩である。

ごう音ロックバンドのような蝉のじゃかじゃかじゃかじゃかに後押しされて、今日も夏の一日が始まる。仕事だ、仕事だ、締め切りだ。

(……勤務中……)


新城和博さんのコラム


夕方、西の海に沈む夕日を思い浮かべつつ、夏のダイナミックな赤々とした夕映え広がる首里の空を見上げる。森の傍らからはどこの海も見えない。

仕事から戻り、家の窓を全て開けて風を呼び込み、洗濯物を取り入れ、家の植栽に水掛けする。庭のクルチ、黒檀(こくたん)の木に、ホースでスプリンクラーのごとく水を噴射したら、「じわっ」と蝉が飛び出してきた。びっくりさせてしまったようだ。精根尽きるまで鳴いて一日を終わり、静かに休んでいたところだったはず。仕事終わりの一杯、樹液でもすすっていたことだろう。「じじゎ」の声もか細い。なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

じわっと飛んでいった蝉よ、同じように、今日一日、僕もそれなりにがんばって働いてきたんだよ。しばしの休息ののち、また明日もがんばろう。結局鳴き続けるしかないのだ、僕たちは。

夏の蝉と人の暮らし、実はそんなに違いがないかもしれない。夏ばてしてくると、いろんなことを考えるもんだなぁ。


 

<新城和博さんのコラム>
vol.34 かつてここにはロマンがあった
vol.33 夏の終わりのウッパマ
vol.32 ちょっとシュールでファニーな神さま
vol.31 セミシャワーと太陽の烽火
vol.30 甘く香る御嶽かいわい
vol.29 松の浦断崖と田園段丘の旅
vol.28 一日だけの本屋さん
vol.27 春の呑み歩き
vol.26 そこに市場がある限り
vol.25 すいスイーツ
vol.24 妙に見晴らしのよい場所から見えること
vol.23 帯状疱疹ブルース
vol.22 隣の空き地は青かった
vol.21 戦前の首里の青春を偲ぶ
vol.20 君は与那原大綱曳をひいたか?
vol.19 蝉の一生、人の一日


過去のコラムは「コノイエプラス」へ


新城和博さんのコラム[カテゴリー:まち歩き 沖縄の現在・過去・未来]
ごく私的な歳時記 vol.19

新城和博

タグから記事を探す

この記事のキュレーター

キュレーター
新城和博

これまでに書いた記事:90

ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

TOPへ戻る