ヘルスケア
2025年10月16日更新
謝罪メールを急かす上司、なぜか送らない部下 臨床心理士が説く、職場での「すれ違い」を防ぐ術|こんな時どうする?大人の発達凸凹(でこぼこ)㉛
文・金武育子
office育子 代表

発達凸凹の困りごとあるある
反応に困る、付き合いにくい
発達凸凹(神経発達の特性にばらつきがある)の方との関わりにおいて「付き合いにくさ」を感じることがあるのは、単にその人の性格や態度の問題ではなく「認知や感覚」、「コミュニケーションのスタイル」が異なることによる「すれ違い」が原因であることが多いようです。
頭で分かっていても驚いてしまい反応に困ることも多いのではないでしょうか? 私は最近ドラマを見ていて、そんな体験をしました。状況はこうです。上司が、部下に対して「早急に対応をお願いしていた謝罪メールを先方へ送ったのか?」と聞きます。すると部下の女性は、「ああ、まだですけど、私のアイデアを形にする方が優先ですよね」と取引先を軽んじる発言をし、挙げ句「わくわくする仕事をしたいじゃないですか!」と。ここで、「謝罪が最優先でしょう!」と思った方が一定数いらっしゃるのではないでしょうか? 私がこの上司だったら、私の世代性や性格からして言っていたかもしれない、と思いました。それこそ、かぁっと頭に血が上って…。
さて、この部下の女性は、凸凹を持っているのでしょうか? それとも世代性なのでしょうか? 劇中の上司の女性は、冷静に「あなたの気持ちは分かるけど、大切な顧客へのミスを謝罪することは、とても大切な仕事なので後回しにしないでください」と伝えます。ずいぶん大人な反応だな、と思いました。そして、この対応はとても有効なものなのです。でも、何か引っかかっていたのも事実です。この上司の言葉だけで感じ取って動けるのだろうか? 大切なのは、「お互いに相手を思いやる気持ちを忘れずに、双方向でお互いの思いを伝えること」なのではないでしょうか? 上司は、「どうして謝罪を後回しにしたのか、相手を尊重しない態度は間違っていること」を伝えた上で部下の話を聞き、彼女がしたいわくわくする仕事について話し合うとよかったのではないでしょうか。
発達の凸凹のある方もそうでない方も、同じ職場でそのキャリアに合った成果を期待されて働いています。上司が部下に注意することや指導すること、時に擁護することも役割に見合った「仕事」なのです。そこに、「認知や感覚」、「コミュニケーションのスタイル」が異なることによる「すれ違い」が原因となって困った事態が隠れているのなら、「困った」と思わせる相手をよく見て理解し、適切な対応を行うことは改善への近道です。そして一番大切なのは、決めつけや思い込みといったひずみのないまっすぐなやりとりなのかもしれません。前述のドラマの場合、上司は「謝罪が後回しになっているのは違うと思う」「物事を進めていくための適切な順番が守られていなければより良い仕事はできないと思うよ」と声を掛ければなお良かったのではないでしょうか。

お互いを思いやり、気持ちを伝える
決めつけ 思い込み排し
相互理解を
世代性の課題もわれわれの「仕事」に影響しています。Z世代と言われる1997~2012年生まれの彼らは、デジタルネーティブで、合理性・多様性・承認欲求を求める傾向をもっています。彼らの価値観を理解し、丁寧に関わることで、むしろ高いパフォーマンスが期待できることを認め、明確な説明・フラットな関係・個別対応が鍵となることを意識して付き合うことが推奨されます。これに加えて発達凸凹の問題が見られる場合は、「無駄がなく効率が良い事、納得のいく内容を求め、おのおの個別対応されること」を強く求める傾向があります。
前述のドラマの顛末(てんまつ)としては、上司も若い頃はわが道を突き進むタイプだったため、より共感できた、というものでした。だからこそ、承認欲求を満たし、個別対応を心掛ける、ということを実践できているのでしょう。「仕事」は、同じ目的のために力を合わせて働き、成果を求められるものです。だからこそ、なぜ驚いて反応に困ったのか、双方の思いや疑問を率直にやりとりして相手を理解すること、決めつけや思い込みから脱却して向き合うことが役に立つのではないでしょうか?

文・金武育子
office育子 代表
きん・いくこ/1970年、那覇市首里生まれ。10代の2人の息子を通して人生と向き合う中年期クライシス体感中。臨床心理士・国際交流分析士。大学講師、office育子 代表。好きな言葉は「人は必ず発達する」「人間、この未知なるもの」
記事に関する問い合わせは、office.ikuko@gmail.com
これまでの記事はこちらから。
『週刊ほ〜むぷらざ』こんな時どうする?大人の発達凸凹
第1992号 2025年10月16日掲載