ヘルスケア
2025年11月20日更新
注意がそれやすい、依頼や指示をすぐ忘れる…臨床心理士が考える、発達凸凹の大人と周囲のメリットになる対策とは|こんな時どうする?大人の発達凸凹(でこぼこ)㉜
文・金武育子(office育子 代表)

発達凸凹の困りごとあるある
注意力に関する問題
周りと協力して成功体験を重ね成長
大人の発達凸凹のある方の課題としてよく取り上げられる「注意」について考えてみたいと思います。職場においては、特に問題視されやすいテーマであり、あらためて何が起こっているのかを検討してみたいと思います。
1.注意がそれやすい
周囲の音や動き、頭の中の考えなどに気を取られやすく、目の前の作業に集中し続けるのが難しいことがあります。
背景…脳の「注意をコントロールする機能」が不安定なため、意図せず注意が移ってしまうことがあります。しかし、本人の努力不足ではありません。
対応策…静かな環境を整えること、短時間で区切ること、視覚的な手がかりを使うことが有効です。
2.依頼や指示を忘れる
「○○してね」と言われても、すぐに忘れてしまったり、途中で何をするか分からなくなったりすることがあります。
背景…「作業記憶」が弱い傾向があり、情報を一時的に記憶しておく力が不安定です。
対応策…メモやチェックリストを活用する。一度に一つずつ伝えるようにする。繰り返し確認するようにすることが効果的です。
3.同じ注意を何度も受ける
「また忘れてる」「また間違えてる」と、同じことを何度も注意されることがあります。
背景…本人も「気をつけよう」と思っていても、脳の特性上、同じミスを繰り返してしまうことがあります。意識の問題ではなく、習得に時間がかかることもあります。
対応策…叱るより「どうすれば防げるか」を一緒に考えること、成功体験を積ませることが重要です。
4.ケアレスミスが多い
計算や書き取りなどで、うっかりミスが頻発します。
背景…注意の持続や確認の力が不安定なため、細かい部分を見落としやすくなります。能力が低いわけではありません。
対応策…ダブルチェックの習慣を身につけること、「見直しポイント」を明示することが有効です。
5.物事にのめりこむ
興味のあることには驚くほど集中し、時間を忘れて没頭することがあります。
背景…「注意の切り替え」が苦手なため、好きなことに注意が固定されやすく、他のことに移るのが難しくなります。
対応策…時間で区切るようにする、タイマーを使用する、切り替えの合図を決めておくことが効果的です。

大切なのは「責める」より「仕組みで支える」ことです。発達凸凹の方の「注意」の課題は、「怠け」や「わがまま」といった個人の努力や能力が原因なのではなく、脳の機能の問題であることが多く、周囲の方の理解と協力が円滑な作業につながる可能性が高いものと考えます。「どうすればうまくいくか」を一緒に考え、環境や伝え方を工夫することで、本人の力を引き出すことができます。責められると萎縮して、ますます「注意」の課題が深刻化することが懸念されます。対応策の実行に協力し、成功体験を積み重ねることが本人にとってだけではなく、周囲の方々にとってもメリットになると思います。
一方で、能力や努力のせいではなく自分はこういう人間なのだと、全てを発達の特性のせいにするのは、大きな問題です。人は必ず成長します。周囲の協力に感謝して、社会人としての責任を果たすために成長し、成功体験を積み重ねながら、ともに歩んでいけたら前を見ることができるのではないでしょうか。

文・金武育子
office育子 代表
きん・いくこ/1970年、那覇市首里生まれ。10代の2人の息子を通して人生と向き合う中年期クライシス体感中。臨床心理士・国際交流分析士。大学講師、office育子 代表。好きな言葉は「人は必ず発達する」「人間、この未知なるもの」
記事に関する問い合わせは、office.ikuko@gmail.com
これまでの記事はこちらから。
『週刊ほ〜むぷらざ』こんな時どうする?大人の発達凸凹
第1997号 2025年11月20日掲載














