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2023年12月21日更新
アルコールだけ? 肝機能の異常|そろそろ本気で! 生活習慣病予防⑨
脂肪肝などの肝臓に脂肪がたまることで肝機能障害を起こす「脂肪性肝疾患」は、お酒の飲み過ぎが原因の一つとして挙げられるが、お酒をあまり飲まない人にも近年増えているという。そうした「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」のリスクなどを専門家に聞いた。
肝細胞が壊れる がんのリスクも
肝臓病というとお酒の飲み過ぎが原因というイメージがあるが、かいせいクリニック院長の山城剛医師は「飲酒が要因でない脂肪性肝疾患の主な要因は食べ過ぎなどの生活習慣による肥満。放っておくと肝がんに至るおそれがあります。肝機能の検査項目であるALTが30を超える人は要注意」と呼び掛ける。
ドクターから
山城 剛 さん
かいせいクリニック院長
日本肝臓学会専門医・指導医。日本内科学会総合内科専門医。2018年に同院を開院
Q1 NAFLDって何?
A 肝臓に蓄積した脂肪が悪さ
普段あまりお酒を飲まない人が発症する脂肪性肝疾患を「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」といいます。NAFLDは健診受診者の3割が該当するといわれています。患者の9割は肝臓に脂肪がたまって肝機能が低下する「非アルコール性脂肪肝(NAFL)」で、残りの1割はその脂肪肝が進行して肝臓が炎症を起こす「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」です=下図参照。
NAFLDの要因は食べ過ぎや運動不足による肥満。それによって肝臓に脂肪がたまり過ぎると、脂肪を分解する時に生じる酸化物質が悪さをして炎症を起こし肝細胞がダメージを受けて壊れていきます。毎年、そうしてNASHになった人の5~20%が、肝細胞が壊れて線維化する「肝硬変」になっています。
NAFLDは割合としては男性が多いですが、女性は閉経後に女性ホルモンの関係で発症する人が増える傾向があるので、その年代の人は特に注意が必要です。
Q2 肝臓の線維化とは?
A 壊れた肝細胞が元に戻らなくなる
肝臓の炎症が続いて肝細胞が壊されていくと、そこを埋めるためにゴムのような物質(線維)が分泌されます。いったん線維化すると元通りにはならず、働ける細胞が減っていくので、その段階で治療してもまた徐々に肝障害を引き起こします。ですから、線維化が進む前に予防や治療を心掛けましょう。
FIB-4 indexと呼ばれる方法でも線維化の進み具合はある程度予測できます。年齢・ALT(肝機能検査の項目の一つ)・AST(同)・血小板数の値から計算して、FIB-4の値が1.3以下は線維化がない、2.6以上は肝硬変、その中間は線維化の恐れがあると分かります。値を入力して自動で計算できるサイトがあるので、気になる人は日本肝臓学会のHPを参照してみてください。
Q3 どんな症状やリスクがある?
A 乳がんや大腸がんの恐れも
肝臓は体に必要な栄養を合成したり、有害物質を無毒化したりする機能を持つ大事な器官です。肝機能の低下は健康に悪影響を与えますし、肝硬変に至って肝臓の線維化が進むとがんになりやすくなるといわれています。年間で肝硬変の患者の2%が肝がんになっています。また、肝がんだけでなく大腸がんや乳がんのリスクも高まるといわれています。
また、NAFLDの患者には血圧が高い人が多く、放っておくと糖尿病や脳卒中、心疾患になる人が多いことも分かっています。
肝硬変に至る要因はいくつかありますが、B型肝炎などウイルスによるものが全体の割合としては多く、過剰飲酒によるものは25%、NAFLDは10%となっています。しかし、近年飲酒とNAFLDの割合は増え続けており、今後は半分以上を占めるだろうといわれています。
Q4 予防のために目安になるものは?
A ALTが30超えたら注意
自覚症状はあまりなく、エコー検査でも脂肪がだいぶ増えてからでないと判別が難しいです。そのため、健康診断で行われる肝機能検査の項目の一つ、ALT(肝細胞に多く含まれる酵素で肝細胞が死滅すると増える)の値をチェックするといいでしょう。ALTが30を超える人は要注意。その値からNAFLDを発症している人が多くみられます。
肥満度を表す体格指数であるBMIも一つの目安になります。BMIが25を超えると肥満と定義されますが、BMI25~28未満で60%の人が、28~30未満で80%の人が、30以上で90%の人がNAFLDを発症しているといわれています。また、BMI25未満の人で15%、標準体重とされる22で10%以下ではありますが、一見痩せてみえる人でもNAFLDを発症している場合があるので、前述のALTと合わせてみる必要があります。
県内の現状としては、BMIの平均値が40歳~75歳の男性で25.2、女性で23.7と男女とも全国ワースト(2019年)、すべての年代で全国平均を上回っています。BMI25以上の人の割合は男性で47.5%、女性で31.9%になっており、それだけNAFLDを発症している人が多いと思われます。
Q5 予防のポイントは?
A 体重の7%を減量
まずは体重を減らすことが肝心です。7%の減量で肝障害がおさまり、ALTが下がっていくことが分かっています。そのためには適切な量の食事と適度な運動が大事です。食事は栄養のバランスもそうですが、まずは摂取カロリーを抑えることから始めましょう。目安としては1日の摂取カロリーをだいたい「30×標準体重(22×身長×身長※単位は㍍)」kcalにおさめることを意識するといいでしょう。運動はウオーキングなどの有酸素運動と筋トレなどの無酸素運動、どちらも推奨されています。
また、節酒も大事。お酒はカロリーが高いだけでなく、アルコールを分解した時に生じるアセトアルデヒドの毒性によって肝細胞がダメージを受けます。アルコールの1日の適量は20gといわれています。ビール(アルコール度5%)は500ml、泡盛(同25%)でコップの半分(100ml)に相当します。
肝臓の主な働き
・食べ物から摂取した栄養素を体にとって必要な形に作りかえる。ブドウ糖をグリコーゲンに変えて貯蔵、血液や筋肉の材料になるタンパク質を合成、コレステロールを合成、余分な糖質・脂質を中性脂肪に変える働きもある
・要らないものを胆汁にして腸に排出する。胆汁は腸で食べ物(主に脂質)の消化吸収を助ける働きがある
・アルコールなど有害物質の解毒
県内の中高年の BMI25・30の割合
グラフは40~74歳の男女別にBMI25以上と30以上の割合を年ごとにまとめたもの。男女とも全国の割合を上回っていることが分かる。特に男性はBMI25以上が4割以上と多い。 参考・健康おきなわ21より令和元年度沖縄県の特定健診(検査項目・標準的な質問票)の状況
取材/池原拓
毎週木曜日発行「週刊ほ〜むぷらざ」そろそろ本気で!生活習慣病予防⑨
第1898号 2023年12月21日紙面から掲載