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2023年10月19日更新
意外と知らない脂質異常|そろそろ本気で! 生活習慣病予防⑦
近年、県内の健診結果では脂質異常の割合は男性4割、女性2割。脂質は悪者に見られがちだが体にとって大事なもの。でも、血液中の脂質の量が基準値から外れている状態である脂質異常症は、放っておくと体に悪影響を及ぼします。専門家にそのリスクや予防について聞きました。
動脈硬化が進行 自覚症状もなく
血中脂質は増え過ぎても減り過ぎても自覚症状のないまま動脈硬化を進行させる。県医師会理事の砂川博司医師は「運動不足は体の余分なコレステロールを回収するHDLコレステロールを減少させ、動脈硬化の進行につながる」と指摘する。県栄養士会理事の山里瑠美さんは「野菜が脂質の吸収を抑えるのでしっかりとろう」とアドバイスした。
ドクターから
砂川博司さん
(一社) 沖縄県医師会 理事
医療法人貴和の会 すながわ内科クリニック院長。糖尿病専門医。腎臓専門医
脂質異常になりやすいのは?
運動不足も要因に
脂質異常症のリスクについて砂川医師は「血中脂質の主なものはコレステロールと中性脂肪。悪玉コレステロールと呼ばれ悪者扱いされますが、どちらも体にとって重要なもの=左囲み参照。しかし、増え過ぎたり減り過ぎたりすると、自覚症状もないまま動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが高まります」と説明する。
体にコレステロールを運ぶ働きをするLDLコレステロールが増え過ぎると血管の内壁に入り込んで蓄積し、プラークと呼ばれるこぶ状になって血管の内壁が厚く硬くなる(動脈硬化)。それが進行すると血流を妨げて心疾患などを引き起こすという。「近年の研究では、中性脂肪の増え過ぎも要因であることが分かっています。また、体の余分なコレステロールを回収する働きを持つHDLコレステロールの減少も動脈硬化の進行につながります」。
血中脂質の種類と働き
LDLコレステロール
・細胞膜やホルモン、胆汁酸などの原料になるコレステロールを体に運ぶ働きをする
・診断の基準値は140㎎/dl以上。増え過ぎると動脈硬化を進行させるため、悪玉コレステロールともよばれる
HDLコレステロール
・体の余分なコレステロールを回収する働きをする。そのため善玉コレステロールとも呼ばれる
・診断の基準値は40mg/dL未満。減り過ぎるとコレステロールの回収が滞り動脈硬化の進行につながる
中性脂肪
・体のエネルギー源になる
・基準値は空腹時で150mg/dL以上、随時で175mg/dL以上 ※10時間以上の絶食を「空腹時」とする
※コレステロールは、食べ物からも吸収されるが、大部分は糖質・脂質などを原料に肝臓で合成される。中性脂肪も同様に糖質・脂質から合成されるので、栄養バランスのとれた食事が大事
動脈硬化の例
プラークが大きくなって血管内が狭くなり動脈硬化が進行する
プラークが大きくなる途中で破けて、そこに「血栓」ができて、血管が詰まることがあり、脳梗塞や心筋梗塞に至るおそれがある
更年期の女性も注意
県内の2022年度の健診結果を見ると脂質異常の割合は、中高年の男性で42.2%(全国ワースト2位)と、全国平均の36.6%を上回る。砂川医師は「脂質異常症の原因は遺伝的な体質に加えて、食べ過ぎやアルコール類の飲み過ぎ、運動不足などの生活習慣。動物性脂肪の取り過ぎはLDLコレステロールを増加させ、運動不足はHDLコレステロールを減少させます。沖縄は戦後いち早く食の欧米化が進み、ファストフードやランチョンミートなどの加工食品が好んで食されること、車社会で運動をしないことなどが理由として考えられます」と指摘する。また、喫煙はタバコの有害物質が血管を傷つけることで動脈硬化の要因となるという。
予防のポイントとして、食べ過ぎやアルコール類を控えること、そして適度な運動が大事と砂川医師は説く。「1日8000歩程度が目安だが、日常生活の中で活動量を増やすことも意識しましょう。例えば、テレビを見ながらその場で足踏みしたり室内を歩き回ったりするのも一つの方法。とにかく続けることが大事なので、ウオーキングは歩数や時間にこだわり過ぎず、その日の体調や気分に応じて無理をしないのがこつです」。
更年期の女性も脂質異常症には注意が必要だという。「この年代から血中脂質の上昇を抑える女性ホルモンの分泌が低下し、年齢が進むほど心疾患が増加する傾向が見られます。食事に気をつけ、積極的に運動をしましょう」
県内の中高年の脂質異常の割合
グラフは40歳~74歳の男女別の健診結果をまとめたもの(資料提供・全国健康保険協会沖縄支部)。男女ともに全国平均より高く、特に男性はワースト2位が続く
管理栄養士から
山里瑠美さん
(公社)沖縄県栄養士会 理事 栄養ケアステーション担当
訪問栄養相談 認定栄養ケア・ステーションいのり、糖尿病内科あずさクリニックに勤務。沖縄調理師専門学校講師
予防のためには?
野菜で脂質の吸収抑える
予防のポイントとして山里さんは「糖質や脂質、タンパク質など栄養のバランスを取るのが大切ですが、特に野菜をしっかりとること。野菜に含まれる食物繊維は食事でとった脂質が小腸で吸収されるのを抑えたり、脂質を吸着して体外に排出したりする働きがあります」と説明する。
また、野菜に含まれるビタミンの抗酸化作用によって血管の劣化を抑え、動脈硬化の予防にもつながるという。「ゴーヤーやハンダマ、カラシ菜など沖縄で昔から食べられてきた野菜はビタミン豊富なものが多いので積極的に取り入れて」とアドバイス。玄米も食物繊維が豊富で低糖質なのでおすすめだという。
中性脂肪を増やさないようにするには食事の量を適正に保つのはもちろん、アルコールの飲み過ぎにも注意が必要だという。「アルコール類は糖質や脂質よりも優先してエネルギーとして消費されるので、その分使われなかった糖質や脂質が中性脂肪として過剰に蓄えられます」。また、洋菓子や菓子パン、糖度の高い果物など糖質の取り過ぎにも注意が必要で、特に清涼飲料水には砂糖がたっぷり入っているので控えた方がいいという。
「肉などの動物性脂肪に偏った食事はLDLコレステロールの増加につながる。LDLコレステロールを減少させる働きがある魚や豆腐も食べましょう。間食や飲酒をする場合はエネルギーオーバーにならないよう意識して」と呼び掛ける。
1日に必要な野菜は350g
沖縄の野菜はビタミン豊富
ハンダマ100gあたりのビタミンAは408mg
※1日の目安量は650~900mg
ゴーヤー100gあたりのビタミンCは76mg
※1日の目安量の目安は85~100mg
カラシ菜100gあたりのビタミンEは3mg
※1日の目安量の目安は6~7mg
アルコールは適量に!お酒ごとの目安
アルコールの1日の適量はカロリーにして160カロリー。これはおにぎり1個分に相当する。山里さんは「アルコールには栄養がなく糖質などの代わりにはならないので、お酒を飲むからその分ご飯を食べないは間違いです」と説明する。
毎週木曜日発行・週刊ほ〜むぷらざ
そろそろ本気で!生活習慣病予防⑦
「第1889号 2023年10月19日紙面から掲載」