ヘルスケア
2025年7月3日更新
負担の少ない乳房温存手術|身近な病気もっと知ろう 家族の医学手帳(133)
家族の健康が気がかりな「ほーむさん」が専門のドクターを訪ね、気になる病気について聞くこのコーナー。今回は乳がんの3回目として乳房温存手術にスポットを当て、ハートライフ病院乳腺外科センター長の柏葉匡寛先生に話を聞きます。
乳がん③
負担の少ない乳房温存手術
乳がんの大きさが3センチ以下で単発の場合に適用となる、乳房を部分的に切除する手術法です。昔は乳がんの手術というと、いわゆる全摘と呼ばれる乳房全体を切除する手術が多かったのですが、女性としてボディーイメージを大切に考える方も多く、乳房温存手術を希望する患者が増え、2005年のデータでは全摘手術42%に対し温存手術は54%と過半数に達しました。しかし、20年になると全摘手術54%に対し温存手術は43%とやや減少傾向にあります。

手術用のナイロンの糸で網目状の足場を作り、皮膚を縫合する「スーチャースキャホールド法」。網目によってくぼみ部分がへこむのを防ぎ、患者自身のリンパ液などの体液で満たされることで組織の再生を促す技法で、患者にとって非常に負担が少なく、全国でも広まってきているとのこと。
従来は術後のくぼみを寄せ合わせて縫合していたのですが、それだと日本人の場合、乳房の形が変化しやすいため、この新技術はとても適していると思います。
この方法を用いて私が手掛けた手術は、以前に勤務していた病院での症例も含めるとすでに500件を超え、手術時間はリンパ節摘出を含め1時間もかかりません。全国から乳腺外科医がこの手技の見学に来てくれましたので、全国でも広まってきています。現在、この術式確立のための研究にも力を入れており、確かなエビデンスを確立したいと考えています。
次回は、乳がん全摘後の再建手術について聞きます。
負担の少ない乳房温存手術
くぼみをカバーする新たな手術も
手術の43%は乳房温存
Q1 乳房温存手術とは?
乳がんの大きさが3センチ以下で単発の場合に適用となる、乳房を部分的に切除する手術法です。昔は乳がんの手術というと、いわゆる全摘と呼ばれる乳房全体を切除する手術が多かったのですが、女性としてボディーイメージを大切に考える方も多く、乳房温存手術を希望する患者が増え、2005年のデータでは全摘手術42%に対し温存手術は54%と過半数に達しました。しかし、20年になると全摘手術54%に対し温存手術は43%とやや減少傾向にあります。Q2 メリットとデメリットは?
乳房温存手術の最大のメリットは、患者本人の乳房が残ることです。ボディーイメージが変わらず、胸の左右のバランスが大きく変化しないので術後も動きやすく、人工的に再建した乳房とは異なり乳房が軟らかく温かいといった特長があげられます。デメリットとしては、全摘に比べると5%程度の局所再発と追加切除の可能性があること、術後に再発リスクを下げるために温存乳房への放射線療法が必要になることです。ちなみに乳房温存手術で再手術となる可能性は5%以下、術後の放射線療法によって再発リスクを半分程度に減少させるので、お勧めしています。Q3 術後の乳房をより自然にできる?
乳房温存手術では乳がんのしこりから15~20ミリ離して乳腺組織を切除するため、乳房にくぼみができてしまうのですが、当院ではほとんどの場合、手術用のナイロンの糸で網目状にくぼみを縫合してから皮膚を閉じる「スーチャースキャホールド法」という新技術を用いています。これは私が医療研修を受けていた米国のMDアンダーソンがんセンターで2010年に発表された方法で、網目によってくぼみ部分がへこむのを防ぎ、くぼみが患者自身のリンパ液などの体液で満たされることで組織の再生を促す、患者にとって非常に負担が少ない技法です。手術後のくぼみをカバーするスーチャースキャホールド法

手術用のナイロンの糸で網目状の足場を作り、皮膚を縫合する「スーチャースキャホールド法」。網目によってくぼみ部分がへこむのを防ぎ、患者自身のリンパ液などの体液で満たされることで組織の再生を促す技法で、患者にとって非常に負担が少なく、全国でも広まってきているとのこと。
従来は術後のくぼみを寄せ合わせて縫合していたのですが、それだと日本人の場合、乳房の形が変化しやすいため、この新技術はとても適していると思います。
この方法を用いて私が手掛けた手術は、以前に勤務していた病院での症例も含めるとすでに500件を超え、手術時間はリンパ節摘出を含め1時間もかかりません。全国から乳腺外科医がこの手技の見学に来てくれましたので、全国でも広まってきています。現在、この術式確立のための研究にも力を入れており、確かなエビデンスを確立したいと考えています。
◆ ◆ ◆
次回は、乳がん全摘後の再建手術について聞きます。

柏葉匡寛さん/ハートライフ病院乳腺外科センター長
かしわば まさひろ/ハートライフ病院乳腺外科センター長
医師、医学博士。日本乳癌学会専門医・指導医、日本外科学会専門医、日本オンコプラスティックサージェリー学会評議員・施設責任医師、日本がん治療認定医機構がん治療認定医。モットーは「世界的な標準治療を安全かつ高いレベルで提供する」
社会医療法人かりゆし会 ハートライフ病院
電話098-895-3255
沖縄県中城村字伊集208番地
文・堀基子(ライター)
『週刊ほ〜むぷらざ』 家族の医学手帳<133>
第1977号 2025年7月3日掲載