彩職賢美
2016年12月15日更新
[彩職賢美]女性内科「オレンジ」院長の冨着泉さん|女性が相談しやすい病院に
「女性が相談しやすい場所に」と2015年10月、沖縄市に女性内科「オレンジ」を立ち上げた医師の冨着泉さん(41)。スタッフすべてが女性だ。一般内科だが、妊娠の影響で血糖値が高くなり、産後も糖尿病を発症しやすくなる「妊娠糖尿病」など、生活習慣病のケアに力を入れ、講座も開く。患者と距離が近い離島勤務を経て、「患者の背景を見る」ことを大切にしてきた。
女性が相談しやすい病院に
医師
女性内科「オレンジ」院長
冨着 泉さん
短髪にノーメーク。「気軽に何でも相談してほしい」と話す冨着さん。ざっくばらんな雰囲気に、親近感が湧く。
昨年、女性内科をオープンした。一般内科の診療のほか、高血圧や高コレステロール、糖尿病などの生活習慣病の診療に力を入れ、薬の処方や食生活、生活習慣のアドバイスを行う。中でも特に力を入れているのが妊婦の7~10%が発症する「妊娠糖尿病」のケアだ。あまり知られておらず、産後は対策がおろそかになることが多いという。
「産後、授乳中は血糖値が下がっても、再度上がることがある。妊娠糖尿病と診断されたら、半年に1度は検診に来てほしい」。妊娠糖尿病の患者に初めて接したのは、研修医2年目。妊娠中、1型糖尿病を発症した患者だった。その後、自身が妊娠・出産後、「とにかく時間がない。眠れない」と子育ての大変さを実感。その患者がオーバーラップした。「ただでさえ不安で時間が無い時期に、インスリンを打ったり血糖値を測ったり。どんなに大変だっただろう」。開院の際、妊娠糖尿病をケアしたいと、内科を開くことに決めた。
「糖尿病は症状が進むと視力や手足を失うこともあるが、早めに受診すれば薬や生活習慣の改善で血糖値をコントロールできる。赤ちゃんが『お母さんは糖尿病になりやすいよ』と教えてくれているんです。そのサインを見逃さないで」と力を込める。
渡名喜島出身。小学4年生のころ母が出産のため本島で長期入院したことや、女医のドラマを見て、医師への関心を高める。中学校の卒業式で「医者になって島に戻ってくる」と宣言し、父親を驚かせた。
中学を卒業後、難関の私立高校、自治医科大学へ進学した。どちらも塾に通わず、独学でやり遂げた努力の人だ。「離島で診療したかったので、絶対に自治医科大学へ行こうと思っていた。高校では成績優秀ではなかったので、食べる・寝る以外はずっと勉強でした。二度と戻りたくないですね」とさらりと笑う。
大学で学び、念願の医師へ。最もきつかったのは、27歳、初めて離島の診療所に勤めた時だった。島には医師1人、ナースも一人。「経験の少ない中、全島民を一人で背負う責任感に押しつぶされそうになった」。昼夜、休みも関係無く電話がくる。早産の妊婦が産気づきドクターヘリで本島へ向かったり、呼ばれて家に行くと未熟児が産まれてしまっていたことも。教科書通りに行かないことだらけで、医師としても人としても、力不足を痛感した。「知識だけでなく、人の気持ちに添うことの大切さに気付いた」と、学びは大きかった。後に出身である渡名喜島の診療所にも勤めて看護師である母と一緒に働き、学生時代の宣言を現実にした。「若い医師を快く受け入れてくれた島の方々に、感謝しています」。
これまで長時間勤務もある総合病院などハードな現場も多く「医師は体力勝負」と言う。そんな中、支えになったのは患者からの「ありがとう」だ。「話しやすく、診断と治療は的確に」をモットーに、今日も患者に向き合う。
甲子園に熱狂!
野球好きな冨着さん。「栄冠は君に輝く」(夏の全国高校野球選手権大会の歌)を聞くと、うるっとするほどの甲子園好き。特に印象深いのは、2010年に興南高校が春夏連覇をした時(写真)は当時の沖縄タイムス号外(同社提供)。「二度とないかもしれない」と、選手たちを迎えるために那覇空港へ行き、「おめでとう!ありがとう!」と声援を送った。「選手たちは輝いていました」と振り返る。スポーツに励まされることは多いという。
女性が働きやすい職場に
クリニックは、受付、看護師含めてスタッフすべて女性で、働くママ=左写真。「みんなが笑顔で患者さんを迎えられるように」と、家庭と両立しやすく、出産・子育て中も働きやすい環境作りに配慮している。産休、育休制度のほか、弁当を作らずにすむよう毎日スタッフ手作りの昼食を出し、ライフスタイルに合わせて勤務時間を区切る配慮も。
女性内科オレンジ
098-921-3636
沖縄県沖縄市古謝1199-3(地図)
http://orangenaika.wixsite.com/2015oct15
冨着さんのハッピーの種
Q.趣味はありますか?
読書が好きです。中でも小説をよく読みますね。好きな作家は江國香織さんや酒井順子さんです。時間がなくてなかなか行けないのですが、図書館で読書をするのが幸せなひと時です。
「減速して生きる」(高坂勝著)=写真右=は、仕事と育児の両立で迷っていた時に、「こんな生き方もあるよ」と友人が勧めてくれた一冊。大事なことは何かを気付かせてくれ、気持ちが楽になりました。今でも時々読み返しています。
PROFILE
冨着泉(ふちゃく・いずみ)1974年渡名喜村出身。1999年自治医科大学卒業。県立中部病院で初期研修の後、渡名喜村ほか2カ所の離島診療所へ勤める。内科勤務を経て2015年10月に女性内科「オレンジ」をオープン。日常的な健康問題に継続的、包括的な医療を提供する「家庭医療専門医」。
[今までの彩職賢美 一覧]
撮影/泉公(ララフィルム)・編集/栄野川里奈子
『週刊ほーむぷらざ』彩職賢美<1237>
第1535号 2016年12月15日掲載