健康
2025年7月10日更新
体重7%の減量で肝障害を改善|人生100年‼︎ココカラ健康長寿④
肝機能を悪くするのはお酒の飲み過ぎだけでなく、肥満によって肝臓に脂肪がたまり過ぎることも原因なのを知っていますか? 肝臓は栄養分を体に必要な形に変える工場のような役割や、不必要なものを解毒・分解する役割がある大事な臓器。専門家に肝障害の原因やリスク、予防について聞きました。

お酒の飲み過ぎや食べ過ぎ、運動不足などの生活習慣が原因で肝臓の肝細胞が壊されるのを放っておくと、肝硬変のリスクが高まる。かいせいクリニックの院長、山城剛医師は「肝硬変になってしまうと正常な肝臓へ戻ることが難しくなる。お酒を控えて、肥満を予防する生活習慣が肝機能の改善につながる」と説明する。
初期は症状なく がんのリスクも
教えてくれたのは

かいせいクリニック
院長 山城 剛 さん
日本肝臓学会専門医・指導医。日本内科学会総合内科専門医。2018年に同院を開院

肝 臓は体の中で最も大きい臓器で、重さ1~1.5キロあり、主に肝細胞が集まってできています。肝臓の役割としては、①腸管から吸収された栄養分を体に必要な形に変える工場のような仕事、②腎臓とともに体に不必要な成分を解毒・分解し、胆汁(たんじゅう)として排せつするごみ処理場のような仕事があります=下図参照。


生活習慣などの原因で肝細胞が壊され、それを放っておくと、やがて肝細胞が線維に置き換えられ、肝硬変という「肝臓が固くなった状態」になってしまいます。肝硬変になってしまうと正常な肝臓へ戻ることが難しくなってしまい、①の仕事ができなくなることで、全身のむくみや腹水、出血傾向が、②の仕事ができなくなることで黄疸(おうだん)、神経症状などが現れます。肝機能の低下は健康に悪影響を与えますし、肝硬変に至ると肝がんになりやすくなるといわれています。
ちなみに「肝障害」は肝細胞が壊されている状態のことであり、検診などで行われる血液検査でALT(GPT)、AST(GOT)が異常値であることで分かりますが、必ずしも症状を伴いません。「肝機能障害」は前述の肝臓の仕事ができなくなっている状況を示し、症状を伴います。重要なことは肝機能障害に至る前に肝障害を止めること。ALTが30を超える人は要注意です。

生 活習慣と大きく関わりのある肝臓の病気としては、過剰な飲酒による「アルコール性肝障害」と、肝臓に脂肪がたまり過ぎる(脂肪肝)ことによる「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」が挙げられます。近年、肝硬変に至る原因として、全国では肝炎ウイルスを抜いてアルコールが35.4%、脂肪肝が14.6%。沖縄では、それぞれ60.0%、14.1%との報告があります(日本肝臓学会『肝硬変の成因別実態2023』より)。

アルコール(=エタノール)は、肝臓で90%以上が代謝されます。エタノールはアセトアルデヒドに分解され、さらに無害な酢酸に分解されます。アセトアルデヒドは酔いの原因であり、毒性によって肝細胞がダメージを受けます。また、発がんとの関係も知られています。
食べ過ぎや運動不足による肥満によって肝臓に脂肪がたまり過ぎると、脂肪を分解する時に生じる酸化物質が悪さをして炎症を起こし肝細胞が壊れていきます。肥満の指標であるBMI※が25~28未満で60%の人が、28~30未満で80%の人が、30以上で90%の人がNAFLDを発症しているといわれています。
※体重を身長(m)の二乗で割ることで算出。25を超えると肥満と定義される

N AFLDについては、現在の体重の7%を落とすと肝障害が改善するとされており、アルコール性肝障害はお酒を控えることで改善します。予防のための生活習慣の改善がすなわち治療につながることを覚えておくとよいと思います。予防は習慣化(=終わりがない)する必要があるため、できるだけシンプルで実行可能なものにする必要があります。

お酒に関しては、アセトアルデヒドを酢酸に分解する2型アルデヒド脱水素酵素の働きには個人差があって、それによってお酒に「強い」か「弱い」が決まりますが、肝障害を起こさない飲酒量はアルコール量換算で男性が1日30グラム以下、女性が20グラム以下とされています。アルコール20グラムは日本酒であれば1合、ビールなら中瓶1本、ワインならグラス1.5杯、5%缶チューハイならロング缶1缶となります=上図参照。
食事についてはまず摂取カロリーを抑えることです。目安としては1日の摂取カロリーをだいたい「30×標準体重(22×身長メートル×身長メートル)」キロカロリーに収めることを意識するといいでしょう。食品交換表などを参考にしたり、スマホのカロリー計算アプリを使ったり、コンビニ食品に記載されたカロリー量をこまめにチェックしたりするなどカロリー計算の習慣を身に付けることも大事です。自分で計算して食事をとることが難しいのであれば、栄養管理士が評価した食材デリバリーサービスを一時的に利用することも有効です。
なお、すでに肝硬変など肝機能障害を指摘されている人は状態に応じて厳格な食事療法、運動療法が必要ですので、主治医と相談してください。


有 酸素運動と筋トレなどの無酸素運動、どちらも推奨されています。最も簡単に取り入れられる有酸素運動は「歩く」ことです。体重が50~60キロの人が3キロメートル歩くと約150キロカロリー消費されます。脂肪1キロを消費(やせる)するためには約7千キロカロリーの消費が必要とされるので、毎日3キロ歩くだけでも約1カ月半で1キロ減量できることになります。だいたいの目安としては、歩幅40センチで8千歩だと3.2キロ歩いたことになります。スマホアプリの万歩計などで歩数を測定するとモチベーションも上がるでしょう。

運動を定期的に行う時間がつくれなくても「駐車場ではできるだけ遠くに車を止める」、「別の階のトイレを使う」、「ひとつ前のバス停で降りる」など日常生活の工夫で歩数を稼ぐことができます。そうして体重の減少を実感できると一つ一つの工夫が楽しくなってくるはずです。
取材/池原拓
毎週木曜日発行「週刊ほ〜むぷらざ」人生100年!!ココカラ健康長寿④
第1978号 2025年07月10日紙面から掲載