彩職賢美リターンズ
2025年11月27日更新
片付けのサポーターとして起業するが…長男の不登校、コロナ禍で仕事が激減 沖縄の53歳女性が1000軒以上の現場から学んだ、人生の「大切なこと」[彩職賢美リターンズ]
片付けのサポーターとして起業し15年。根原典枝さん(53)は3人の子どもを育てながら、仕事も家庭も全力で向き合ってきた。1千軒の現場を通して見えてきたのは、「片付けが心を軽くし、生き方まで変える」という実感だ。

株式会社 暮らしかたらぼ
代表取締役 根原 典枝さん
暮らしを整える
伴走者として
37歳で起業、42歳で離婚という道を選択しました。3人の母として一家を支え、経営者として事業を回さなくてはいけない。子どもの「よーいどん」を合図に、「天国と地獄」の音楽を頭で流しながら何とか家事をこなす毎日。心が休まる暇はほとんどありませんでした。そんなある日、忘れられないできごとが起きたのです。
限界で臨んだ
満員の講演会
9年前の休日の朝、寝坊をして学校の文化祭へ行った長男(当時中2)が「体育館で全体朝礼をしていて入れなかった」と帰ってきたんです。「そんなことじゃ社会でやっていけないよ」と言った瞬間、この世の終わりのような表情でバルコニー(7階)へ向かう長男。「戻って!」と叫ぶ私。
その日は午前中、大きな講演を予定していました。姉を家に呼び、迎えに来たスタッフの顔を見た途端、涙があふれました。「整理整頓で幸せに」というテーマで、会場は超満員のお客さま。「片付けても、わが家は大変なんです!」と叫び出したい気持ちを抑えて、何とか講演を終えました。
帰宅後も、24時間部屋から出てこなかった長男。その時に思い出したのが、「忙しい中の子育てで、唯一していたのがご飯作り」という樹木希林さんの言葉でした。「とにかくご飯を」とカレーを作り、声をかけたら、長男が部屋から出てきて食べてくれたんです。ただ、それ以降長男は不登校になり、中学卒業までほとんど家から出ませんでした。
その少し前、次男(当時小6)は反抗期まっただ中。欲しがっていたバスケットシューズが予算が足りなくて買えず、閉店後のお店の前で「いつになったら儲けられるんだよ!」と叫ばれました。帰りの車中ではみんな無言…。
いろいろありましたが、長男はフリースクールの高校を卒業し、大学へ。次男は落ち着き、明るく思いやりのある青年に育ちました。娘も高校生となり、ようやく一息つけるようになったのです。
コロナ禍を経て
見つけた原点
今年で法人になって12年目。最も苦しかったのはコロナ禍です。
起業して2年後に彩職賢美の取材を受け、その2年後に法人化。経営の知識がないまま会社を立ち上げたため、すべてが手探り。業務を拡大しようとアパートや民泊のハウスクリーニングを手がけ、スタッフは最大12人に。ところが新規事業で機材や洗剤、研修費がかさみ、利益は上がらず…。すべてが中途半端で「何をやっているんだろう」と落ち込むことも度々でした。そうして家に帰ると「おなかが空いた」「明日部活だから豊見城市まで送って」と子どもたち。メークを落とす気力もありませんでした。
このままでいいのか…と考え始めた時にコロナが流行し、仕事が激減。SNSでの発信も止め、潜伏期間のような3年間。これまで出会ったお客さまを相手に、細々と仕事を続けました。
「何がやりたかったのだろう」と自問する中、お世話になっている中小企業診断士の「得意なことで1番になった方が良い」というアドバイスにハッとしました。そこで「片付け・整理収納」という原点に戻ったのです。「顔の見える相手の暮らしを支えたいんだ」と気がついた時、厚い雲が晴れたような気持ちになりました。
モノを選ぶのは
自分と向き合うこと
個人宅から企業まで、関わった現場は1千軒以上。お客さまから、多くのことを学びました。
全力疾走の子育て期を経て、ゆとりが生まれた今、カチッと歯車が合ったのです。空間を整えるために「何が大切かを考え、選ぶ」のは、自分と深く向き合うこと。その結果、家事や仕事は効率的になり、時間にゆとりが生まれます。そしてそれは思考や人間関係にも通じ、自分を大切にする生き方につながるのです。
ただ、1人で頑張るのは大変な方も多い。筋トレにトレーナーがいるように、お客さまが自走できる状態を整えるパーソナルサポーターでありたい。これからは、特に経営者のサポートに力を入れたいです。経営者は日々数えられないほどの選択に迫られますが、そのスピードが上がれば、会社も自分自身も変わっていくはずです。
昨年、初めての著書「片付けられるようになるために私がやったこと」を出版。ことし10月から、毎週金曜日発行のタイムス住宅新聞で連載「人生の輪郭」を始めました。片付けの実践方法や、それによる人生の変化を多くの方に知っていただけるとうれしいです。
私の朝の日課は、ベッドメーキングです。ベッドカバーをかけて、ピシッとシワを伸ばす-。体が動くことに感謝し、新しい気持ちで一日がスタートします。
英国での豊かな暮らし

ホストファミリーとクリスマスパーティー(根原さん提供)
27歳から2年間英国へ留学した根原さん。
現在、日課になっているベッドメーキングは、当時の経験が基になっている。ホストファミリーが毎週金曜日にベッドメーキングをし、その後には必ずうさぎのぬいぐるみが置かれていた。「ピシッと整ったベッドは心地良かった」と振り返る。根原さんもベッドを整えた後、サルのぬいぐるみを置いている。
ほかにも、義母から受け継いた真っ白のガスコンロ(使用歴70年)をピカピカに磨いて使い続けるホストマザー(当時70歳)や、DIYで壁紙を貼り替えるホストマザーとの出会いも。老人ホームでは、ショーツを含むほとんどの衣類にアイロンがけをすることに驚いた。そこには、豊かな暮らしがあった。
「子育て中は効率最優先だったけれど、時間ができた今、一つ一つの家事によって心が整うことが分かった」と話す。
■暮らしかたらぼ
電話:080(2731)8883

根原 典枝さん
株式会社 暮らしかたらぼ 代表取締役
[プロフィル]
1972年うるま市出身。フィニッシングスクール西大学院を卒業後、99年英国に留学。2010年、フリーランスで片付け・掃除・家事代行業を行う。14年に法人化。24年に著書「片付けられるようになるために私がやったこと」を発行。暮らし方研究科。業務改善4Sコンサルタント。2男1女の母。

2012年10月4日号に掲載
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撮影/比嘉秀明 聞き手/栄野川里奈子
『週刊ほ〜むぷらざ』彩職賢美リターンズ<32>
第1998号 2025年11月27日掲載












