クバを編み、離島で生きる|是枝麻紗美さん(民具デザイナー)|fun okinawa~ほーむぷらざ~

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2018年8月24日更新

クバを編み、離島で生きる|是枝麻紗美さん(民具デザイナー)

ヤマトンチュの沖縄ライフ『楽園の暮らし方』<vol.05>
沖縄に移住した人たちの「職」と「住」から見えてくる沖縄暮らしのさまざまな形を紹介します。

民具デザイナー
是枝麻紗美さん(伊平屋村)


東京でスタイリストとして活躍していた是枝麻紗美さんは、ミニマム(必要最低限)な生活を送りたくて沖縄に移住。古民家に暮らし、クバやアダンなど島の植物を使ったオリジナルの民具を作っている
東京でスタイリストとして活躍していた是枝麻紗美さんは、ミニマム(必要最低限)な生活を送りたくて沖縄に移住。古民家に暮らし、クバやアダンなど島の植物を使ったオリジナルの民具を作っている

 

スタイリストから転身。夢のミニマムライフを実践

「人に見せたことはないのですけれど」と言って、是枝麻紗美さん(40)がもう何年も開いていないという4冊の分厚いファイルを見せてくれた。
ずしりと重たいファイルの中身は、ファッション関係の雑誌やカタログの切り抜き。値段のケタが一つか二つ違う高級ブランドのドレスから、フリルやレースがひらひら踊るギャルファッションまで、さまざまな服をまとった八頭身のモデルたちが写っている。よく見ると、ある切り抜きには「スタイリスト、マサミ・コレエダ」の文字が。そう、是枝さんはかつて東京で活躍するスタイリストだった。芸能人からも指名されるほど売れっ子の。
「ファッション誌の40~50ページを一人で担当することもありました。朝の3時に帰宅して、5時には仕事に出かけるようなことも度々でした」
伊平屋島ののどかな集落で古民家を借りて住み、裏庭の畑でナスやカボチャをのんびり育てながら、島の植物で民具を作って暮らす今の是枝さんからは想像もつかない生活だ。
「当時は収入も多かったけれど、スタッフを何人も雇ったり都内に一軒家を借りたりしていた分、使うお金もすごかったです。仕事は大好きでしたが、次第にそういう暮らしとは逆のミニマム(必要最低限)なライフスタイルにあこがれ始めました」


是枝さんの作品。右はクバの葉でできた水くみかご。昔、井戸から水をくむ釣瓶(つるべ)などとして使われた「クバジー」や「ウブル」と呼ばれる沖縄の伝統民具にならって制作した。左は紅型やアフリカの布を編み込んだオリジナルのクバかご
是枝さんの作品。右はクバの葉でできた水くみかご。昔、井戸から水をくむ釣瓶(つるべ)などとして使われた「クバジー」や「ウブル」と呼ばれる沖縄の伝統民具にならって制作した。左は紅型やアフリカの布を編み込んだオリジナルのクバかご

是枝さんの民具は「種水土花(しゅみどか)」のブランド名で全国各地で売られている。「種が水と土を得て花を咲かせてまた種を実らせるように、植物の民具も“循環”します。自然の命をいただいて私が作ったものが誰かの日常に彩りを添えるのに役立って、使われなくなったら最後は土に帰る。火で燃やす必要すらない。そこが良さだと思います」
是枝さんの民具は「種水土花(しゅみどか)」のブランド名で全国各地で売られている。「種が水と土を得て花を咲かせてまた種を実らせるように、植物の民具も“循環”します。自然の命をいただいて私が作ったものが誰かの日常に彩りを添えるのに役立って、使われなくなったら最後は土に帰る。火で燃やす必要すらない。そこが良さだと思います」

 

現代に合う民具

鹿児島から上京してスタイリストになって12年、是枝さんは33歳で仕事を辞めて沖縄の伊良部島に移り住んだ。そこで娘を出産。育児に追われる中で以前から興味を持っていた民具作りを始めた。
「私、貧乏性なんでしょうね(笑)。娘が寝ている間とか、育児のちょっとした隙間でも何かしていないと気が済まなくて」
手始めに独学でススキのほうきを作ったが、「派手なものが好きで、無個性なものは苦手」な是枝さんのほうきは、ただのほうきではなかった。カラフルな紅型の端切れやアジアやアフリカの布がアクセントとして巻かれていて、掃除道具に使うだけではもったいない、テーブルや壁に飾りたくなるようなほうきだった。試しに販売したところ意外なほど売れた。
「考えたのは、伝統的な道具を現代の暮らしに合うようにアレンジすることでした。デザインをこうしようとか最初から決めたりせずに、手を動かすうちに自然に湧いてくる発想を形にしていきました」
次に挑戦したのは、以前宮古島で目にして以来、自分でも作ってみたいと思っていたクバ(ビロウ)のかご。神聖な木として知られるクバは、古くからかさやうちわなどを作る材料に使われてきた。一見加工しやすそうに見えるが、実際に編んでみると扱いが難しく、乾燥して割れたり成形の途中で形が崩れたりした。「こうじゃないああじゃないと何度も試行錯誤を繰り返して」こつをつかんでいった。
扱いにくい半面、クバには他の植物にはない不思議な魅力があった。ゴワゴワしていそうでいて実は質感が優しくて、触っているだけで心が安らいだ。
「手にしっとりとなじむ感じがあって、クバを編んでいると静かな気持ちになります」


自宅兼工房は、閑静な集落に建つ古民家。「村の人が『あなたに向いているかも』と紹介してくれました。祖母が古い家に住んでいた影響でこういう家が好きです」
自宅兼工房は、閑静な集落に建つ古民家。「村の人が『あなたに向いているかも』と紹介してくれました。祖母が古い家に住んでいた影響でこういう家が好きです」

昔の家畜小屋も残る庭でクバを干していた。数日間乾燥させた後、水で戻してから編むのだという。「材料の植物は自分で取りに行きます。以前母が島に来た時、車の運転席の横にのこぎりを置いているのを見て驚いていました(笑)」
昔の家畜小屋も残る庭でクバを干していた。数日間乾燥させた後、水で戻してから編むのだという。「材料の植物は自分で取りに行きます。以前母が島に来た時、車の運転席の横にのこぎりを置いているのを見て驚いていました(笑)」

 

もの作りにベストな島

2年前から暮らす伊平屋の古民家は、玄関から居間、台所、そして廊下にまでクバやアダンで作った是枝さんの民具があふれる。ほとんどが県内や本土からの注文品で、作っても作っても在庫がすぐになくなるという。
「これを仕事にして生きていけたらと思って始めた民具作りですが、案外いけるかもと思っています。頑張れば娘を高校に行かせられそうです(笑)」
是枝さんは今、5歳の怜ちゃんと二人暮らし。「のんびりしていて優しい」島の人々が二人を気づかって、毎日のように訪ねて来てくれたり、釣った魚やとれた野菜を分けてくれたりする。山にクバを取りに行く時も、ハブが出たら危ないからと親切な村人が付き添ってくれる。
「ここは住み心地がいい島です。生活費があまりかからないので念願だったミニマムな暮らしができて、静かな環境だからもの作りに集中できる。私にとってベストな場所です」
「ずっと居続けたい」島で、民具作りと並行して古民家の宿を営む夢も温めている。
「昔訪れた八丈島に、おばあちゃんが一人で切り盛りしている宿があったんです。洗濯物をお尻の下にはさんで”アイロンがけ”をするようなおちゃめなおばあちゃんで、お客さんはみんな彼女を慕い、宿の仕事を進んで手伝っていました。30年後40年後、あのおばあちゃんみたいになれたらいいですね」
島に降り注ぐ太陽のように明るい是枝さんの笑顔を見ていたら、語られた通りの未来がありありと目に浮かんだ。


家の中はまるで民具の博物館のよう。出荷を待つ商品やサンプル作品が所狭しと飾られている。「わが家ではクバのかごやトレーをリモコン置きや台所用品入れに使ったりしています。プラスチックでできたような生活雑貨も、植物の民具を添えると無機質さが和らぎます」
家の中はまるで民具の博物館のよう。出荷を待つ商品やサンプル作品が所狭しと飾られている。「わが家ではクバのかごやトレーをリモコン置きや台所用品入れに使ったりしています。プラスチックでできたような生活雑貨も、植物の民具を添えると無機質さが和らぎます」
家の中はまるで民具の博物館のよう。出荷を待つ商品やサンプル作品が所狭しと飾られている。「わが家ではクバのかごやトレーをリモコン置きや台所用品入れに使ったりしています。プラスチックでできたような生活雑貨も、植物の民具を添えると無機質さが和らぎます」

庭に面した廊下が作業場。「民具作りのインスピレーションの元は島の自然。海の青さや花の色、星降る夜空に創作意欲が刺激されているのを感じます」
庭に面した廊下が作業場。「民具作りのインスピレーションの元は島の自然。海の青さや花の色、星降る夜空に創作意欲が刺激されているのを感じます」

「自由奔放な子」だという怜ちゃんと。二人はうらやましいほど仲が良い
「自由奔放な子」だという怜ちゃんと。二人はうらやましいほど仲が良い


※工房では現在、販売や見学の受け入れを行っていない

文・写真 馬渕和香(ライター)


毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1703号・2018年8月24日紙面から掲載

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