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2019年8月16日更新

安全でおいしい野菜、山原から|森義貴さん(無農薬栽培農家)

ヤマトンチュの沖縄ライフ『楽園の暮らし方』<vol.15>
沖縄に移住した人たちの「職」と「住」から見えてくる沖縄暮らしのさまざまな形を紹介します。

森義貴さん(無農薬栽培農家)


農薬散布の衝撃的な光景を目にしたことから、「自分が食べるものは自分の手で」と農業を始めた森義貴さん。友人に誘われて静岡県から移住した本島北部で無農薬野菜を育てる
 

武術家から転身。優しく厳しく育てる、がモットー

ナスやトマトやゴーヤーの“起床時間”を森義貴さん(36)は知っている。

「野菜も人間と同じように朝目覚めます。日の出の1時間くらい前に起きて、朝一番で水をぐわっと吸い上げる。そうすると味が薄くなるので、野菜がまだ寝ている間に収穫するようにしています」

野菜も人間も寝静まっている午前3時に、森さんは畑に出る。

「収穫と一緒に植え付けも朝のうちにやってしまいます。日中は暑くて仕事をしにくいですから」

その日に朝取りした万願寺唐辛子を試食させてもらった。青々としてつややかな果肉をポリッとかじると、みずみずしい甘みが口に広がった。

「森さんの野菜は味が違う、とよく言われるんです」
 

重度の農薬アレルギー
古相撲の流れをくむと伝わる古武術を究め、高校生時代から道場の館長を任されていた森さんが農業を始めたのは20代の終わり。静岡県にある実家では祖父や母が農業を営んでいたが、ある特殊な事情があって「自分には農業は無理」だとずっと思っていた。

「実は僕、農薬と化学物質のアレルギーを持っているんです。幼い頃、祖父の畑に行くと、手が真っ赤にはれたり皮がぺろっとめくれたりしていました。今でもスーパーの野菜売り場の前を通るだけで咳(せき)が出たりします」

そんな体質の自分に農業ができるわけがないと思っていたが、仕事で訪れたアメリカで目にした衝撃的な光景が「ターニングポイント」になった。

「農薬を空中散布したばかりの畑を見学したんです。『これを着ないと立ち入りできません』と言って渡された防護服を着て。小麦やとうもろこしの畑に農薬を浴びて死んだコヨーテやネズミの死骸が転がっていました」


畑は名護市と大宜味村に点在する。自宅から一番近い畑(写真)では、オクラ、ししとう、ナス、ピーマンなどを栽培。「雑草に隠されて何が植わっているか分からないでしょう?(笑)。農家の方に『こんなので野菜ができるの?』と驚かれます。でも、雑草をある程度残すことが害虫対策になります。全部取ってしまうと虫は野菜を食べるしかなくなるので」



朝取りした万願寺唐辛子やレモン、紫キャベツに似たイタリア野菜のトレビス。冷房設備のあるビニールハウスを持っていて、真夏でも高原野菜のレタスやキャベツを栽培する




ヤギの糞(ふん)や米ぬか、納品先からもらったコーヒーの出がらしや灰、市販の納豆から抽出した納豆菌を材料に堆肥を手作りしている。「化学肥料に比べて有機肥料は野菜をゆっくり成長させるので、甘みとうまみの濃い野菜ができます」


衝撃の光景から農業に
防護服を着ないと入れないような農場で作られる作物が当たり前のように消費者の食卓にのぼっていることに愕然(がくぜん)とした。「自分が普段口にしている食べ物は、誰がどんなふうに作っているだろう」と疑問が湧いた。

「いろいろ調べて、『これはもう、自分で作ったほうがいい』と思うに至ったんです」

アレルギーを持つ自分のために無農薬栽培を学び実践していた祖父や母のやり方を見て農業を覚えていった。「無農薬で、しかも味もいい」野菜を作りたくて品種改良にも取り組んだ。そんな時、那覇で飲食店を営む友人から「沖縄に来て野菜を作ってくれないか」と頼まれた。

「夏場に野菜がなくて困っていると言われたんです。僕で力になれるならと、7年前に移住してきました」

本島北部の農地を貸してもらえることになり、ホウレンソウや小松菜など5種類の野菜から栽培を始めた。静岡と沖縄では気候も違えば作物の栽培時期も異なるが戸惑うことはなかった。「暑くて、虫が多くて、雑草の伸びが早い沖縄で農業をするのは大変」という声を多く聞いたが、こう考えた。

「どこでやっても農業は大変。工夫して対処すればいい」

子育てにも通じる野菜作り
「あの野菜も作って」というお客さんの要望に応え続けるうちに、野菜の種類は増えて、現在は約70種類を栽培する。育て方のモットーは、「ほどほどに優しく、ほどほどに厳しく」。例えば、野菜が寝ている早朝に収穫を行うのは、株にできるだけ負担をかけないようにという思いやり。だが一方で、水やりを少なめにしたりして、甘やかさないようにも気をつけている。

「優しくするばかりだと虫や病気に対する抵抗力が弱くなってしまう。だから厳しく鍛えもします。子育てと一緒です」

「僕にとって野菜は子ども同然」と森さんは言う。「安全で、おいしくて、人に喜んでもらえる」子どもになってほしいと願いを込めて作っていると。

県内外に数十軒ある納品先の中には、森さんの野菜を食べ続けてアトピーがよくなったり、苦手だった野菜を食べられるようになったりした人もいるという。森さんの“子ども”たちが人を喜ばせている。


▼納品先の一つ、瀬底島のピッツェリア「UKAUKA」に相棒の愛犬(上写真)を連れて配達に

▼森さんの野菜がたっぷり入ったUKAUKAの前菜とピザ。「手に入りにくい珍しい野菜も持って来てくれるから、森さんの配達が毎回楽しみで仕方がない」と店主の緒方大輔さん(上写真)。「野菜がお客さまに好評です。この前も90代のおばあさんが『ナスがおいしい、ナスがおいしい』と喜ばれていました」







▲名護市北部の集落に建つ築80年超の古民家を借りて暮らしている。「自分が経営する会社の事務所も兼ねています。畑仕事と配達で外に出ていることが多いのであまり家でゆっくりできませんが、集落ののどかな環境も、ふすまを取っ払えばワンルームのように開放的に使える造りのこの家も気に入っています」


▲昔、武術の試合で長期滞在した中国で「麺点師」(麺料理と点心を専門とする調理師)の資格を取得。学生時代に留学したイタリアではヨーロッパ各国の料理を覚えた。得意な料理の腕を生かして、栽培した野菜を使った加工品や調味料の開発にも取り組んでいる

 

文・写真 馬渕和香(ライター)


毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1754号・2019年8月16日紙面から掲載

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