彩職賢美
2025年10月23日更新
沖縄の内外で司会者・ナレーターとして活躍 「声には場の空気を変える力がある」と考える女性の、仕事の流儀|彩職賢美
洗練された美しい日本語の話術と、立ち居振る舞い。企業・団体、行政の式典やイベントなどの司会とナレーションを中心に、接遇研修も手掛ける青池牧恵さん。声優への憧れが、声の仕事に就く原点。「声には場の空気を変える力がある。クライアントの意図・目的をしっかり理解し、任せれば安心という場づくりを大切にしています」と柔らかに語る。
主役が安心できる場作り
司会・ナレーションGrace(グレイス)代表青池牧恵さん
安定感と多彩な声色定評
自信喪失乗り越え新境地
司 会を務めた、100人規模のカンファレンス。予想以上に進行が遅れ、頭を悩ませる運営関係者に、「ここで10分巻きましょう」と青池さんが提案したのは、セミナーのワークタイム。参加者の満足度を下げないよう、テンション高めに場を盛り上げながらサラリと進行。定刻終了に導いた。運営関係者は、機転の利いた仕事ぶりを評価する。「イベントの主役になる方が一番心地よく、楽しく、安心して出席できる場をつくるのが私の役目。『青池に任せれば安心』と言ってもらえるのが、何よりうれしい」とにっこり。県内外で企業・団体、行政の式典やイベント、学会などの司会を数多く担う。本人いわく、「まじめで面白みがない」性格。個性がないのが悩みと言うが、その堅実さに加え、接遇マナーやコミュニケーションの企業研修も手掛けるビジネススキルが、県外のクライアントからの高い評価につながっている。主催者とのより良い関係づくりに心を砕き、「あまりになじみ過ぎて、式典に参加した方から、『社員さんかと思いました』と言われることも」と笑う。
一方、ナレーションでは、CMや企業VP(ビデオパッケージ)などを手掛ける。少年からおばあちゃんまで、1人で5役を演じ分けられる、多彩な声色が強み。「人間だからこそできる細やかな感情表現を大事にしています」。
1時間の予定が10分で済むなど、収録の速さにも定評がある。「クライアントが求めるであろう『正解』の読み方を、複数用意して臨みます。時には、新たな切り口の参考になればという思いで、あえて意図を外した変化球のパターンも準備します」。
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アニメをみて声優に憧れた少女時代。小学5年生のとき、先生の朗読に心揺さぶられた。「聞いているだけで物語の映像が鮮やかに浮かんできて、声ってすごいと思いました」。
最初に携わった声の仕事は、地元広島でのバスガイド。結婚を機に、夫のふるさと長野県軽井沢へ。地元のコミュニティーFMで、念願のアナウンサー、パーソナリティーの活動を始めた。ウエディングが盛んな地域。全国展開するリゾートホテルをメインに8年間、ブライダルの司会を務めた。「お客さまへのおもてなし、立ち居振る舞いや話し方を鍛える機会になりました」と振り返る。
大好きな海のある暮らしを求め、2005年に沖縄へ移住。待ち受けていたのは、司会としての自信の喪失。「沖縄には個性豊かなタレントさんがいっぱい。『絶対に戦えない』と感じ、司会の仕事を離れました」。
青い海、空とは裏腹に心はどんより。少しでも声が生かせればとコールセンターで働くなか、司会者の友人に背中を押され、声のプロダクションに所属。ナレーションとの出合いが、エネルギーになった。「経験したことのなかったバラエティーに富んだ声の使い方。昔憧れた声優のような仕事に、ワクワクしました」。
司会の仕事を再開し、16年にはFMラジオのパーソナリティーに抜てき。得意とするMICEの司会でも実績を重ねている。また、立ち居振る舞いと言葉遣いの美しさが目にとまり、ナレーション収録に立ち会った広告代理店担当者のすすめで、接遇マナー指導員の資格も取得。研修講師としても、県内外の企業のイメージアップをサポートする。
近年、よく思い出すのは、子どもの頃によく訪れた広島市民球場の場内アナウンス。「球場で唯一の女性の声。場内が一気に華やぐ瞬間は、感動ものでした。沖縄はプロスポーツも盛ん。会場を盛り上げるアナウンスにも挑戦してみたい」。新たな目標を胸に、声で沖縄を彩る。
愛犬がよりどころ 保護活動にも力

「愛犬と過ごす時間が何よりの癒やし。犬たちのおかげで、どれだけメンタルが安定していることか」。愛犬の話になると、途端に表情が緩む青池さん。プライベートでは犬中心の生活を送っており、愛犬との散歩とお世話が楽しみ。
夫婦で犬を飼い始めたのは、軽井沢に移り住んだ27年前。現在は3代目の富士夫(ジャック・ラッセル・テリア)=上写真左側、4代目の政次(雑種)と一緒に暮らす。
映画「マスク」に登場する相棒犬・マイロが好きで、同じ犬種の富士夫を迎え入れた。フィジカルが強く、散歩量も大型犬並み。世話をするのが難しいと周りに言われたが、「過去2匹飼ってきた経験もあるので、大丈夫!だと思ったんです。でも、富士夫は繊細かつ攻撃的で、やっぱり大変」と苦笑する。
2代目の愛犬が亡くなってから始めたのが、犬の保護や譲渡を行っているNPOの預かりボランティア。「不幸な犬猫をなくすため、保護活動に協力し、たくさん稼いで、たくさん寄付をする」ことを、人生の一つの目標に掲げている。3年半で16匹を預かり、譲渡会で新しい飼い主を見つけるのを手伝った。保護団体の活動のサポートは現在も継続中だ。
4代目の政次は、預かった保護犬のうちの1匹。世話をするうちに、その愛くるしい姿に離れがたくなり、手伝っている保護団体に「うちの子にしたい」とお願いして、引き取った。NPOのスタッフの皆さんから「やっぱり、そうなると思ったー」と言われるほど、政次への愛情がダダもれだったよう。
演劇で広島弁指導に初挑戦

広島出身の青池さん。所属する沖縄広島県人会のつながりで、沖縄の役者が演じる広島の物語、演劇「父と暮せば」(作・井上ひさし)の方言指導に関わっている。
戦後80年の節目にあたり、企画された同公演。被爆地ヒロシマの記憶と命の尊さを次世代に伝えると同時に、沖縄で上演することで、地域を越えた平和への思いを共有し、文化的な交流の場を創出することが目的だ。作品は、原爆投下で被爆死した父の幻影と、自分が生きながらえたことを「申し訳のうてならん」と嘆き悲しむ娘が主人公の2人芝居。
青池さんは、3月下旬頃から稽古に参加。主演の普久原明さん=写真左=と、金城翔子さんを前に台本を読みながら、セリフを録音。「日常生活でも繰り返し聞いてもらい、方言を耳で覚え、体になじませてもらうことが重要だと考えました」。
6月には普久原さん、金城さんと一緒に広島を訪問。「爆心地をはじめ、演劇の舞台に出てくるいろいろな場所を案内し、80年前この地で起こったことを思い起こして、想像してもらうように務めました」。演劇「父と暮せば」は11月9日(日)、沖縄市民小劇場あしびなーで上演される。
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プロフィル/あおいけ・まきえ
広島県出身。20代前半は、広島で観光バスガイドに従事。結婚を機に移住した長野県軽井沢で、1998年からコミュニティーFMでのパーソナリティー、イベントやブライダルの司会に携わる。2005年、沖縄・北谷町へ移住。司会・ナレーターとして活躍する。日本接遇教育協会会員。県内外の企業で新入社員や幹部への接遇マナー研修、コミュニケーション指導も行う
■司会・ナレーションGrace
https://makieaoike.com
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撮影/比嘉秀明 取材/比嘉千賀子(ライター) 撮影協力/声のプロダクション(株)キャラOKINAWA
『週刊ほ〜むぷらざ』彩職賢美<1452>
第1993号 2025年10月23日掲載