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COLUMN

小湾喜智

2018年9月19日更新

街のワイン屋さんからおいしい話「フランス研修旅行記vol.02」

ワイン専門店Cote Dor(コートドール)の小湾喜智さんのコラム vol.04
おいしいワインとそれに関わる楽しいの話をご紹介。



前回に引き続き、2018年6月末に訪問したフランス・ブルゴーニュの研修旅行記を綴って参ります。どうぞお付き合いください。

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訪問したワイナリー、ジョゼフ・ドルーアン社の4代目社長 フレデリック・ドルーアン氏からの手厚いおもてなしを受け、ついつい飲み過ぎた酔いどれディナーの次の日。

いよいよ同社のワイナリー研修ツアーが本格的にスタート。
まずはジョゼフ・ドルーアン社のワインが保管されている地下カーヴ(貯蔵目的で造られたワインセラー)の視察へ。


カーヴの入り口で私たちを向かえてくれたのはこの巨大な圧搾機。圧搾機とはブドウを絞る器具のことです。写真だといまいち大きさが分かりづらいかと思いますが、圧搾機の高さは3メートル以上あります。こちらの圧搾機はジョゼフ・ドルーアン社がかつて実際に使用していたそうで、現在はその役目を終え、展示物として大切に保管されています。

ただ、その機能はまだまだ現役そのものだそうで、何かしらの特別な機会には、この圧搾機を使ってブドウを絞ることもあるそうです。その時の写真がこちら。


大柄な男性二人がかりで巨大な歯車を回しています。現代のワイン醸造においては、ブドウをいかに丁寧に絞り、理想の果汁を得るかが1つの重要なポイントとなるため、コンピュータ制御による精密なコントロールが可能な圧搾機を使用することが多いのですが、昔はこのように人力で絞っていたと思うと、なんだか感慨深いものがあります。

圧搾機が保管された部屋から地下へと続く階段を下りると、今度はたくさんのワイン樽たちが私たちをお出迎え。地上と違い、地下は気温が低く、ジメっとしています。



ワインはお酒ですが、ウイスキーや泡盛のようなアルコール度数の高いスピリッツ類と異なり、適切な温度や湿度で保管しなければ、品質や風味が低下してしまいます。

一般的には、温度は年間を通じて摂氏13~15度、湿度は70~75%であることが求められます。これらの条件を天然の状態で保ってくれるのがまさにこの地下カーヴ。市販されている家庭用のワインセラーは、この条件に極力近い状態を作り出せる設計になっています。



カーヴでは樽の状態で保管されているだけでなく、瓶に詰められた状態で保管されているワインも多数あります。お食事中にご覧頂いている方には恐縮ですが、湿度が高いカーヴなので、ワインボトルはご覧の通りカビやホコリだらけ。このカビが生えるような環境こそ、ワインが適切に保管され、熟成される過程でゆっくりとおいしさを携えていくとされています。


地下カーヴを一通り見せてもらったあとは、なんと圧巻の21種ものジョゼフ・ドルーアン社のワインのテイスティング。実はこれでも同社のワインのラインナップの一部です。

一般的に、ブルゴーニュの気候に適しているブドウ品種は、白ワイン用では「シャルドネ」、赤ワイン用では「ピノ・ノワール」であるとされ、ほとんどのブルゴーニュワインがこの2つの品種で作られており、ご多分に漏れず上記の21種のワインもこのいずれかの品種で作られています。



にもかかわらず、なぜこんなにもたくさんのワインがあるのかと言うと、これはワイン業界ならではの「Terroir(=テロワール)」と「Appellasion(=アペラシオン)」という考え方に由来します。

まずは「テロワール」についてのご説明から。「テロワール」とは、広義の意味で言えば、ブドウ畑を取り巻く環境(気候や土壌など)がワインの品質に影響し、ワインにその土地ならではの味わいが宿ることを意味します。

世界中にはさまざまなワインの生産者がいますが、多くの生産者は、自身が造るワインにこの「テロワール」を映すことを至上命題とし、ブドウ栽培から醸造、貯蔵などのワイン製造のさまざまな工程の中で、あらゆる努力を行っています。

そして、この「テロワール」という抽象的な概念を、法律によってきちんと公的に管理・保護するために定めた基準が「アペラシオン」にあたります。

「アペラシオン」は公的なお墨付きの役割を果たし、特定のブドウ畑と特定のブドウ品種の組み合わせが、その土地の特長を如実に表現した独自のワインを生むという考え方を認め、それを保証するものとなります。

特にヨーロッパの国々では、この「アペラシオン」の考え方を各国政府がしっかりと法律に反映して管理しており、特産物であるワインの品質を保ちつつ、贋作(がんさく)が出回らないようにワインを保護しています。

さらにこの「アペラシオン」に基づき、ブルゴーニュワインを唯一無二の存在に昇華させているのが、ブルゴーニュ独自のブドウ畑に対するヒエラルキーです。



非常に優れたワインを生むブドウ畑を「Grands Crus(=グラン・クリュ、特級畑)」と名付け、ここを頂点として、ブドウ畑から村、ブルゴーニュ域内の各地方にいたるまで、土地に序列をつけたのです。

これは、現代ほどワインの科学が解明されていない時代に、偉大な先達たちが経験則をもとに、優れたブドウを生み出す土地を明確に把握し、区分してきたことに基づいています。
冷静に考えると、これってすごいことですよね。


ちょっと小難しい話になっちゃいましたが、先ほどの21種のワインに話を戻すと、これらのワインの違いも、まさにブドウが栽培された畑やエリアの違い、すなわち「アペラシオン」の違いによって個別に製品化されたものなのです。

というわけでワインを実際にテイスティングしてみると、同じ生産者、同じブドウ品種で造られたワインであることは共通しているのに、1本1本それぞれで風味や個性が大きく異なっています。まさに、ブドウ畑を取り巻く環境の違いがこのような形で表れてくるのですね。

そんな風に興味深くワインを味わっていたら、ジョゼフ・ドルーアン社のスタッフが「せっかく遠い日本から来てくれたから」と言って出してくれたスペシャルワインがこちら。



ワインのラベルが貼られていないのですが、こちらは何と小売価格にして20万円はくだらないであろう「Grands Crus Musigny (=グラン・クリュ ミュジニー)1987」というワイン。
先ほどの「アペラシオン」のヒエラルキーの中で、最高位に序列される名高い特級畑の1つ「ミュジニー」のブドウを使って、約30年前に造られたワインです。

通常、いかに特級畑クラスのワインと言えど、20年以上の長期熟成に耐えられるのはごくわずかなのですが、こちらのワインは30年の時を経てなおいしさを保っており、素晴らしい円熟味に加え、官能的で奥深い味わいを持っておりました。


こちらはワインのコルク。地下のテイスティングルームだったので画像が荒くて恐縮ですが、コルクには「Musigny 1987」としっかり印字されています。
ワイン業界の人間とはいえ、一生のうちに一度飲めるかどうかという貴重な代物。大変ご馳走様でした。

一同、「ミュジニー」の感動冷めやらぬまま、腹を満たした後は畑の見学へ。



おいしいワインを造ることはもちろんのこと、ワインに「テロワール」を宿すために、ブドウ栽培の工程でどのようなことを行っているのかをご説明頂きました。

その中の1つがこれ。

これは「セクシャル・コンフュージョン(=性かく乱)」という害虫駆除剤。
このカプセルの中にはブドウ畑に悪影響を与える害虫の雌(メス)の合成フェロモンが入っていて、このフェロモンが空気中に放出されることで害虫の雄(オス)が混乱し、害虫の交尾率が下がって次世代の害虫の発生被害を軽減することが出来るのです。
結果的に、害虫駆除のための農薬や殺虫剤を使わなくて済む、もしくは少量の使用で済むようになるわけですね。


前回の「フランス研修旅行記 vol.01」でお伝えした通り、ジョゼフ・ドルーアン社は厳格な有機栽培であるビオディナミという手法を採用しているため、このような「セクシャル・コンフュージョン」をはじめとするさまざまな施策を行い、良いブドウを得るために努力していることを、あらためて体感させて頂きました。

ということで、今回のコラムはここまで!
続きはまた次回にて。どうぞお楽しみに。
 

<ワイン専門店Cote Dorの小湾喜智さんのコラム>

 

小湾喜智のコラム​[カテゴリー:ワイン・グルメ]
街のワイン屋さんからおいしい話 vol.04
 

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ワイン専門店 コートドール勤務
(社)日本ソムリエ協会認定 ソムリエ
(社)日本ソムリエ協会認定 SAKE DIPLOMA
S.S.I(日本酒サービス研究会)認定 唎酒師
FCAJ(日本フードコーディネーター協会)認定 フードコーディネーター3級

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