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2019年6月27日更新
[松本料理学院 創立50周年]琉球料理の継承に熱い思い|食文化の継承と発展に貢献 沖縄タイムス賞受賞
松本料理学院は創立50周年。琉球料理の継承に力を入れてきた松本嘉代子学院長は「伝統的な琉球料理は、沖縄県民の健康長寿を支えてきた。家庭で琉球料理を作って食べることは、家族の健康や味の継承につながります」と話します。琉球料理を通して食文化の継承と発展に貢献したことが認められ、沖縄タイムス賞を受賞。創立50周年を迎える学院の歩みと琉球料理への思いを紹介します。
松本嘉代子さん(80)。松本料理学院学院長。2019年沖縄タイムス賞を受賞。厚生大臣表彰ほか受賞、著作多数。1987年から「ほ~むぷらざ」でレシピを連載中
松本嘉代子学院長 50年を振り返る
伝統ある食文化の変化に危機感
おかげさまで、松本料理学院は創立50周年を迎えることができました。これも偏(ひとえ)に受講生のみなさま、食材や調理機器などを扱う各企業のみなさま、報道関係のみなさまのご支援、ご愛顧の賜と心から感謝いたしております。
学院は1969年の開校以来、家庭料理を中心に伝えてまいりました。開校当初は和洋中の料理が主でしたが、徐々に琉球料理に力を入れるようになりました。それは、生活様式が著しく変化する中、琉球料理の伝承に危機感を募らせるようになったからです。
1985年まで日本で男女とも平均寿命トップだった沖縄が、2000年には男性の平均寿命が26位に転落。いわゆる「26ショック」に、大きな衝撃を受けました。その後、2015年には女性7位、男性36位に後退。
その背景には、欧米など他国の料理が急速に入ってきて食生活が変化したことや、外食や中食(総菜や弁当を購入し自宅で食べる)が増えて琉球料理を家庭で作って食べることが減ってきたことも関連するのでは、と思います。
終戦後の食べ物が無い時代から、配給物資が貴重だった「アメリカ世(ユー)」、本土復帰して日本の食材が入ってきた「大和世(ヤマトユー)」をへて、今は「国際世」と言うのでしょうか。世界各地のさまざまな食材が手に入るようになった。その分、偏食の無いようバランスを取って食べることが必要になっていると思います。
長寿支えた琉球料理
地元で採れるものを土地の調理法で食べる「土産土法」という考え方があり、琉球料理は、沖縄の人に合う料理と言えます。琉球料理はかつおだしや豚だしを多く用いるので、塩分の摂取量が抑えられてヘルシー。多くは野菜と肉が入っていて、栄養バランスも優れています。
長寿県を取り戻すには、各家庭で琉球料理を作っていただくことが大切だと考えています。味は体で覚えるもの。家庭で作り、家族と食べることで、味が子どもたちへと伝わっていく。「味の伝承」は各家庭でつなげていくことが大切です。体調に合わせて作ることができるのも、家庭料理の魅力です。
家庭で琉球料理を作っていただきたいと教室で作り方を紹介してきたほか、1987年から「ほ~むぷらざ」にレシピを連載。以来32年間、連載を続けています。2018年はその中から抜粋して、「イチから琉球料理」「沖縄の行事と食」を出版することができました。
2018年に出版された松本学院長の本。初めての人でも分かりやすい内容になっている
2018年、県の「琉球料理伝承人 琉球料理担い手育成事業」が始まり、19年5月には琉球料理が日本遺産に認定。「琉球料理保存協会」の設立準備も進み、気運の高まりを感じます。
教室の開設以来、数多くの生徒さんが受講されました。主婦の方や料理が好きなみなさんをはじめ、最近は飲食店を経営したり、そこで働く従業員の方が増えていて、プロとして料理を提供する方々に「きちんとした琉球料理を食べていただきたい」という思いが強くなりました。飲食店で本格的な琉球料理を提供することは、観光立県である沖縄のイメージアップにもつながると思います。
私のモットーは、「食事は楽しく、おいしく、リッチに!」。誰かと一緒に会話をしながら楽しく食べると、消化液がたくさん出て消化吸収が良くなり、おいしいと感じて、リッチな気分になれる。教室で受講生のみなさんが料理を食べているときの幸せな顔を見るのが大好きです。「琉球料理ってこんなにおいしかったんですね!」という声を聞くと、また作りたくなります。
50周年の節目を迎え、現在校舎の建て替えをしております。これまで松本料理学院を支えていただいたみなさまに感謝するとともに、これからも新たな気持ちでスタッフ一同、琉球料理や家庭料理の楽しさ、大切さを伝えていきたいと思っています。
学院のアルバム
以前の教室。料理を通してコミュニケーションの輪が広がっていくことをイメージしたデザイン(松本料理学院提供)
現在の松本料理学院のスタッフ。左から、アシスタントの名嘉裕子さん、講師のがなは理恵子さん、事務の金城さつきさん、アシスタントの伊豆見麻里さん
親子でイナムドゥチ
沖縄の味の継承は家庭から
「味の継承は家庭から」と、親子で琉球料理作りに挑戦! 松本嘉代子学院長に教えてもらい、阿部百合香さん(11)が大好きなイナムドゥチを母の綾乃さん(41)と一緒に調理しました。
琉球料理が大好きな百合香さん。自宅では、かつおだしや豚だしの香りが漂うと、「何を作っているの?」と顔を出すと言います。時々料理を手伝うことはありますが、イナムドゥチ作りは初めてです。
薄揚げを油抜きし、「油でこんなにお湯がにごるんだ」と驚いた様子。「しっかり油抜きをすると、余分な油が抜けて味が染み込みやすくなるからね」と松本学院長。
次に、具材を切っていきます。「材料を薄く切ることが大事なのよ。包丁の刃を長く使って、ゆっくり切ってね」と松本学院長。百合香さんは真剣なまなざしで、丁寧にこんにゃくを薄切りします。シイタケやかまぼこも同じくらいの薄切りにし、かつおだしと豚だしで煮てみそを溶き入れます。だしとみそのいい香りが漂ってきました。
味見をした百合香さんは、最初は微妙な表情。綾乃さんが「少し薄いかもね」とみそを足したら、「おいしい」と満面の笑みを浮かべました。完成したイナムドゥチを食べながら、「これ切ったね」とうれしそうに話します。
綾乃さんは、松本料理学院に通って5年目。「琉球料理は祖母に習ったのですが、教室に通い始めて豚だしを使うようになりました。子どもたちが、以前とは味が違うと言ってくれます」と言います。松本学院長は「親子一緒に作ることは、味や作り方の伝承につながりますね」と話しました。
松本嘉代子学院長 50年を振り返る
伝統ある食文化の変化に危機感
おかげさまで、松本料理学院は創立50周年を迎えることができました。これも偏(ひとえ)に受講生のみなさま、食材や調理機器などを扱う各企業のみなさま、報道関係のみなさまのご支援、ご愛顧の賜と心から感謝いたしております。
学院は1969年の開校以来、家庭料理を中心に伝えてまいりました。開校当初は和洋中の料理が主でしたが、徐々に琉球料理に力を入れるようになりました。それは、生活様式が著しく変化する中、琉球料理の伝承に危機感を募らせるようになったからです。
1985年まで日本で男女とも平均寿命トップだった沖縄が、2000年には男性の平均寿命が26位に転落。いわゆる「26ショック」に、大きな衝撃を受けました。その後、2015年には女性7位、男性36位に後退。
その背景には、欧米など他国の料理が急速に入ってきて食生活が変化したことや、外食や中食(総菜や弁当を購入し自宅で食べる)が増えて琉球料理を家庭で作って食べることが減ってきたことも関連するのでは、と思います。
終戦後の食べ物が無い時代から、配給物資が貴重だった「アメリカ世(ユー)」、本土復帰して日本の食材が入ってきた「大和世(ヤマトユー)」をへて、今は「国際世」と言うのでしょうか。世界各地のさまざまな食材が手に入るようになった。その分、偏食の無いようバランスを取って食べることが必要になっていると思います。
代表的な豚肉料理の一つ「ラフテー」
お祝いに欠かせない「クーブイリチー」
長寿支えた琉球料理
地元で採れるものを土地の調理法で食べる「土産土法」という考え方があり、琉球料理は、沖縄の人に合う料理と言えます。琉球料理はかつおだしや豚だしを多く用いるので、塩分の摂取量が抑えられてヘルシー。多くは野菜と肉が入っていて、栄養バランスも優れています。
長寿県を取り戻すには、各家庭で琉球料理を作っていただくことが大切だと考えています。味は体で覚えるもの。家庭で作り、家族と食べることで、味が子どもたちへと伝わっていく。「味の伝承」は各家庭でつなげていくことが大切です。体調に合わせて作ることができるのも、家庭料理の魅力です。
家庭で琉球料理を作っていただきたいと教室で作り方を紹介してきたほか、1987年から「ほ~むぷらざ」にレシピを連載。以来32年間、連載を続けています。2018年はその中から抜粋して、「イチから琉球料理」「沖縄の行事と食」を出版することができました。
2018年に出版された松本学院長の本。初めての人でも分かりやすい内容になっている
2018年、県の「琉球料理伝承人 琉球料理担い手育成事業」が始まり、19年5月には琉球料理が日本遺産に認定。「琉球料理保存協会」の設立準備も進み、気運の高まりを感じます。
教室の開設以来、数多くの生徒さんが受講されました。主婦の方や料理が好きなみなさんをはじめ、最近は飲食店を経営したり、そこで働く従業員の方が増えていて、プロとして料理を提供する方々に「きちんとした琉球料理を食べていただきたい」という思いが強くなりました。飲食店で本格的な琉球料理を提供することは、観光立県である沖縄のイメージアップにもつながると思います。
私のモットーは、「食事は楽しく、おいしく、リッチに!」。誰かと一緒に会話をしながら楽しく食べると、消化液がたくさん出て消化吸収が良くなり、おいしいと感じて、リッチな気分になれる。教室で受講生のみなさんが料理を食べているときの幸せな顔を見るのが大好きです。「琉球料理ってこんなにおいしかったんですね!」という声を聞くと、また作りたくなります。
50周年の節目を迎え、現在校舎の建て替えをしております。これまで松本料理学院を支えていただいたみなさまに感謝するとともに、これからも新たな気持ちでスタッフ一同、琉球料理や家庭料理の楽しさ、大切さを伝えていきたいと思っています。
学院のアルバム
以前の教室。料理を通してコミュニケーションの輪が広がっていくことをイメージしたデザイン(松本料理学院提供)
昭和50年代。花嫁修業で通う受講生が多かった(松本料理学院提供)
チェックのユニフォームを着て。当時のスタッフと、松本学院長=前列右(松本料理学院提供)
年末恒例の「タイムスお正月料理講習会」。琉球料理や和食の正月料理を紹介する
現在の松本料理学院のスタッフ。左から、アシスタントの名嘉裕子さん、講師のがなは理恵子さん、事務の金城さつきさん、アシスタントの伊豆見麻里さん
親子でイナムドゥチ
沖縄の味の継承は家庭から
「味の継承は家庭から」と、親子で琉球料理作りに挑戦! 松本嘉代子学院長に教えてもらい、阿部百合香さん(11)が大好きなイナムドゥチを母の綾乃さん(41)と一緒に調理しました。
琉球料理が大好きな百合香さん。自宅では、かつおだしや豚だしの香りが漂うと、「何を作っているの?」と顔を出すと言います。時々料理を手伝うことはありますが、イナムドゥチ作りは初めてです。
薄揚げを油抜きし、「油でこんなにお湯がにごるんだ」と驚いた様子。「しっかり油抜きをすると、余分な油が抜けて味が染み込みやすくなるからね」と松本学院長。
次に、具材を切っていきます。「材料を薄く切ることが大事なのよ。包丁の刃を長く使って、ゆっくり切ってね」と松本学院長。百合香さんは真剣なまなざしで、丁寧にこんにゃくを薄切りします。シイタケやかまぼこも同じくらいの薄切りにし、かつおだしと豚だしで煮てみそを溶き入れます。だしとみそのいい香りが漂ってきました。
味見をした百合香さんは、最初は微妙な表情。綾乃さんが「少し薄いかもね」とみそを足したら、「おいしい」と満面の笑みを浮かべました。完成したイナムドゥチを食べながら、「これ切ったね」とうれしそうに話します。
綾乃さんは、松本料理学院に通って5年目。「琉球料理は祖母に習ったのですが、教室に通い始めて豚だしを使うようになりました。子どもたちが、以前とは味が違うと言ってくれます」と言います。松本学院長は「親子一緒に作ることは、味や作り方の伝承につながりますね」と話しました。
できあがったイナムドゥチを食べる右から阿部百合香さん、松本嘉代子学院長、阿部綾乃さん
調理中の様子
『週刊ほ〜むぷらざ』松本料理学院創立50周年
第1665号 2019年6月27日掲載