教育
2018年6月21日更新
戦争のこと、知らないじゃだめ? 20代、移住者が伝える沖縄戦[6.23 慰霊の日]
「今は、戦前かもしれないんだよと言われてドキッとした。戦争は悲惨、で終わっちゃいけない。一人ひとりが考えないと」。一中学徒隊資料展示室の解説員で、平和ガイドを務め、学徒隊の証言を集めている大田光さん(29)。託された思いを、次世代へつなぐ。
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今が戦前になるかも戦争は過去じゃない
一中学徒隊資料展示室 解説員
大田光さん
「タツオー、今日はこの子に話そうな」。7年前、糸満市摩文仁※1の岩場で、山田義邦さんは空に向かって語りかけた。その後、山田さんは大田光さんに、17歳の時の戦争体験を話してくれた。大田さんは卒業論文の聞き取りのため、福岡県から訪れていた。
山田さんは県立第一中学校出身。学徒隊の鉄血勤皇隊※2として戦場にいた。「友だちのタツオは、尾てい骨が見える大ケガをしていた。先生のところへ連れて行け、と軍に命令され壕を出たが、砲撃が激しくてたどり着けない。壕に戻ったら殺される。『お母さんに会いたい』と言われたけど、返事のしようもなくて。手りゅう弾をくれと言われて、手渡した。そのときは自分も死ぬと思っていた」。
それが、最後の別れとなった。戦後、山田さんは毎週、タツオさんが亡くなった摩文仁に通い、線香をたむけてきた。
「卒論で終わっちゃいけない」。大田さんは卒業式の三日後、沖縄に移住。アパレルで働く傍ら、一中学徒隊資料展示室(参照)で解説や聞き取りをした。「学徒隊のことを多くの人に伝えたい」と、沖縄平和ネットワークに所属し、修学旅行生への平和ガイドも始めた。
ガイドでは、史実だけでなく、生徒の人間味を伝える。クラスの写真を眺めながら、「このクラスはやんちゃ。制服の着崩し方に表れているでしょう。ナカソネ君は、学年で一番腕相撲が強かったけれど、穏やかで一度もケンカをしたことがない。5月14日までは恐らく生きていた」と、穏やかに話す。口調には、友達のことを話すような親しみがにじみ出る。
最初のころは史実を読み上げていたが、先輩のガイドの「今は戦後と思っているでしょう。戦前かもしれないよ。だからガイドがいるんだよ」という言葉にハッとした。
身近に感じ、戦争について考えてもらうにはどうしたらいいか。学徒一人ひとりのことを暗記し、生徒の目を見て話すようになった。
伝える重み増す
大田さんは、分かりやすい平易な言葉を使う。「もともと自分が勉強嫌いだから、難しいのは無理」と笑う。学ぶことにのめりこんだのは、沖縄戦が初めてだ。大阪府出身。卒業論文のテーマを探す中で、沖縄戦を知った。「仮にも歴史を専攻していたのに、沖縄にはリゾートのイメージしかなかった。沖縄戦を、ひめゆりを、知ったときのショックは大きかった」。
最初に沖縄に来たときに、話を聞いた元ひめゆり学徒隊(参照)の宮城喜久子さんは4年前、86歳で亡くなった。告別式で泣きじゃくる大田さんは、体験者に手を握られて「次は、あんたたちの番だよ」と言われた。親しくしていた山田さんは、昨年89歳で亡くなった。その後2、3カ月は、山田さんのことを話せなかったが、伝えないことも心苦しく、話そうと決めた。「ここ数年、伝えることの重さをかみ締めている」。
山田さんがよく言っていた言葉がある。「権力者によって世論が意図的に作られて、気づかないうちに、それがどんどん広がると、誰も何も言えなくなる。その空気感を知ってほしい」。
大田さんは、ガイドの際に、学生たちに戦争について問いかける。「戦争が起きたら、どうするか。起こさないためには、どうしたらいいか」。
「戦争は悲惨、でブルーな気持ちで終わるのは一番嫌。正解はないから、『みなさんをスッキリさせるつもりはありません。モヤモヤして帰ってください』って言うんです。平和学習は、考える力を養うもの」
平和のためにできることは何か、という問いに、「資料館でもガマでも、直接足を運んでほしい。ネット社会だからこそ、実際に見て、その場に立って、考えることが大事だと思う」と答えた。
大田さんは、現在、一中学徒隊の一人一人を調べている。「データじゃなく、一人一人生きていたんだなと考えるようになった。おじいちゃんたちが、元気なうちにまとめたいですね」。冊子にして、資料館に置くのが目標だ。
「お守りみたいなもの」といつも持ち歩いている山田義邦さんとの写真。山田さんと一緒に、摩文仁の丘に通いタツオ君の実家のお墓の掃除にも行った。「摩文仁に行ったあとは、お昼も夜もご飯を一緒に食べる。ケンカするくらい、仲良しでしたよ」と大田さん。
最初のころは、部外者なのにいいのか、という引け目があったが、移住して7年。「おじいちゃんたちに会って話を聞くうちに、気にならなくなった」。
※1.糸満市摩文仁 沖縄戦終焉の地。平和祈念公園、平和祈念資料館などがある。
※2.鉄血勤皇隊 師範学校や旧制中学などの男子生徒で編成された学徒隊。
おおた・ひかり/1989年、大阪府出身。2011年福岡県の久留米大学文学部国際文化学科 歴史コース日本近代史ゼミ卒業。卒業論文で沖縄戦をテーマにし、卒業後、沖縄へ移住。一中学徒隊資料展示室の解説員に。沖縄平和ネットワークに所属し平和ガイドとして活動。
<6.23 慰霊の日「託された思い次世代へつなぐ」>
撮影/比嘉秀明・編集/栄野川里奈子
『週刊ほーむぷらざ・6.23 慰霊の日』
第1613号 2018年6月21日掲載
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