彩職賢美
2017年6月22日更新
[彩職賢美]比嘉座座長 比嘉陽花さん|島言葉で一人芝居
「今やっていることは、おじい、おばあを追い続けること。その中の一つに戦世はある」。島言葉による芝居で沖縄戦を語り継ぐ活動をして9年、比嘉座の比嘉陽花座長(34)が表現活動の動機を語った。問い続けることで答えが出るとは思っていない。「だけど、やった方がいいから続けている」。祖父母世代の命ある限り、舞台を踏み続ける覚悟だ。
戦世語り継ぐ活動続け9年
比嘉座座長
比嘉陽花 さん
比嘉さんの本職は老人福祉施設の職員だ。お年寄りがたくさん居る場所が自分の居場所と位置づけている。島言葉に多く接することができるのと、お年寄りと身近に接することでその人のたどった足取りが聞き取れるからだ。「ウチナーグチは沖縄の宝。できるだけ多くの島言葉に接して、その豊かさを伝えていきたい」。比嘉座の芝居はお年寄りから着想を得た作品ばかりだ。
座長の一人芝居「カンポーヌクェーヌクサー(艦砲射撃の喰い残し)」は、石川の伊波で終戦を迎えたお年寄りから聞いた実話に基づいて比嘉さんが台本を書いた。戦争体験者の前で戦争の場面を演じるのは刺激が強すぎやしないか。毎回、不安と緊張感を伴う舞台になるが、観覧したお年寄りからは、「チビラーサヌ(素晴らしい)」「ナトーンドォ(良くできている)」などと称賛の声が上がる。自分のひ孫ほどの若い比嘉さんが一生懸命演じる芝居に共感しているのが拍手になって伝わる。
「戦争があったことをお年寄りと若者が共有することはできない。隔たりがありすぎて。でも戦争があったことをもう1回かみ締めることをしたい。私たちは忘れていないよってことを見せたい」。芝居は五感のうち聴覚、視覚、触覚、嗅覚を動員することができる。フィードバックする手段としては最適だ。
芝居には小道具が登場する。「帽子クマー」は、帽子を編むときに使うかたどりの道具と収納箱を実物大に再現した。芭蕉で作った着物「バサージン」は美術館で眠っていたのを譲り受けた。そして何より思い出深いのが陶器の破片。スンカンマカイ(茶わん)の破片だ。比嘉さんにとっては単なる破片ではない。比嘉座の最新作「ちゃんぬスパイ」の制作を後押ししてくれた一品なのだ。
比嘉さんはシナリオを書くに当たって大事にしていることがある。まずは、お年寄りから聞き取ったウチナーグチをメモから起こして資料を作る。そして話の中に出てくる場所に必ず立つようにしている。
「ちゃんぬスパイ」の「ちゃん」は糸満市喜屋武のこと。喜屋武集落の人の証言に出てきた喜屋武岬を歩いていて、岩の間に落ちていたマカイのかけらを見つけた。その岩場に避難した人々が確かに居たという存在の証し。比嘉さんは喜屋武にまつわる作品を作ることが許された思いがしたという。
比嘉さんは、琉球大学教育学部で教育実践学演習「総合表現」の授業の外部講師も。学生は10人。みな、教員の卵だ。今取り組んでいるのは、家族や親戚、友人知人から沖縄戦の話を聞き取って、自分なりに解釈して外部に向けて発信すること。実際、6月25日には糸満市で「ウヤファーフジと私」のテーマで来場者に発表。比嘉座の新作芝居も披露する。
授業では学生の個性を大事にしている。うまくまとめきれないと表情がさえない学生とは授業時間が過ぎても1対1で向き合い、納得行くまで討論、明るい表情を引き出していた。
学生と比嘉さんは言う。「忘れたいのに思い出す苦しさ。それでも話してくれる。ありがたい」「知りたくない事実。受け止めるのも苦しいけど、伝えていかないといけない」。学生の言葉に、比嘉さんは大きくうなずいていた。
普段は別々に表現活動
比嘉座のメンバーは5人。普段は各自、それぞれの表現活動をしていて、全員の役回りがある演目を上演するときに集まる。
この日は夜、沖縄市内の公園に集まった。写真左から山里紗葉さん(32、介助員)、照屋寛文さん(34、教員)、比嘉さん、アコーディオンの香取光一郎さん(42、会社員)。徳元大也さん(31、会社員)は仕事の都合で不参加。
出会いは9年前、沖縄市銀天街であったアートイベント。互いに引かれ合い、活動を共にするようになった。
芝居で使う小道具類
①「スンカンマカイ」のかけらは「ちゃん」の舞台、糸満市喜屋武で拾った。作品作りを許された思いがしたという。②は「帽子クマー」、③は「バサージン」。いずれも芝居に使う。
「慰霊の日」の企画各地で
6月23日は県立博物館・美術館で島クトゥバによる戦争証言記録の上映やうちなぁぐち会の桑江常光会長らとのトークセッション。25日には琉大の教え子らが聞き取った戦争体験を基に創作した、詩の朗読がある。
比嘉さんのハッピーの種
Q.気分転換はどうしてますか?
散歩。海のそばを散歩するのが好き。
さる満月の夜に職場のあるヤンバルの集落内を歩きました。ヤンバルは土地のチカラが残っていますね。強いです。車で通り過ぎるだけでは気づかない、人じゃない、自然とでもいうべき気配。感動します。
料理を作るのも好きです。得意なのは「クーブイリチー」。比嘉座の公演時や大学生との課外活動の際に差し入れたりします。
PROFILE
比嘉陽花(ひが・はるか)
1982年うるま市出身。琉球大学国際言語文化学科から同大大学院修士課程修了。2008年にメンバー4人と比嘉座結成。沖縄本島と石垣市白保の島言葉を用いた演劇を創作。県内各地の公民館、学校などで自主公演を続けている。主な作品に「木にそだてられた子ども」(08年発表)「帽子クマー」(10年発表)「カンポーヌクェーヌクサー(艦砲射撃の喰い残し)」(15年発表)ほか。
[今までの彩職賢美 一覧]
撮影/矢嶋健吾・編集/上間昭一
『週刊ほーむぷらざ』彩職賢美<1259>
第1562号 2017年6月22日掲載