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2012年9月13日更新
旧盆の島で「未来の宝を育む豊かさ」
海んちゅ写真家 古谷千佳子のフォトエッセー「潮だまり」vol.18
旧盆の島で
未来の宝を育む豊かさ
この安らぎは、どこから来るのだろうか? 昔の沖縄の風情が残る集落のたたずまい、そして海の青、森の緑に囲まれた自然景観が色濃く残る「島」だから、ということは大きな理由の一つであろう。
琉球神話の祖神であるアマミキヨ、シネリキヨが祀られている神話にまつわる伝説が残る浜比嘉島。私の場合、神話や神様が住む場所は恐れ多くて、知っていながら近寄ることがなかなかできない。
「御縁」があって初めて訪れることができる。その縁とは大抵、海の人。そうであっても、旧盆やシーミーなど、直接お会いしたことのない「ご先祖さま」との交流の場に出入りすることには、いささか抵抗がある。海人(うみんちゅ)オジィやご家族の方々の懐の広さ、温かさに甘えさせていただき、いつしかお邪魔するようになってしまったが…。
那覇市の保育園に通う息子にとってエイサーは、運動会などで披露するものだったり、国際通りのパレードで見たりと、「かっこいい踊り」として見る機会が多い。村々を練り歩き回ってくるエイサーを、家の中でチムわさわさーしながら待つという体験は、ナイチャーの母としては、大変うれしいものだ。
自分より少し大きいお兄ちゃん、お姉ちゃんが、大人たちに交じって深夜遅くまで踊っている姿、ご先祖さまの霊にあの世で使うお金「ウチカビ」を送る風習ー。「どこに居るの〜?」とオジィに聞いているわが息子には、残念ながら彼らの存在は見えないようだ。けれど、この世に生きている人々以外の命の存在を感じられる伝統行事の体験は、今後の彼の人生に大きな影響を与えていると思う。
命の根っこが縦横無尽に繋がれるのは、豊かな土壌があるからだ。家であったり自然であったり、懐が深く温かいふかふかの大地の上に、ぐんぐん伸びる子どもたち。子どもは未来の宝。子だくさんの沖縄島はタカラモノにあふれている。「孫たちが集まるのが、オジィの幸せ」。どこのオジィ・オバァからも同じ事を聞いてきた。そして昔々のご先祖さまも同じ事を話されていたのだろうなぁ、と思う。
住んでしまうと当たり前になってしまう大切なこと。日々成長する子どもの存在や取材旅行という変化の中で、それが一層貴重なものだと認識できる。動くことによる摩擦は、写真家としてのエネルギーだ。沖縄でお世話になっている方々への恩返しとして恥じない表現をしなければ、と満月の映る海に誓うのだった。
[文・写真]
古谷千佳子(ふるや・ちかこ)
那覇市在住。海の仕事に従事、スタジオで写真を学んだ後、海人写真家となる。海・自然と調和する人々の暮らしや伝統漁業を主に撮影する。TBS「情熱大陸」などに出演。著書に 写真集「たからのうみの、たからもの」、「脳を学ぶ2」(共著)ほか
http://www.chikakofuruya.com/
古谷千佳子のフォトエッセー『潮だまり』
週刊ほーむぷらざ 第1316号・2012年9月13日に掲載