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2012年5月10日更新

一人追い込み漁「海に生きる「技」の世界」

海んちゅ写真家 古谷千佳子のフォトエッセー「潮だまり」vol.14

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一人追い込み漁

海に生きる「技」の世界



今や冬は写真整理や写真展、夏を中心に取材活動と、年間を大きく二つに分けるライフスタイルですが、1年中撮影三昧だったころより、体にはとても厳しいと感じる。

20年近く動き回っていた人間が、パソコンに向かって座り続けるのは本当にきつい。海に潜ったり写真を撮るための「動く筋肉」と、「座る筋肉」は全く異なるようだ。

そういう訳で欠かせない筋トレですが、撮影シーズン間近になって、ようやく「水を掴む感覚」を体が思い出し始めた。

プールの水は止まっている。水は重たく、それを掴んで、前に進む感覚だ。腕を回転させ、足をキック(バタ足)して、クロールは前進する。

でも海は違う。常に水が動いているからだ。押しては返す表層の波だけでない。中層、海底と水の動きは違う。数センチの差でも、全く異なる複雑な潮の流れ。水を掴むのは困難だ。だから海では足ヒレ(フィン)が欠かせない。横に動くのにも、水底を目指すのにも、足ヒレが無くては撮影どころでない。

そんな海を、はだしで漁を続けていた海人の中で、一緒に潜らせていただいたのは二人だけ。どちらも当時80代。足の指と指の間に水かきが付いているのではないかと思うくらい素早く泳ぎ、足ヒレを履いている私をアッという間に引き離して泳いでいってしまった。

特に、本部の"ゼンエイオジィ"は潜り漁の名人で、若いころは「アギャー(集団追い込み漁)」の頭領でした。しかし身体を壊してしまい、他の漁を試みたそうですが、「潜り漁しか自分にはできない」と気付き、試行錯誤の末にたどり着いたのが「一人追い込み漁」です。微妙な潮目を読んで、力でなく技で海を泳ぐオジィ。魚の道、タコの遊び場などなんでも知っていて、海の生き字引でした。

5月5日に三回忌を迎えられたゼンエイオジィから学ばせていただいたことを、これからも次の世代に伝え続けていきます。この場を借りて、あらためてご冥福をお祈り申し上げます。



[文・写真]
古谷千佳子(ふるや・ちかこ)
那覇市在住。海の仕事に従事、スタジオで写真を学んだ後、海人写真家となる。海・自然と調和する人々の暮らしや伝統漁業を主に撮影する。TBS「情熱大陸」などに出演。著書に 写真集「たからのうみの、たからもの」、「脳を学ぶ2」(共著)ほか
http://www.chikakofuruya.com/​
 
古谷千佳子のフォトエッセー『潮だまり』
週刊ほーむぷらざ 第1298号・2012年5月10日に掲載

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