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2012年4月12日更新
極限に生きる「待つ気持ち」の芽生え
海んちゅ写真家 古谷千佳子のフォトエッセー「潮だまり」vol.13
極限に生きる
「待つ気持ち」の芽生え
生と死が隣り合わせの「海中」世界に生きる海人(うみんちゅ)たち。サンゴ礁の地形を利用して、海底に網を張り、グルクンを捕獲する大型の追い込み漁「アギャー」。脅し棒を持った十数人のダイバーたちは、水深20メートルくらいの海底で(漁場により水深は異なる)横一列に並び、海中の魚を一気に追い込む。
今でこそ水中ボンベを利用しているが、昭和40年代までは、それを素潜りでやっていた。道具が便利になっても、水中で呼吸ができない人間にとって、海中は「板子一枚下は地獄」の世界。一歩間違えば死につながる、というぎりぎりの世界で、海人たちは自然の脅威を常に感じて生きている。
そういえば港での痴話ゲンカ。「好きか嫌いか、はっきりしろ〜! こんな気持ちで海にいけるか〜っ」と怒鳴っていた海人を見たことがある。海には余計な「気持ち」を持っていくと、それは死につながりかねない。海人(男)ならば、陸で待ってくれる覚悟を決めた母ちゃんが一番、ということだ。
海人を追いかけることで「生」を感じてきた私が今、転換期にある。
女は、時に命がけで出産し、育児を通して「生」を体感し続ける。おなかの中にいる時、そして、何処へでも抱っこ、おんぶで連れ歩ける赤ちゃん時代には分からなかった心配事。それは「待つ」という気持ち。成長と共に子どもが親から離れる時間が長くなる。離れている間、何が起きているのかーなどの心配は、海に出た夫を待つ気持ちに近いのか? 息子の帰りを待ちながら、そんなことも考える。私は生まれて初めて、何かを待ち続ける存在となったようだ。ようやく「人」が「人間」になり始めたような…。この年で。
命のこと、食べること、生きること、繋がり。便利なモノに囲まれ、見えにくくなってしまった大切なことが「極限の世界」では分かりやすい。「潜り漁」を切り口に、今だからこそ伝えたいメッセージを見て、触れて、感じて、創って、五感を刺激し、心身で吸収して下さい!
[文・写真]
古谷千佳子(ふるや・ちかこ)
那覇市在住。海の仕事に従事、スタジオで写真を学んだ後、海人写真家となる。海・自然と調和する人々の暮らしや伝統漁業を主に撮影する。TBS「情熱大陸」などに出演。著書に 写真集「たからのうみの、たからもの」、「脳を学ぶ2」(共著)ほか
http://www.chikakofuruya.com/
古谷千佳子のフォトエッセー『潮だまり』
週刊ほーむぷらざ 第1294号・2012年4月12日に掲載