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2012年1月12日更新
熨斗鮑「沖縄の暮らしに生きる」
海んちゅ写真家 古谷千佳子のフォトエッセー「潮だまり」vol.10
熨斗鮑(のしあわび)
沖縄の暮らしに生きる
潜る女、海女さんの獲物の中心はアワビとサザエ。ところで沖縄では、アワビを食べる機会はほとんど無いが、沖縄の暮らしに欠かせないものとして姿を変えて、アワビは日常に存在している。
御祝儀袋の表には、黄色い短冊を長六角形の色紙で包んだ形状が印刷されているが、黄色い長方形は「熨斗鮑(のしあわび)」を表しているのだ。だから「のし袋」とも呼ばれる。
熨斗鮑は、薄くそいだアワビの肉を干しては伸ばしを何度も繰り返すことによって調製したもの。長くのしたアワビは長寿を表す食べ物として、古来より縁起物とされ、神饌(しんせん)として用いられてきたと聞いた。 伊勢の地に天照大神を祀ったとされる倭姫命(やまとひめのみこと)が国崎を訪れた際、「お弁」という海女からアワビを献上されたことが由来とされる熨斗鮑。今でも三重県鳥羽市国崎では、昔ながらの漁法で海女が採り、古来の製法で調製された熨斗鮑が、6月、10月、12月の3回、伊勢神宮に献納されている。
沖縄の漁村では、新暦と旧暦それぞれのお正月を、合わせて2回行う地域が残っている。新正月から、約1カ月遅れにやってくる旧正月までの間に、何枚も必要となる「のし紙」。そこに描かれているのが、豊かな森と繋がる海が育んだ、美味しいアワビなのだ。
伊勢神宮に献納するのしあわびを作るために使われる生アワビは年間4000〜4500個。国崎の人々と海女は、献納するアワビを絶やさぬよう、特別な規制を作って資源を守り続けている。その伝統が、形を変え、私たちの日常で広く生き続けているのだ。
それにしても、盆暮れ正月と、ご先祖様にお供えされた大量の供え物を、そのご加護とともに「ウサンデー」として頂けるのは楽しみの一つ。のし紙を外して、箱から小分けされたお菓子を取り出しては、取りっこしたり、分けっこしたり。子供たちの本気のケンカなど始まった日には、「ほほ笑ましいなぁー」と笑みがこぼれてしまう。
兄弟も少なく、ケンカさせられる関係を築きにくい時代への、これもご先祖様からのプレゼントなのかもしれませんね。
[文・写真]
古谷千佳子(ふるや・ちかこ)
那覇市在住。海の仕事に従事、スタジオで写真を学んだ後、海人写真家となる。海・自然と調和する人々の暮らしや伝統漁業を主に撮影する。TBS「情熱大陸」などに出演。著書に 写真集「たからのうみの、たからもの」、「脳を学ぶ2」(共著)ほか
http://www.chikakofuruya.com/
古谷千佳子のフォトエッセー『潮だまり』
週刊ほーむぷらざ 第1281号・2012年1月12日に掲載