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2012年2月9日更新
母の中の海「大いなる調和と安らぎ」
海んちゅ写真家 古谷千佳子のフォトエッセー「潮だまり」vol.11
母の中の海
大いなる調和と安らぎ
直感を信じて進んできた私は、いつも行動の意味するところを、後になって知ることとなる。十数年、海人(うみんちゅ)の撮影を続けてきたが、透明度の高い沖縄の海だから、被写体から離れて写真を撮ることができたのだ。昨年、海女さんの撮影で「味噌汁」と呼ばれる本州の海にあらためて潜り、そのことを知った。つまり離れると濁って写らない。
もう一つ、とても大きな発見は、海人(男)と海女(女)は「水平に潜って捕る」のか、「垂直に潜って採る」のか―という大きな違い。素潜りというシンプルな行動・仕事において、海中空間の移動の違いはとてつもなく大きなものだ。
横へ横へと水平に、移ろう海中景観を旅しながら、魚やタコを捉える海人(父親)たち。下へ下へと垂直に、地球の「へそ」目がけて潜っては貝やナマコを拾い、再び天上(海面)へと行き来する海女(母親)たち…。海女さんたちは、透明度が悪く見えない海底に向かう時、「いる」と信じて潜り、拾う。直感を大きく使うのだ。パワーであったり、大脳を使ってあれこれ考えながら泳ぐ、海人たち(男)とだいぶ異なる。
それは、ゼロを有にかえる「出産」と、産まれたわが子の成長を日々祈り待つという「育児」を通して、心身が変わっていくからではないかーと自らの経験からも感じるようになっている。命を育み外界へわが子を生み出すまで、お母さんが海になる。その間、ホルモンバランスも変わり、お米の炊ける匂いすら吐き気を感じ、後ろの人が誰だか匂いで分かってしまうとか、超越した能力が引き出される体験をした妊婦も多いのではないか?
時にはこれまで作り上げてきた社会環境を捨てなくてはならないという決断。心身ともにリセットされ、自然に寄り添う時、人間も自然と調和していく。女性は海に入らずとも、そういう「きっかけ」を持っている。「お母さんの中の海」を知った時、海人オジィをはじめ、海で泳ぐ人々の安らぎの気持ちをあらためて感じられるようになってきた。
[文・写真]
古谷千佳子(ふるや・ちかこ)
那覇市在住。海の仕事に従事、スタジオで写真を学んだ後、海人写真家となる。海・自然と調和する人々の暮らしや伝統漁業を主に撮影する。TBS「情熱大陸」などに出演。著書に 写真集「たからのうみの、たからもの」、「脳を学ぶ2」(共著)ほか
http://www.chikakofuruya.com/
古谷千佳子のフォトエッセー『潮だまり』
週刊ほーむぷらざ 第1285号・2012年2月9日に掲載