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2011年11月10日更新
「女」であること「周りの全てが力の源泉」
海んちゅ写真家 古谷千佳子のフォトエッセー「潮だまり」vol.08
「女」であること
周りの全てが力の源泉
10月末、三重県鳥羽市に日本列島と韓国済州島の海女さんが大集合した。海女文化を地域活性化に繋げるのが狙いで、今年で3回目。この夏、私が海女の撮影を行っていたのは、このサミットに合わせた写真展示が目的であったが、私自身が海女とい う存在に特に興味を持ち始めたのは、10年ほど前からだ。
体が小さく非力な「女性」である自分にコンプレックスを抱き、男に負けたくない! と自らを鍛え強くなることを目指し、人生を突き進んできた私が、憧れとしていたのが沖縄の海人(うみんちゅ)だった。特に素潜りでタコや魚を捕るシンプルな漁法を続けている海人たちの姿に尊敬の念を抱き、撮影を続けてきた。
しかし、彼らの厳しい仕事は、海と陸で境界を引くことで成り立っていた。男が捕ってきたものを女が処理し売りに行くという具合に役割を分担し、捕ることを「主」としたら、それを処理することを「従」とする関係にあった。そんな調和のとれた暮らしを美しく思い、憧れたのだが、海に潜ることが好きな女の私には、当てはまる場所がなかった。
そんな時、漁村社会の要である「海女」という存在が気になり始めたのだ。沖縄の海人がサバニを大海原に繰り出して、遠く南方の漁場を目指したように、男がもうけの大きい大規模な漁に携わるようになり、女性による海女漁という仕事上の住み分けができてきたのだという。
子供を育てながら海に潜り、妊娠中であっても産み月まで毎日海に潜るという海女。彼女たちの撮影を続け、その力の源が、男性と明らかに違うことを肌で感じた。
仕事が忙しくて疲れると口数が極端に減る海人と違い、海女さんは、とにかくよく喋る。泳ぎながらも「あはは、あははっ」と、よく笑う。男は一気に力を出し、休息し体力を蓄えと、オン・オフが明確なのに比べ、女は常にチャージしながら出力 しているような感じだ。
昔、沖縄オジィから聞いた話。「女(神人)は、海、空気、太陽、子供、周りにある全てのものからエネルギーを吸収できるが、男は女からしか吸収できない」。これは女が、子供を産み育てるという使命を持って生まれてきているからこそ出来ることなのではないかと、納得できるのだ。
あれほど、女に生まれてきたことにコンプレックスを持っていた私が今、「女が面白い」と心底思えるのだ。
[文・写真]
古谷千佳子(ふるや・ちかこ)
那覇市在住。海の仕事に従事、スタジオで写真を学んだ後、海人写真家となる。海・自然と調和する人々の暮らしや伝統漁業を主に撮影する。TBS「情熱大陸」などに出演。著書に 写真集「たからのうみの、たからもの」、「脳を学ぶ2」(共著)ほか
http://www.chikakofuruya.com/
古谷千佳子のフォトエッセー『潮だまり』
週刊ほーむぷらざ 第1272号・2011年11月10日に掲載