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2011年7月14日更新
女たち「オバァの笑顔海照らす」
海んちゅ写真家 古谷千佳子のフォトエッセー「潮だまり」vol.04
女たち
オバァの笑顔海照らす
沖縄の海人に憧れ、一時期は「海人になりたい!」とまで思った私。彼らの勇姿を写真で収めようと、写真家に転向して、はや14年が過ぎた。
その間、海人の勇ましさを追い続けるうちに、命がけの海の仕事をする男達を支える女性達の姿に惹かれるようになっていった。まるで大地にしっかりと根をしなはるような靭(しな)やかな強さが感じられる。
家を守り、ご先祖さまから受け継がれた先祖代々の時間という縦軸と、女性(陸にすむもの)達の地域社会という横軸とが綿密に張り巡らされた根っこはとてもがっちりとしていて、台風や地盤沈下くらいではほどけない強いもの。それが、ロケットの発射台をしっかり支え、そこから夫や息子達が飛び放たれる、そんなイメージが思い浮かんできた。
そんな強さと、「ケタケタ」と箸が転がるだけでも笑ってしまうような「女学生」のようなかわいらしさを合わせ持った島のオバァ達。とても明るくておしゃべり好きな彼女達は、暗い夜、海にサバニを走らせる男たちの灯台のような存在なのだと、気が付いたとき、一見相反する者同士が、お互いの領域を侵さずに寄り添い合って生きている「陰陽調和の世界」が見えてきた。
そんな海辺の暮らしに憧れつつも、自分はどこにも当てはまることができない。母となった今でも、父母業を兼任しなければならない立場となってしまった。手本にできる女性像が見つからなかった私が、ふと出産前に会いたくなったのは、伊勢志摩の海女さん。「テー(夫)ひとり養えんようではヤヤ(妻)の資格がない、とか言うたりもするんよ。伊勢志摩の女は働き者なんやわ(笑)」と話して、その頃の私を励ましてくれた。
「海の民において、おなじ海人でも女が主として働くところでは、女は男や子供を養っていくことができなければ一人前の資格が無いと考えられている」という記録を、民俗学者の宮本常一氏が残している。私のアンテナがそちらに向いたとき、舞い込んできた海女さん撮影の仕事。女の強さにも色いろあるだろうが、私が今求めている答えをここで見つけることができるのだろうか…。しばらく、子連れ取材旅行に行ってきます。
[文・写真]
古谷千佳子(ふるや・ちかこ)
那覇市在住。海の仕事に従事、スタジオで写真を学んだ後、海人写真家となる。海・自然と調和する人々の暮らしや伝統漁業を主に撮影する。TBS「情熱大陸」などに出演。著書に 写真集「たからのうみの、たからもの」、「脳を学ぶ2」(共著)ほか
http://www.chikakofuruya.com/
古谷千佳子のフォトエッセー『潮だまり』
週刊ほーむぷらざ 第1255号・2011年7月14日に掲載