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2011年5月12日更新
タクマーイ「人間と同じ タコ夫婦」
海んちゅ写真家 古谷千佳子のフォトエッセー「潮だまり」vol.02
タクマーイ
人間と同じ タコ夫婦
潮が大きく動く大潮の時には、海の中の生き物たちの動きが活発になります。そうなれば漁を営む海人たちも忙しくなり、海人を追いかける私も慌ただしくなってきます。海人の財産とも言われ、その場所は家族にさえ教えないというタクヌヤー(タコの家)。海の中にあるヤーを次々回ってはタコを捕る漁法を「タクマー イ」と呼びます。
タコは、素潜りで海に潜って手モリで突いて捕ります。上等なタクヌヤーには、捕っても捕っても次々とタコが入ってきます。タクマーイのオジィによって家主を失ったタクヌヤーには、2〜3日の間にまた新しい住人が入っていることもあるのです。
タコの夫婦を見つけた場合、さて、どちらから捕るでしょうか? オスを先に捕ると、メスはピュー〜ッと逃げてしまいます。メスを先に捕った場合、オスはいつまでも未練たらしくメスを追いかけ続けるので、2匹とも捕ることが出来る。「人間の男といっしょだよ〜」とオジィ海人は笑って教えてくれました。ちなみに、モテるメスダコの条件は「オスが抱きつきやすいサイズ」とのことです。
海の中には「魚の通り道、タコの遊び場所や休憩場所」などがあること、月夜の海中ではタコのカップルが手をつないで歩いている話、遠くを見ているタコが人間同様に「おでこ」に手を当てるようにしている話など、いろんなエピソードを聞かせ てもらってきました。
海人を追いかけることで、海の生き物たちの親しみやすい振る舞いを知るとともに、 「生き物が食べ物になる」という現実を目の当たりにし、それを受け入れた時、私の中でいろいろなものが繋がり始めました。「人が生きることの原点」をそこに見た のです。
海人と一緒に沖縄の海を潜り始めて20年近くなります。これまでの素晴らしい出会いと忘れられない体験を、ノンフィクションという形で出版する機会をいただきました。陸にいては見えない「海のお話」を、ぜひ読んでいただきたいです。
[文・写真]
古谷千佳子(ふるや・ちかこ)
那覇市在住。海の仕事に従事、スタジオで写真を学んだ後、海人写真家となる。海・自然と調和する人々の暮らしや伝統漁業を主に撮影する。TBS「情熱大陸」などに出演。著書に 写真集「たからのうみの、たからもの」、「脳を学ぶ2」(共著)ほか
http://chikakofuruya.com/
古谷千佳子のフォトエッセー『潮だまり』
週刊ほーむぷらざ 第1246号・2011年5月12日に掲載