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2023年10月5日更新
年金受給、繰り下げがお得?|賢く生きる!マネー術⑦
文・岡田有里(ファイナンシャルプランナー)
Q 年金受給、繰り下げがお得?
A 条件によるので慎重に検討
年金の受給を75歳に繰り下げると、最大84%の増額になります。「何てお得なの!」と喜びたくなりますが、お得かどうかは個人の条件で異なります。老後の資金計画の中で慎重に検討することが必要です。
繰り下げ、繰り上げって?
公的年金の支給開始年齢は原則65歳ですが、希望すれば早く受け取る(繰り上げ)か、遅く受け取る(繰り下げ)ことが可能です。2022年度施行の年金改正で75歳までの繰り下げが可能となりました。働き方、家計状況、健康状態に合わせて受給開始年齢を60~75歳から選べるようになり、自分らしい老後のライフスタイルをデザインする選択肢が広がりました。
年金受給開始を65歳から1カ月繰り上げるごとに0.4%減り、1カ月繰り下げるごとに0.7%増える仕組みです。(表①:開始年齢ごとの増減率)
例えば、令和3年度の統計※1によると沖縄県の年金平均額は厚生年金が約12万4千円、老齢基礎年金が約5万2千円でした。70歳まで5年間繰り下げた場合の増額率は0.7%×12カ月×5年=42%ですので、厚生年金が約17万6千円、老齢基礎年金が約7万4千円となります。
繰り下げ受給でメリットがある人
以下に当てはまる人は、繰り下げ受給でメリットがある可能性があります。
①65歳以降も働く予定の人
年金を受給しなくても生活できる程度の収入がある間は繰り下げをして年金増額を検討しても良いでしょう。
②年金額が低い人
主婦、扶養期間が長かった人、個人事業主は年金額が低く、老齢基礎年金が満額でも78万900円です。70歳まで(5年間)繰り下げると1.42倍の約110万8千円に増えます。
③夫より若い妻、同年齢の妻
日本人の平均寿命※2は男性81.05歳、女性87.09歳。女性が約6年長生きなので妻は夫の死後、6年を1人で過ごすと予想されます。また、女性の年金額は男性よりも低い傾向があり、妻の年金を繰り下げて増額しておくことは夫亡き後の妻の老後を支える資金対策の有効な手段です。
繰り下げ受給のデメリット
①損益分岐年齢より早く死亡する可能性
受給開始が65歳と70歳の総受給額を比較すると70歳での受け取りが65歳スタートの総受取額を超えて「お得」になるのは81歳頃の計算です。※3 言い換えれば70歳~81歳の間に死亡すると繰り下げ損です。寿命は誰にも分かりませんが、繰り下げのメリットを得るには長生きすることが前提条件です。
②税金や社会保険料が増える
年金額が増えると所得税、住民税、国民健康保険料、介護保険料が連動して増え、年金の手取り額は増額率ほど増えない可能性があります。
③繰り下げできない年金の種類がある
特別支給の老齢厚生年金、加給年金、振り替え加算は繰り下げが出来ないので受け取れなくなる可能性があるので注意が必要です。
繰り上げ・繰り下げは、効果を管轄の年金事務所で相談して慎重に決めましょう。年金は子孫に相続できず、法改正で受取額は変動しますが、自分の資産や死亡保障の保険は子孫に残せて法改正による影響を受けにくいです。年金だけでなく、貯金・保険・運用を組み合わせた資産形成に早期に取り組みましょう。
※1 令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況によると、沖縄県の老齢厚生年金平均月額は12万3755円、国民年金平均月額は5万2112円。
※2 令和4年厚生労働省簡易生命表より。
※3 税金(所得税・住民税)や社会保険料、介護保険料、加給年金額などは自治体や個人により異なるため計算に含めていない。
おかだ・ゆり/ファイナンシャルアライアンス(株)沖縄支店所属。外資系企業を経て沖縄へ。女性のマネー知識の底上げをライフワークに活動
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『週刊ほ〜むぷらざ』賢く生きる!マネー術⑦
第1887号 2023年10月5日掲載
この記事のキュレーター
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- 岡田有里
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ファイナンシャルプランナー。ファイナンシャルアライアンス(株)沖縄支店所属。外資系企業に就職し海外勤務を経験し、2000年に沖縄へ。「私の未来に安心を!」をテーマに、女性のマネー知識の底上げをライフワークに活動。