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2023年2月9日更新

「自分で織ってみたい」 30歳直前で飛び込んだ女性 国指定・知花花織の世界[彩職賢美]

着物姿の凛とした女性を見るのが好きで、自分も着物を着たい、織ってみたいという思いから、地元・沖縄市で受け継がれてきた知花花織の世界に未経験で飛び込みました。残したい伝統を守りながらも、現代に合った形で発展させ、次世代へ継いでいきたい。


撮影/比嘉秀明


楽しく織り続ける

知花花織事業協同組合
副理事長 仲宗根 由加さん


伝統守りつつ新たな息吹
質の高い製品作り支える


国指定の伝統工芸品の一つである知花花織。「知花花織は紺地に赤白の縦浮き模様が特徴。シンプルだけど、深みと温かみのある美しさが魅力です。デザインを考えるときは、昔ながらの伝統的な柄や技法を教本でおさらい。特に着尺は、着た人が凛(りん)としていられるような柄、配色を心がけています」

知花花織に関わって17年。仲宗根由加さん(47)は、織り手として、オリジナルデザインの帯や着尺、小物などを織り上げる一方、再興事業で伝統柄の衣装復刻制作にも携わってきた。4年前からは、県委託の沖縄県伝統工芸製品検査員として、組合員が手掛けた帯や着尺をチェック。知花花織全体の品質管理、技術向上を支える。2021年には副理事長に就任。神田尚美理事長とともに、知花花織の普及と後継者の育成、販売体制の確立などに力を注ぐ。

製品の規格検査では、糸の継ぎ方や織り目の出方に不具合がないかなど、出荷基準に沿って細かく確認する。「自分が織っている数より、検査する数のほうが多い。私自身、仕上がりの質に対する意識と、責任感が増しました」。不具合があれば、制作時に困ったことなどを聞き、組合員一人一人のキャリアと状況に合わせて改善方法をアドバイスする。「組合の信用に関わることなので、厳しい目でチェックすることは必要。でも欠点を指摘するわけですから、織り手の意欲を下げないよう、言葉掛けには気を配っています」

知花花織専属の伝統工芸製品検査員は、仲宗根さんが初めて。自身が経験したことのない不具合を見つけることもある。「その技法が得意な別の組合員に心掛けていることを聞いて、織り手に伝えています。ほかの産地の先輩方にも、いろいろ教えていただいて感謝しています」

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着物が好きで、いつか自分で織ってみたいと思っていた。「でも、伝統工芸は、芸大に行くか、家業としての環境がないとに携われないと思い、諦めていました」。専門学校の事務職員として働く中で目に留まったのが、知花花織の研修生募集だった。「なりたい仕事に向かって頑張っている専門学校の学生たちを見ていて、私もやりたいことに挑戦しよう! という気持ちになりました」

20代最後の年、思い切って第6期研修生に応募。専門学校を退職し、知識も経験もない世界に飛び込んだ。研修期間は8カ月。朝から夕方までみっちり、基本技術を学んだ。「知花花織独特の紺地に赤白の柄、最初は素朴過ぎるなーと思っていました。でも、染めや織りの過程を学ぶほどに、その魅力の深さが分かるようになり、大好きになりました。同期と先生に恵まれ、毎日、新しいことを覚えていくのが楽しかった」と振り返る。当初は織り手としての収入だけで生活するのが難しく、夜はコールセンターでアルバイト。県工芸振興センターで約1年の研修を受けて、染織りの知識と技術を高め、先輩たちと一緒に、08年の組合設立に奔走した。副理事長になったことで、組合員とのコミュニケーションが密になり、視点も広がった。組合員は60人余り。年代は20代~70代と幅広く、「デザインが得意、着付けや仕立てができるなど、いろいろな個性を持った人材が増えています。織りプラスアルファで、一人一人ができることを組み合わせていけば、組合はもっと活性化できる」。

目標は、「おばあちゃんになるまで織り続けること」。できる範囲で、長く携われる環境づくりも思案する。「いつかは、地元青年会のエイサー衣装をつくりたい。若い人たちに知花花織の魅力を感じてほしい」と話す。柔らかな物腰の奥に宿る静かなる熱意で、伝統を次世代へ引き継ぐ。


 品質管理に余念なし 

地元、知花地域の五穀豊穣(ほうじょう)の奉納舞踊「ウスデーク」や馬乗り競走「ンマハラセー」などの祭事で着る晴れ着として、地域の人たちに親しまれてきた知花花織。模様が縦方向に連続して浮く「経浮(たてうき)花織」と、刺しゅうのように糸が浮く「縫取(ぬいとり)花織」の二つの技法が特徴だ。同組合では、帯や着尺をはじめ、コースターやテーブルセンター、名刺入れ、財布、ストラップ、かりゆしウエアなど、現代の暮らしに取り入れやすい身近な商品づくりにも力を入れる。

仲宗根さんが手掛ける規格検査では主に、帯や着尺をチェック。検査を通過しなければ、問屋に出荷することができない。「例えば、織り糸が切れた時でも、つなぎ目を目立たなくする工夫があります。不具合が見つかった組合員には、制作段階で気を配るポイントなどもアドバイスします」。専任の検査員は、生産反数に応じて配置されるため、知花花織では2018年に初めて仲宗根さんを推薦し、採用された。

「県全体で伝統工芸品の製品検査に取り組んでいる地域は、他府県ではあまりないようです。検査員がいることで、組合員が織りの質に意識を向け、安定した生産につながるので、とても助かっています」と神田理事長=写真右。

仲宗根さんは、約4年従事するベテランだが、「判断に迷う不具合は、経験豊富な理事長と一緒に判断しています。問屋さん、お客さんに迷惑がかからないよう、しっかり品質を維持していきたい」と力を込めた。


 初めて織った着尺 


仲宗根さんが初めて着尺を織り上げたのは、2008年。組合設立に向けて、みんなで帯や着尺の制作に励んでいた。当時、仲宗根さんは県工芸振興センターで研修を受けている真っ最中。「夜はバイトもあり、めちゃくちゃ忙しくて大変でしたが、達成感がありました」と仲宗根さん。昔から着物に憧れがあったため、そのとき織った着尺は、自分のための着物に仕立ててもらった=写真。

「私の一張羅です。着物は着るにも、手入れをするにもちょっと手間が掛かりますが、やっぱり楽しいし、気持ちが落ち着く。一手間を楽しむゆとりが持てる人になりたいですね」。



知花花織事業協同組合 電話=098(921)1187



プロフィル/なかそね・ゆか
1975年、沖縄市生まれ。沖縄ソーシャルワーク専門学校を卒業後、同校で事務職員として6年間勤務。2005年、知花花織後継者育成事業第6期研修生となり、修了後、知花花織研究会に入会。08年の事業協同組合立ち上げに関わり、理事などを経て21年から副理事長。沖縄県伝統工芸製品検査員として、知花花織検査所で検査業務にも携わる


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文・比嘉千賀子(ライター)
『週刊ほ〜むぷらざ』彩職賢美<1420>
第1853号 2023年2月9日掲載

この記事のキュレーター

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比嘉千賀子

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編集者
住まいと暮らしの情報紙「タイムス住宅新聞」元担当記者。猫好き、ロック好きな1児の母。「住まいから笑顔とHAPPYを広げたい!」主婦&母親としての視点を大切にしながら、沖縄での快適な住まいづくり、楽しい暮らしをサポートする情報を取材・発信しています。

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