介護
2021年11月11日更新
[沖縄]11月11日は介護の日|ちょっと待った!介護リタイア
介護現場の離職率の高さや、家族が介護のため仕事を辞めてしまう、いわゆる「介護リタイア」。さらに、介護を受けたくても受けられない「介護難民」。これら介護にまつわる課題を、介護に携わる人たちの声を交えて考える。
介護が必要なのに、施設でも病院でも家庭でも介護を受けることができない「介護難民」が増加。その要員の一つが介護職の人材不足や高い離職率だ。改善策の一つとして、おもと会が推進するのが福祉用具を使った「抱えない介護」。金城知子さんは「介護する人、される人、双方にとって優しい介護は介護の質を向上させ、介護職の魅力向上、職の定着につながる」と力を込める。
腰痛悪化による離職 福祉用具の利用で改善
介護難民とは、介護が必要な状態なのに適切な介護サービスを受けることができない65歳以上の高齢者のこと。その増加の要因の一つが介護職の人材不足だ。特に2025年には高齢化率が30%に達し、介護職員の数は約32万人不足すると推計されている。
介護職員の必要数 職員は32万人不足!
高齢化が進み、介護保険制度上の要支援者、要介護者の数も増加。2025年には国内で約243万人の介護人材が必要になると推測されている。19年と比べ、25年で約32万人、40年には約69万人が不足する計算(資料:第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について)
沖縄県の年代別人口推移 2025年には75歳以上が3割
2025年には団塊世代(1947〜49年生)が75歳以上となり、日本の人口構造は高齢者が急増して、生産年齢人口が急減する局面に変化。沖縄県の高齢化率は24.6%に達すると推計される(資料:沖縄県高齢者保健福祉計画)
おもと会から介護を変えていくプロジェクトリーダーの金城知子さんは「介護職は人でないとできない、やりがいのある仕事。しかし、きつい仕事というイメージで人が集まらなかったり、記録や片付けなど雑用が多く多忙や腰痛悪化などの理由で離職する人が多いのも課題の一つ」と指摘する。
オーストラリアでは看護師の腰痛予防のため、人力のみの移乗介助が禁止されている。しかし、日本の介護の現場ではまだ、職員が力任せに抱え上げていることが多いのが現状だ。
「抱え上げる介護は、介護される人に緊張を与え、関節の動きが悪くなる拘縮が強くなる。逆に福祉用具を使った抱えない介護は緊張を緩和し、表情などを確認しながら介助できるので、双方がゆとりを持って向き合うことができる。介護職の負担軽減だけでなく、介護される人にとってもメリットが大きいことを知ってほしい」と話す。
金城さんは、おもと会の施設で働く介護職員に福祉用具の使い方や技術を指導し、介護する人、される人の双方に優しい「抱えない介護」を推進している。リーダーを育成し、各施設に配置。チームで取り組ませることで浸透を図る。「いかに職員の意識を変えさせるかが大事。抱えない介護は相手にとっても優しいケア。介護の質が良くなれば、仕事への魅力、やりがいが高まり、職の定着にもつながる」と力を込める。
福祉用具でQOL向上
福祉用具などを使った介護する人、される人の双方に優しい「抱えない介護」は、福祉施設だけでなく、在宅介護でも必要なことと金城さん。
要介護者を支える折り畳み式リフトをホテルに持ち込み、家族旅行を楽しんだ人の事例を紹介し、「介護を長続きさせるためには、我慢したり、抱えて腰痛を起こしたりするのではなく、福祉用具も活用して生活の質(QOL)を上げ、交流や楽しみを持つことも大切」と話す。また今後、終末期を自宅で過ごす人が増えるなど、在宅介護のニーズが高まるとも予想している。
「コロナ禍が落ち着いたら、介護職や地域の人々に向けた介護の相談会、福祉用具の説明会を開きたい」とその日を心待ちにしている金城さん。介護する人、される人、双方に優しい抱えない介護を普及させ、介護を担う人々を応援したいとほほ笑む。
トイレの時、車いすに座った状態のまま要介護者の体に専用のつり具を装着し、天井に設置されたレールの可動式ハンガーに引っ掛け、つり上げて、便座まで移乗できる。写真は据え置き型。スペースに合わせ後付けできる。おもと会は、リフトなど福祉用具を使ったケアが体験できる「ノーリフトラボ」を開設。詳細は下記のケア・クロッシング寄宮へ問い合わせを。
②手動スタンディングリフト
車いすから食事のいすやトイレの便座に移乗する時、軽い介助で要介護者の立ち上がりや立った状態を保ち、安全に座ることができる。ただし、要介護者は手すりなどにつかまる力があり、自力または誘導でお尻を浮かしたり、体を左右に傾けることができる場合に使用できる。
③スライディングボード
車いすからベッドやトイレなどに移乗するとき、座位のまま、お尻を滑らせて移乗することができる。比較的、入手しやすい用具であるが、「事故を防ぐために、要介護者の状態、状況に応じた安全な使用方法を作業療法士などから学ぶことが大切」と注意。ほかにも、「スライディングシート」「スライディンググローブ」(ほーむぷらざ2021年7月1日発行号「介護の楽ワザ」で紹介)などがある。
きんじょう・ともこ
1958年、岡山県生まれ。作業療法士。福祉用具プランナー。ノーリフトケア®️コーディネーター、日本リハビリテーション工学協会移乗機器SIG役員。 結婚を機に夫の出身地である沖縄へ移住。県内病院で急性期患者のリハビリを担当。2003年、医療法人おもと会沖縄リハビリテーション福祉学院で学生の指導にあたる。08年、同学院作業療法学科学科長に就任。18年、おもと会から介護を変えていくプロジェクトリーダーに就任。
現場の声 「職員もお年寄りもラクで安心」
おもと会介護老人保健施設「はまゆう」で入所介護科科長として現場を束ねる具志堅竜輝さん(37)。17年間介護職に携わる中で感じてきた課題の一つが、職員の体への負担の軽減だ。「中でも腰痛は、介護職員なら誰しも抱える悩み。腰痛のため業務が続けられず、離職せざるを得ない職員を大勢見てきた」。その負担を緩和する取り組みとして近年力を注ぐのが抱えない介護。「例えばリフトは、初めのうちは揺れを不安がるお年寄りもいますが、実際に使ってみると『包まれる感じだねぇ』とリラックスした笑顔に。介護する側もされる側も楽で安心です。ベッドに設置して重度障がいの家族を在宅介護する例も増えている。リフトはレンタルもあるので、うまく取り入れることで、利用者の望む介護につがなれば」と期待する。
「困っている人の助けになれることがやりがい」。空き時間や介助の際も、利用者と他愛もない会話で盛り上がっているという。「コロナ禍で家族と過ごす時間が取れない利用者に、少しでも笑顔になってもらえたら」と、精神面のフォローも大切にしている。「方言を使うこともありますが、逆に教えてもらうことも多いんです。お年寄りも教えることで、必要とされていると実感してくれているのかなあと。いきいきとした顔を見せてくれるのがうれしい」と笑う。
ぐしけん・りゅうき/医療法人おもと会 介護老人保健施設「はまゆう」 入所介護科科長
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ちょっと待って!「家族のリタイア」
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「抱えない介護」で負担減腰痛悪化による離職 福祉用具の利用で改善
介護難民とは、介護が必要な状態なのに適切な介護サービスを受けることができない65歳以上の高齢者のこと。その増加の要因の一つが介護職の人材不足だ。特に2025年には高齢化率が30%に達し、介護職員の数は約32万人不足すると推計されている。
介護職員の必要数 職員は32万人不足!
高齢化が進み、介護保険制度上の要支援者、要介護者の数も増加。2025年には国内で約243万人の介護人材が必要になると推測されている。19年と比べ、25年で約32万人、40年には約69万人が不足する計算(資料:第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について)
沖縄県の年代別人口推移 2025年には75歳以上が3割
2025年には団塊世代(1947〜49年生)が75歳以上となり、日本の人口構造は高齢者が急増して、生産年齢人口が急減する局面に変化。沖縄県の高齢化率は24.6%に達すると推計される(資料:沖縄県高齢者保健福祉計画)
おもと会から介護を変えていくプロジェクトリーダーの金城知子さんは「介護職は人でないとできない、やりがいのある仕事。しかし、きつい仕事というイメージで人が集まらなかったり、記録や片付けなど雑用が多く多忙や腰痛悪化などの理由で離職する人が多いのも課題の一つ」と指摘する。
オーストラリアでは看護師の腰痛予防のため、人力のみの移乗介助が禁止されている。しかし、日本の介護の現場ではまだ、職員が力任せに抱え上げていることが多いのが現状だ。
「抱え上げる介護は、介護される人に緊張を与え、関節の動きが悪くなる拘縮が強くなる。逆に福祉用具を使った抱えない介護は緊張を緩和し、表情などを確認しながら介助できるので、双方がゆとりを持って向き合うことができる。介護職の負担軽減だけでなく、介護される人にとってもメリットが大きいことを知ってほしい」と話す。
金城さんは、おもと会の施設で働く介護職員に福祉用具の使い方や技術を指導し、介護する人、される人の双方に優しい「抱えない介護」を推進している。リーダーを育成し、各施設に配置。チームで取り組ませることで浸透を図る。「いかに職員の意識を変えさせるかが大事。抱えない介護は相手にとっても優しいケア。介護の質が良くなれば、仕事への魅力、やりがいが高まり、職の定着にもつながる」と力を込める。
福祉用具でQOL向上
福祉用具などを使った介護する人、される人の双方に優しい「抱えない介護」は、福祉施設だけでなく、在宅介護でも必要なことと金城さん。
要介護者を支える折り畳み式リフトをホテルに持ち込み、家族旅行を楽しんだ人の事例を紹介し、「介護を長続きさせるためには、我慢したり、抱えて腰痛を起こしたりするのではなく、福祉用具も活用して生活の質(QOL)を上げ、交流や楽しみを持つことも大切」と話す。また今後、終末期を自宅で過ごす人が増えるなど、在宅介護のニーズが高まるとも予想している。
「コロナ禍が落ち着いたら、介護職や地域の人々に向けた介護の相談会、福祉用具の説明会を開きたい」とその日を心待ちにしている金城さん。介護する人、される人、双方に優しい抱えない介護を普及させ、介護を担う人々を応援したいとほほ笑む。
「抱えない介護」に役立つ福祉用具①②③
①天井走行リフトトイレの時、車いすに座った状態のまま要介護者の体に専用のつり具を装着し、天井に設置されたレールの可動式ハンガーに引っ掛け、つり上げて、便座まで移乗できる。写真は据え置き型。スペースに合わせ後付けできる。おもと会は、リフトなど福祉用具を使ったケアが体験できる「ノーリフトラボ」を開設。詳細は下記のケア・クロッシング寄宮へ問い合わせを。
②手動スタンディングリフト
車いすから食事のいすやトイレの便座に移乗する時、軽い介助で要介護者の立ち上がりや立った状態を保ち、安全に座ることができる。ただし、要介護者は手すりなどにつかまる力があり、自力または誘導でお尻を浮かしたり、体を左右に傾けることができる場合に使用できる。
③スライディングボード
車いすからベッドやトイレなどに移乗するとき、座位のまま、お尻を滑らせて移乗することができる。比較的、入手しやすい用具であるが、「事故を防ぐために、要介護者の状態、状況に応じた安全な使用方法を作業療法士などから学ぶことが大切」と注意。ほかにも、「スライディングシート」「スライディンググローブ」(ほーむぷらざ2021年7月1日発行号「介護の楽ワザ」で紹介)などがある。
きんじょう・ともこ
1958年、岡山県生まれ。作業療法士。福祉用具プランナー。ノーリフトケア®️コーディネーター、日本リハビリテーション工学協会移乗機器SIG役員。 結婚を機に夫の出身地である沖縄へ移住。県内病院で急性期患者のリハビリを担当。2003年、医療法人おもと会沖縄リハビリテーション福祉学院で学生の指導にあたる。08年、同学院作業療法学科学科長に就任。18年、おもと会から介護を変えていくプロジェクトリーダーに就任。
現場の声 「職員もお年寄りもラクで安心」
おもと会介護老人保健施設「はまゆう」で入所介護科科長として現場を束ねる具志堅竜輝さん(37)。17年間介護職に携わる中で感じてきた課題の一つが、職員の体への負担の軽減だ。「中でも腰痛は、介護職員なら誰しも抱える悩み。腰痛のため業務が続けられず、離職せざるを得ない職員を大勢見てきた」。その負担を緩和する取り組みとして近年力を注ぐのが抱えない介護。「例えばリフトは、初めのうちは揺れを不安がるお年寄りもいますが、実際に使ってみると『包まれる感じだねぇ』とリラックスした笑顔に。介護する側もされる側も楽で安心です。ベッドに設置して重度障がいの家族を在宅介護する例も増えている。リフトはレンタルもあるので、うまく取り入れることで、利用者の望む介護につがなれば」と期待する。
「困っている人の助けになれることがやりがい」。空き時間や介助の際も、利用者と他愛もない会話で盛り上がっているという。「コロナ禍で家族と過ごす時間が取れない利用者に、少しでも笑顔になってもらえたら」と、精神面のフォローも大切にしている。「方言を使うこともありますが、逆に教えてもらうことも多いんです。お年寄りも教えることで、必要とされていると実感してくれているのかなあと。いきいきとした顔を見せてくれるのがうれしい」と笑う。
ぐしけん・りゅうき/医療法人おもと会 介護老人保健施設「はまゆう」 入所介護科科長
関連記事:「介護難民」にならないために
ちょっと待って!「家族のリタイア」
文・赤嶺初美(ライター)
『週刊ほ〜むぷらざ』特集・11月11日は介護の日|ちょっと待って!介護のリタイア
第1788号 2021年11月11日掲載