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2017年6月22日更新
開院65周年記念 公開市民講座「最先端の再生医療と美容医療に期待」|教えて!ドクター当山<193>
当山美容形成外科は2017年6月3日、開院65周年記念の公開市民講座を那覇市内のホテルで開催した。「形成外科医が行う再生医療」と題してアヴェニューセルクリニックの辻晋作氏が、「人は見た目が9割?」と題して東京大学名誉教授の波利井清紀氏が講演。会場に詰めかけた参加者150人は、最先端の治療法とその症例に熱心に耳を傾けた。講演のポイントをまとめ、主催した當山護院長に65周年の節目を迎えてのコメントも聞いた。
肌・髪・関節痛・脳梗塞に幹細胞治療
辻晋作氏(アヴェニューセルクリニック)
形成外科とは、手術はもとより、あらゆる手法を駆使して体の機能や形態をより正常に美しくする外科系の専門領域。美容医療においても、形成外科医は「ここからは手術でないと改善しない」という判断がつきますし、リフトアップ目的でレーザーを当てる際も、どこに集中的に照射すればより効果的なのかが分かる強みがあります。
当院も2002年に東京の六本木に開院以来、美容外科、形成外科、美容皮膚科、婦人科を手掛けてきました。そして昨年、6軒目として立ち上げたのが、当山美容形成外科の當山拓也先生とずっと一緒にやってきた再生医療専門のクリニックです。
再生医療とは自分の組織を使った治療のこと。中でも当院が用いているのは幹細胞で、三つに大別できます。卵子の卵でどのような身体細胞でも作り出すことができるES細胞、そのES細胞を人工的に作ったIPS細胞、そして成人の皮下脂肪に多く存在する体性幹細胞です。前の二つは万能ですが、倫理的な問題、成功率が低くコストがかかる点から実用化に至っていません。それに対し体性幹細胞は、前の二つほど万能ではありませんが、筋肉や軟骨、神経などになりうることが分かっています。われわれのクリニックで行っているのも、この体性幹細胞を使った治療の一部です。
実際の治療は、シワ、薄毛、膝関節痛、脳梗塞に対して実施。まず脂肪から採取した米粒1、2個分の幹細胞を1カ月ほど培養し注射します。シワに対してはコラーゲンやエラスチンが再生されてハリが出ますし、抗炎症作用が高いので肌荒れや赤みも治まる。例えばヒアルロン酸では改善しにくくボトックスでは表情が変わってしまうような目尻のシワにも効果的です。
加齢により減少した薄毛に対しては量を増やし太くします。
分かりやすいのが変形性膝関節症。膝軟骨がすり減って痛い方や、スポーツで同様の障害を受けた方に注射すると、劇的に痛みが軽減します。そしてもう一つ、腰骨から採取した骨髄由来幹細胞を使った点滴療法も行っています。体内のほぼすべての部位に循環している血液に投与することで、直接注射で治療できない脳に対しても幹細胞を作用させることができるのが特徴です。中でも加齢によってほとんどの人に認められる軽症の脳梗塞は、物忘れやイライラといった認知症の初期症状の原因の一つであり、この治療で改善が期待できます。
世界的にはパーキンソン病やアルツハイマー、潰瘍性大腸炎のような自己免疫性疾患、肺気腫、アレルギーに対する論文も発表されており、今後に期待が持てる分野です。
幹細胞治療について説明する辻氏
3種の幹細胞はさまざまな組織に変化する
「見た目」から活発な社会生活後押し
波利井清紀氏(東京大学名誉教授)
成外科と美容外科、その違いは何か? 一言でいえば、形態を作り機能を「回復」するのが形成外科、機能的には問題ないけれど形態をより「改善」するのが美容外科です。
では形成外科でなぜ傷痕がキレイに治るのか? それは非常に細い針と糸を使って丁寧に行う真皮縫合法という形成外科独特の縫合法によるもの。これにより、顔面にできた傷などもキレイに治すことができます。
また私の専門である再建外科では、自分の組織を血管ごと移植し縫合する「遊離皮弁移植」を用い、自分の皮下脂肪を使って乳房を再建したり、失くしてしまった手の親指の代わりに足の親指を移植したり、頸部食道がんに対し空腸を移植することができます。また頭部の腫瘍などを切除して起こる顔面まひに対しても有効。片側がまひしている場合、もう片方の頬の筋肉や血管をつなぐことで笑えるようになったケースもあります。
では、ここで美容外科の歴史を振り返ってみましょう。歴史的には第二次世界大戦の後、とある病院が「美容整形」を始めました。ところが手技も粗雑で感染症を起こすなど問題が重なり、美容整形=悪いものというイメージがついてしまいました。その後、学会が作られるなどの活動を経てようやく1975年に「形成外科」が、その3年後に「美容外科」が一般標榜科として認められましたが、それまでの約50年間、美容整形という言葉が使われてきたわけです。
美容外科が飛躍するきっかけとなったのは男女ともに少しでも若く美しく見せたいという抗加齢医学の登場。アンチエイジングという言葉が広まり、ピーリングなどを行う皮膚科やサプリメント等を処方する内科、われわれ形成外科に至るまで、多くの科が関わる現在の「美容医療」へと発展してきました。
将来的に目指すのは、美容整形と言われた時代からのイメージの転換です。そのためには大学など教育施設における専門医制度の確立が不可欠です。
美容医療でわれわれ形成外科が行っているのは、たるみを取る手術・フェイスリフトや体形を整える脂肪吸引注入、植毛、注入物やレーザーなどの非手術、トレチノインの軟膏療法など。昨今増えているのは加齢によってまぶたの腱膜がゆるみ、上がらなくなる眼瞼下垂の治療です。
高齢化社会において眼瞼下垂の治療は、見えづらさが解消されて世界が明るくなったと喜ばれる。見た目が良くなれば精神的にも明るくなり、健康的で活発な社会生活が送れるようになる。見た目が9割と題したゆえんです。そしてそれを実現するのが、形成外科、美容外科の役割だと考えています。
形成外科・美容外科の歴史と治療事例を紹介する波利井氏
美容医療に関わる科やその治療内容は多岐にわたる(公開講座スライドより)
65周年に寄せて 何事も縁
日本の形成外科は大森清一先生が米国からダーマトームという皮膚採取器を持ち帰ったときから始まったと言われています。そのころ、当院の初代當山堅次は新しい外科学を求め上京。大森先生と出会い、沖縄でも多くの形成外科疾患を治療していただきました。その後、2代目の私が大森先生に従事。門下生として共に学んだのが波利井清紀教授です。彼は「遊離皮弁移植」の創始者で世界の第一人者。つまり日本の形成外科は2人のリーダーのもと、今年60周年の還暦を迎えていると言っても過言ではありません。一方、波利井教授に学んだ3代目の拓也が当院を引き継ぐのが開院65周年となるの今年。われわれはまさに日本の形成外科の夜明けに生まれ、育ってきた不思議なご縁に支えられています。
當山護 氏(当山美容形成外科 院長)
<過去記事一覧>
『週刊ほーむぷらざ』 教えて!ドクター当山<193>
第1562号 2017年6月22日掲載