出産・子育て
2019年2月28日更新
[イマドキ子育て・ダウン症]ダウン症のある子を育てる・見守る
3月21日は世界ダウン症の日。県内でもイベントが開かれます。これを機に、ダウン症のある人に目を向けてみませんか。ダウン症のある子を育てるお母さんたちや療育に関わる医師に話を聞きました。
周囲の理解が大きな力になる
ダウン症は知的な発達の遅れがあり、合併症を伴うことがあります。ダウン症のある子の療育に関わる泉川良範医師は「親だけで抱え込むと苦しくなる。社会で育てることが大切です」と言います。
親の会の古川明美さん(52)は「子育ては大変だけど幸せ。周囲の理解が大きな力になります」と話します。古川さんをはじめ、ダウン症の子のいる母親4人に体験談を聞きました。
世界ダウン症の日のイベントで伸び伸びと踊るダウン症ダンスチーム「ラブジャンクス」(スマイルアップ提供)
それぞれの体験談
生きる喜びとたくさんの出会い
古川明美さん
ダウン症のある息子は今年成人式を迎えました。成人式ではここまで立派に大きくなってくれたことへの感謝や数えられないほどのすてきな出会い、素晴らしい思い出が走馬灯のように流れて感動しました。生まれてすぐにダウン症と知り、不安や絶望感でいっぱいだったころからは想像もつかない「幸福感」でした。
子どもに教わる
子育ては大変なこともたくさんありましたが、それよりも幸せがずっと大きい。息子は成長がゆっくりで目が離せない時期は長かったけれど、弱かった体が強くなっていく、できないことができるようになる、一つ一つが喜びに。ダウンちゃん(ダウン症のある子)たちの笑顔は特別で、生きていることへの喜びが伝わってくるんです。生きること自体がすてきなことだ、と思うようになりました。
息子にはできないことがあっても自分らしく一生懸命に物事に取り組む姿勢や、音楽やダンスを自由に楽しむ感性があります。私が疲れていると黙ってお茶わんを洗ってくれたり、友人のことを思って泣きながら悔しがったり。人を思いやる優しい心を持って生きる姿に、いつも教えられてきました。
お伝えしたいのは「出会い」の大切さです。寄り添ってくれる学校の先生や医師、かけがえのない友人、温かく見守ってくれる地域の人、たくさんの出会いに恵まれて息子は成長することができました。
数年前の悲しい相模原障がい者施設殺傷事件、政治家の「生産性が無い」という言葉には大きなショックを受けました。障がいの不便さよりも理解されないことや差別のほうがつらい。人との関わりの中で「障がい」が生まれている気がします。
私は本当は人見知りで人前が苦手なのですが、息子のことを知ってもらおうと人との関わりが増えました。家族の情報交換や居場所を作りたくて、15年前に仲間と親の会を立ち上げました。引っ込み思案の息子にどうにか積極的になってほしいという思いが、私を前に進めてくれました。
私自身、子育てを通して人生が変わりました。常識でははかれない枠のない自由な世界を知ったからでしょうか。障がいのある子どもたちは「みんな違ってみんないい」ということを教えてくれます。
老化が早いことや就労など心配もあるけれど、心配し過ぎずに出たとこ勝負でいこう、と思っています。
古川明美さん。親の会「スマイルアップ」代表
娘の笑顔は特別
高吉佳都枝さん(61)
娘は心臓に穴が開いていて生後2カ月で入院。体力をつけた後、4カ月の時に手術をしました。手術室の前で「また会えるだろうか」と看護師さんに泣きながら娘を託したことは忘れられません。
その娘が今は20歳に。保育園までは熱が出たら入院ししょっちゅう入退院を繰り返していたけれど、5歳からスイミングを始めて風邪もひかなくなった。こんなに健康に育ったことに感謝しています。
娘を育てて私も変わりました。動作がスローでできるようになるまで時間がかかる。待たないと成長できないので、忍耐強くなったかな。
娘の笑顔は特別。みんなつられて笑っちゃうんですよ。とってもシャイなんだけど、ダンスの舞台ではいつもセンターです。
高吉佳都枝さん
現実を受け入れられなかった
安室由美子さん(43)
息子(6)は8カ月で生まれました。心臓に水がたまっていると緊急入院しすぐに出産。NICUに入りました。最初は「障がい児を生んでしまった」と落ち込んで、現実を受け入れられなかったんです。保育器の中でぐったりしているわが子を見て、「生きることができても私には育てられないかもしれない」と思い、「ごめんね」と声をかけました。
気持ちが変わったのは、息子が4歳でデイサービスに通い始めてから。職員に「お母さんも時には預けて休んでね」と言われて肩の力が抜けました。それから、逆にしっかり育てようと思えるように。
地域に居場所を作りたかったので、息子は去年から公立小学校へ通っています。入学前に教育委員会や学校に相談をし、1日体験を3回しました。同年代の子の言葉のシャワーを受けているので成長がすごい! 周りの子が手を添えて、引っ張ってくれています。
私がいなくなった後も生活できるよう、自立できるように育てることが今の目標です。
ダウン症のある子を抱えて不安に思っているお母さんには、できることは増えるから大丈夫だよと伝えたい。大変なことこそが武勇伝! いずれ笑い話になります。
羊水検査は受けなかった
ののちゃんのママ(38)
娘(1)は、長年待望だった第3子。妊娠2カ月目の検診で胎児の首に浮腫があると指摘され、「羊水検査を受けるか」と聞かれました。その時にダウン症の可能性があると言われました。上の子たちを切迫流産しかかったこともあり、夫とも相談してリスクのある検査は受けずに子どもを受け入れようと決めたんです。それでも出産直後に娘の顔を見たらすぐに「ダウン症だ」と分かって。衝撃的だった。
不安はあるけれど、今はかわいくて仕方がない娘がいるのが当たり前。親の会では情報交換しながら子育てのヒントをもらい、先輩方の話を聞いて励みになっています。
なかなか実現しないダウン症に特化した発達支援や、ライフステージの変化に伴う支援などが充実した施設ができれば、さらに心強いな。
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[イマドキ子育て・ダウン症]親だけでなく社会で育てる|泉川医師
編集/栄野川里奈子
『週刊ほーむぷらざ』第1648号 2019年2月28日掲載