彩職賢美
2017年8月17日更新
[彩職賢美]NPO法人こども医療支援わらびの会 理事/事務局長 儀間小夜子さん|子供の命守る
入院中の病児と家族のための滞在施設「ファミリーハウスがじゅまるの家」。運営するのは、病児や障害児を抱える親の会「NPO法人こども医療支援わらびの会」だ。同会の儀間小夜子事務局長(68)は「南部医療センター・子ども医療センター」と、「がじゅまるの家」の設立に尽力。「不安でいっぱいの母親のお役に立てたら」と、36年、病児と家族に寄り添い続ける。
病児、家族に寄り添い36年
NPO法人こども医療支援わらびの会
理事/事務局長
儀間小夜子 さん
がじゅまるの家は、離島や遠方から治療・入院中の病児やその家族が安価で利用できる滞在、宿泊施設。スタッフが24時間常駐し、「お帰りなさい」と出迎える。2008年の開所以来、年間4500人~5000人が利用。「温かく迎えてもらい、涙が出るほどうれしかった」「経済的にも精神的にも、ありがたい」と、喜びの声が届く。「玄関ドアを開けるなり、ほっとして泣き出す母親もいる。少しでも気持ちを和らげてもらえたら」と儀間さん。「お母さん的な存在」として、利用者やスタッフから頼りにされている。
自身の娘は、心臓病だった。36年前、5歳の娘が熱を出し、救急病院で「心臓に雑音がある」と言われた。その後、専門病院で「心臓病」と診断された。医師に「心臓に穴が開いている。すぐに手術を」と言われ、「命に直結する一番大事なところ」と強い不安に襲われた。そのころは手術のための血液集めも、自分でしなければならなかった。心細い儀間さんを助けてくれたのが、「心臓病の子どもを守る会」だ。メンバーが情報をくれ、見舞いに来てくれた。娘は無事に手術を終えた。
娘が元気になってからも、守る会で会計や広報の活動を続けた。1996年から守る会は、「沖縄の子どもの命は沖縄で守ろう」と、「こども病院」の設立を目指し、運動を始める。病児や障がい児を抱える15団体と医師に呼び掛け、「母子総合医療センター設立推進協議会」を設立。並行して「こども病院の近くに家族の滞在施設を」と県へ要請を続けた。儀間さんは会の事務局長として、積極的に活動。子育てと仕事をしながら、休日は守る会へ通った。睡眠時間は平均4時間。「若いからできたんでしょうね」とさらり。「みんなで絶対に実現させよう、と燃えていました」。県外の子ども病院へも視察へ行き、専門家の意見を仰いだ。
街頭で呼び掛け、約20万人の署名を集め、シンポジウムも開催。県で病院設立の議論が始まってからは、議会を傍聴し、進ちょく状況をチェック。患者の立場から要請を続けた。「後にいい関係を築けた行政の方から、『これでもか、これでもかと押し寄せてくる』と言われたこともありました」と笑う。説明も要請も、声は荒げず、伝え続けた。「必要だと理解してもらえないと、力になっていただけない」との思いからだ。訴えが届き、2006年病院が完成。その2年後、がじゅまるの家が完成した。がじゅまるの家は予算が厳しく、土地は県、建物は沖縄電力が建築し寄贈した。「沖電グループ百添会の10周年事業として、快く引き受けていただきました。一歩踏み出すとどこかでつながっていて、力になってくださる方がいる」。穏やかな中に、凛(りん)とした強さをのぞかせる。
2005年、協議会は発展解消し、「わらびの会」を設立。精神的なサポートのため、がじゅまるの家の受託運営のほか、病院ボランティアの養成、病児や障がい児を育てた親が相談に乗るピアサポートを行う。地道に活動を続け、形にしてきた。「みんなで子どもの命のためという目標に向かい、不安や迷いは無かったですね。娘が生まれ、病気になり、母として強くなりました」と、振り返る。儀間さんの「夢はかなう」の言葉が、胸を打つ。
がじゅまるの家落成祝賀会。儀間さんは左端(写真は儀間さん提供)
寄付やボランティアに支えられ
取材中、「みなさんに支えていただいています」と何度も口にした儀間さん。「がじゅまるの家は、24時間スタッフが常駐するので運営はギリギリ。寄付金や日用品、食材などの寄付、ボランティアに支えられています」と話す。がじゅまるの家では、寄付やボランティアを受け付けている。年に2回、病院ボランティア養成講座を開講する。
<問い合わせ>
わらびの会
098-888-6605
県産品を愛用
県産品を愛用している儀間さん。行事の際には、東道盆(とぅんだーぶん)や漆器=上写真=を使うほか、紅型のタペストリーや木工の器や箸も愛用している。洋服も、紅型染めのものを着用。40代に更年期になって以降、ホットフラッシュで化繊のものが着られなくなり、木綿を紅型で染めた服が定番に。「服を変えると、気分が随分変わりました」と儀間さん。(写真は儀間さん提供)
儀間さんのハッピーの種
Q.趣味はありますか?
植物いじりが趣味で、中でも雑草に心引かれます。雑草の中にかわいい花があると、和みます。がじゅまるの家の玄関には、庭や周辺で取れた草花を飾っています。以前は山歩きをして、植物を採集していました。体力的には、タフなほう。将来時間ができたら、野生の植物を育てて野草園をしてみたいです。
PROFILE
儀間小夜子(ぎま・さよこ)
1949年生まれ。1971年琉球大学理工学部卒業。就職。1981年全国心臓病の子どもを守る会沖縄県支部へ入会。1996年から子ども病院設立運動に取り組む。1997年母子統合医療センター設立推進協議会事務局長に就任。2005年NPO法人こども医療支援わらびの会(真栄田篤彦理事長)の理事・事務局長に就任。2009年に退職後、がじゅまるの家の運営に携わる。
[今までの彩職賢美 一覧]
撮影/矢嶋健吾・編集/栄野川里奈子
『週刊ほーむぷらざ』彩職賢美<1265>
第1570号 2017年8月17日掲載