彩職賢美リターンズ
2023年7月13日更新
サンゴの保全 日焼け止めから[彩職賢美リターンズ]
2010年の「彩職賢美」掲載時は、沖縄市でブティックを経営していた金城由希乃さん。その後、8年営んだブティックを売却し、「サンゴに優しい日焼け止め」を展開する「ジーエルイー」と、ごみ拾いから地域と人をつなぐプロジェクトを行う「マナティ」の二つの会社を設立。「優しさを軸に、環境にも人にも向き合っていきたい」と語る。
ジーエルイー合同会社 株式会社マナティ
代表 金城 由希乃さん
海にも人にも優しい未来を
「サンゴが死んじゃうよ」。座間味島でシュノーケリングをしようと市販の日焼け止めを塗っていたとき、一緒にいたダイバーの一言に衝撃を受け、それが人生の転機となりました。
ハワイやパラオでは、サンゴに有害な物質が含まれる日焼け止めの販売が禁止されています。微量でもサンゴの成長に影響するからです。海外では長年、指摘されてきましたが、日本ではほとんど問題視されず、当時はサンゴに配慮した商品もありませんでした。私も知らずにサンゴを傷つけていたことがとてもショックでした。海外の論文を読みあさり、環境と観光の問題に取り組んでいきたいと一念発起。ブティックを売却し、クラウドファンディングで資金を集め、約2年をかけ「サンゴに優しい日焼け止め」を企画開発。2017年に販売を開始しました。
私の目的は商品の販売ではなく、環境に配慮した行動の必要性を発信していくこと。商品名もあえて売れる名前ではなく、目にするだけでサンゴが大切な存在だと気づいてもらえるように名付けました。サンゴに有害な化学物質は一切使わず、全て自然由来の成分に。赤ちゃんにも安心して使え、せっけんで落とせます。ことしは男性や日焼けしている人も使いやすいようにと、新たにベージュタイプの販売も始めました。
サンゴ保全の必要性を沖縄から発信しなければと強い信念で取り組み始めましたが、最初は苦戦が続きました。特に営業先での反応が意外と薄く、落ち込みました。サンゴに優しくて沖縄に必要なものを作るんだという思いと、クラウドファンディングで応援してくれた人々の存在を力に、いつかは受け入れてもらえると信じ、乗り越えることができました。その後、環境に関する数々の賞を受賞したことで、少しずつ社会的な信頼も得ることができ、多くの人が関心を示してくれるようになりました。
地域と人をつなぐ仕組みを考案
ある日、立ち寄った西表島の海岸で、ごみを拾いたいと思ったのにごみ袋を持っておらず、たとえ拾っても、どう処理していいか分からず、何もできませんでした。サンゴを守ろうと言っている私が、ごみを拾えなかったことに、すごく考え込んでしまったんです。
そのとき、ごみ拾いを通して、地域の人とその地域のために何かしたいという人が出会える仕組みを作りたいと「プロジェクトマナティ」を考案しました。袋や軍手などごみ拾いの道具を500円でレンタルし、そのごみは地域のパートナーに処理してもらう仕組みです。パートナーには、ビーチ近くにある売店やカフェ、宿泊施設など約100カ所が登録してくれています。
参加者は、地域の人にありがとうと声を掛けられたり、常連で顔見知りになったりして、交流につながった人もいます。私もプロジェクトを通して、多くの素晴らしい人々と出会いました。ただのごみ拾い活動ではなく、人をつなぎ、地域の持続可能な発展に結びつく取り組みになっています。
キャリア形成を支援
女性の活躍を応援したい
私が代表を務める二つの会社には5人の女性スタッフがいます。ほとんどが子育て中なので、取引先との連絡や受注業務など在宅勤務を中心に進め、女性が働きやすい環境を目指してきました。私はスタッフや関わる人を大事にしたい。利益主義に走り、スタッフに負荷を掛けたくない。スローでも、みんなの夢もかなえながら会社をやっていきたいと考えています。
私のやりたいことは、環境保全と女性の活躍推進。女性のキャリア形成をサポートするため、一般社団法人の立ち上げを計画しています。情報の不足によって最初から諦めてしまっている人に、学歴に関係なく、さまざまな職業で輝いている人がいることを知ってもらえる仕組みを作る予定です。
母になって思う
優しい未来
3年前に結婚し、昨年は長女を出産。母になって、「未来」という言葉の意味が変わりました。未来を考えると娘の顔が浮かび、娘を思いながら話すようになった。
娘には闘争ではなく、優しさに包まれた世界で生きてほしいし、そこに目を向けることができれば、幸せになれるはず。
いろいろな事業を通して、いろいろな人を見てきましたが、幸せは人とつながっているところにしかないと思う。有名だとか金持ちとかは関係ない。一緒にいて気持ちいい、そういう場所をみんなで作れるように取り組みたい。
母として、女性として、楽しく幸せに過ごし、その姿を娘に見せることができれば、それが私なりの答えになると思っています。
環境への取り組み評価
昨年、環境省の「第10回グッドライフアワード」で実行委員会特別賞・地域と人への思いやり賞を受賞した金城さん。この賞は、環境と社会によい暮らしを加速させるビジネスや活動など、社会変革につながる取り組みを表彰するもので、プロジェクトマナティの取り組みが評価された。
金城さんは他にも、自身が取り組んでいる二つの事業でJCI JAPAN TOYP2019 環境大臣奨励賞や、ソーシャルプロダクツアワード2021年度 ソーシャルプロダクツ賞、生物多様性アクション大賞2018 審査員賞など、数々の賞を受賞している。「受賞を通して環境に配慮した行動の必要性を広く発信できることが特にうれしい。一つ一つ積み重ねていくことで、地域から信頼を得ることができた」と話す。
グッドライフアワードで受賞した金城さん(右)。左は実行委員のAMIY MORI(エイミー・モリ)さん
ジーエルイー(同) https://naturalshop.official.ec/
金城 由希乃さん
きんじょう・ゆきの
ジーエルイー合同会社 株式会社マナティ 代表
[プロフィル]1979年、沖縄市生まれ。2015年、ジーエルイー(同)設立。「サンゴに優しい日焼け止め」を企画開発。20年、(株)マナティ設立。「プロジェクトマナティ」活動開始。
撮影/比嘉秀明 文/赤嶺初美(ライター)
『週刊ほ〜むぷらざ』彩職賢美リターンズ<23>
第1875号 2023年7月13日掲載