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2023年3月16日更新
不妊治療の保険適用から1年 沖縄の治療経験者や専門の看護師に聞いた、利点と課題
2022年4月に不妊治療の保険適用がスタートして約1年。何がどう変わった? 治療をしている人はどう感じている? 不妊治療をしている人にインタビュー。不妊症看護認定看護師の大嶺美幸さんに、現状を聞きました。
経済的負担減り 受診者増える
不妊治療中のHさんは「後悔しないように取り組みたい」と話す。不妊症看護認定看護師の大嶺美幸さん(友愛医療センター)は「保険適用で経済的な負担が軽くなり、受診者が増えた」と現状を分析する。経験者から
後悔しないように取り組む
タイミング法や体外受精を経験
治療について記録したノートを前に、治療を振り返るHさん
Hさん(42)は3年前から第2子を妊活中だ。治療の経緯や大変さ、保険適用について思うことを聞いた。
Q 治療の経緯を教えてください。
A 25歳で結婚し3~4年後、子どもがほしいと考えたのですが、授からず病院へ。タイミング法(妊娠しやすいタイミングを医師が指導する)にトライしたのですが、忙しい中タイミングを合わせるのは大変で、診療時に「タイミング取れた?」と聞かれるのもストレスになり、治療をやめたんです。半年後に妊娠し、出産しました。
その後、2人目をなかなか授からず、再度治療をしようと検査を受けたら子宮頸がん検診で要精密検査に。幸い検査結果は異常がなく、ようやく治療がスタート。その時受けたAMH検査(卵子がどのくらい残っているか推測)の結果「1年以内に閉経してもおかしくない」と言われ、選択肢が一気に狭まりました。
2、3回人工授精をした後、体外受精へ。これまでに10回ほど採卵。自費診療もありますが、助成金や保険も利用しながら、何度も採卵、移植を繰り返しています。検査や注射のために月に10回以上通院したことも。フルタイム勤務ですが、職場に理解があり助かりました。
Q 保険適用になったことについて、どう思いますか。
A 選択肢が広がるのは、いいことではないかと思います。経済的な負担が大変で治療をやめた、という声を聞いたことがあるので、負担が軽くなることで、不妊治療を始めたり続けたりしやすくなるといいですね。
Q 治療で大変だと感じることは何ですか。
A 結果が伴わないことや、それによって落ち込んで周りへ影響が出ることですね。
妊娠が分かった後に、流産したこともあります。喜びの後にダメになるのはきつい。体外受精は通院回数が多かったり、費用的にも精神的にも負担が大きいですし、タイミング法も精神的なストレスが大きかった。
不妊治療はみんな大変で、みんな頑張っている。抱え込むとしんどくなるので、病院のカウンセリングを受けたり看護師さんに気持ちを話すことで、だいぶ楽になりました「大変だったね」と共感してもらえるだけで違います。
Q 治療をする上で気をつけていることは?
A 夫と何度も話し合い、けんかもしましたが、「死ぬときに後悔しないように、治療をしよう」と2人で決めました。
それからは、納得して治療を受けられるように、薬の処方や治療法、体調をメモして、分からないことは調べたり、医師や看護師に確認しています。また、結果が出る前にいろいろ考えてしまうのですが、何をしても結果は変わらない、と気持ちを切り替えたらストレスが減りました。
治療を始めて体に意識を向けるように。血流を良くするためにストレッチをしたり冷たい食べ物を控えたり。以前より健康になった気がします。治療を通して妊娠や出産が当たり前じゃないんだと気付き、夫や子どもの存在に感謝するようになりました。
人工授精 体外受精・顕微授精の流れ
人工授精
排卵の時期に合わせて、子宮の入り口から管を入れて精液を子宮内へ注入する
体外受精・顕微授精
①「採卵」。卵子を採取する
②卵子と精子を受精させる。精子を卵子にかけて自然受精を待つのが体外受精。細い針を使って精子を卵子に直接注入するのが顕微授精
③受精卵を3~5日培養する。翌日ごろ初期胚に、5日前後で胚盤胞になる
④「移植」。受精卵を子宮に移植する
不妊症看護認定看護師に聞く
治療への周知広まる
診療混み、初診は1~3カ月待ち
不妊症看護認定看護師の大嶺美幸さんに、保険適用後の変化について聞きました。
友愛会 友愛医療センターの大嶺美幸さん。不妊症看護認定看護師。不妊カウンセラー
電話=098(850)3811
Q 保険適用になって良かったことは何ですか。
A ①人工授精や体外受精・顕微授精の経済的な負担が減ったこと。上限は、高額療養費制度によって決まります。ただし、保険診療が拡充されてもなお、経済的な負担は大きいです。
②これまで経済的負担が大きく体外受精・顕微授精をためらっていた方が、比較的早い段階で体外受精や顕微授精へステップアップすることが増えました。早めに選択することで、結果につながりやすくなります。
③エビデンスに基づいた標準的な治療の基準が確立され、どこでも同じ治療を受けられるようになりました。
④治療にはカップルの同意書が必要になったため、治療にあたってパートナーの意思を確認する機会が増えました。カップルで会話し、考えをまとめる機会になっていると思います。
⑤不妊治療や女性の妊孕性(妊娠する力)についての周知が広まりました。受診をためらう期間が短くなり、早めの年齢での受診が増えたようです。ほかに、将来に備えて妊娠力を調べたい方の受診が増えました。
Q 保険適用によるデメリットはありますか。
①保険診療は、標準的な治療となるため、個別化した治療内容の工夫ができません。基本的に保険診療外の診療を希望する際は、治療周期(月経開始から妊娠判定まで)にかかる治療すべてが自費となります。ただし、保険診療外の治療の中でも国に認められた先進医療の場合は、保険と自費との混合診療が可能です。
②受診する方が増えて診療が混み合い、待ち時間が増え、初診の際は1~3カ月待ちとなることが多いです。
Q 43歳以上だと、どんな治療ができる?
A 医師の診断により治療方針が提案されます。タイミング法や人工授精については、年齢や回数制限はありません。体外受精・顕微授精の保険適用は42歳までで、希望する場合は自費診療となり、経済的な負担がより大きくなります。治療の概要や日程、費用、年齢による妊娠率・流産率などの説明を聞いた上で、カップルで選択をすることが大切です。
Q 治療中の人、これから治療を考えている人にアドバイスをお願いします。
A 不妊治療は、妊娠を保証する治療ではなく、不安や葛藤の中で時間的なリミットもあります。さらに、治療の中でも体外受精や顕微授精は、通院による女性の身体的、心理的、経済的、社会的な負担が大きいです。また、カップルは定期的に治療を選択をする必要があり、ストレスを抱えがちです。
そんな中、相談窓口を知っておくことは大切です。通院施設や、無料で相談できる県の窓口(県不妊・不育専門相談センター)を、ご活用ください。相談することで、お2人の思いや人生の中の不妊治療の優先度、大切にしたいものなど、気付きを得られることがあります。
みなさんが心身をいたわりながら選択ができるよう、サポートしていきたいです。
保険適用の体外受精・顕微授精の費用の目安
保険適用の体外受精・顕微授精の治療1周期の概算はおよそ10~25万円(治療開始から妊娠判定まで。採卵1~10個で凍結胚移植した場合)。
採卵個数の加算、体外受精か顕微授精か、初期胚または胚盤胞培養かなどで、費用は変わる。上記の費用のほか、別途採卵に伴う麻酔などの薬剤料がかかる。また、卵巣過剰症候群になった場合は1~3日入院費用が発生することがある。
2022年4月から保険適用に
これまでは自費診療だったが、2022年4月から人工授精や体外受精、顕微授精といった治療に健康保険が適用され、原則3割負担に(体外受精・顕微授精には年齢による回数制限がある)。さらに治療費が高額になる場合は、所得区分による優遇措置(高額療養費制度)の対象になる。また、さまざまな先進医療(保険と自費の混合診療)も治療の選択肢として、広まってきている。
毎週木曜日発行・週刊ほ〜むぷらざ
「第1858号 2023年3月16日紙面から掲載」