彩職賢美
2023年1月19日更新
ペットに鍼灸や漢方、アロマも 4人の子を育てる女性院長[彩職賢美]
西洋医学に鍼灸や漢方、メディカルアロマを取り入れて、ペットへの治療の選択肢を広げたい。病気の早期発見、健康づくりをサポートできるよう、人も動物も通いたくなる病院作りを目指しています。
撮影/比嘉秀明
鍼灸や漢方、アロマを取り入れ
がじゅまる動物クリニック
院長 周本記世(しゅうもと・ふみよ)さん
病気の予防から最期まで
通いたくなる病院に
カフェのような空間のがじゅまる動物クリニック。動物への鍼灸(しんきゅう)のほか、漢方の処方やメディカルアロマセラピー、行動治療(問題行動のある犬や猫への治療)なども取り入れている。
周本記世さん(41)がクリニックを開いたのは、2018年4月。夫も獣医師で動物病院の院長。一緒に働くか迷ったが、「夫の病院は高度医療が専門。私は中医学やメディカルアロマで、治療の選択肢を広げたい」と、開院を決めた。目指しているのは、病気の予防から、最期まで後悔しない治療を行うことだ。
病気の予防のために力を入れているのが、「人も動物も遊びに来たくなる病院作り」。「病院を嫌がる動物は多く、病気の発見が遅れることがある」と周本さん。飼い主が相談しやすいよう、1回30分以上時間を取って診察。行動学(動物の行動、習性の学問)の知識を生かして動物へ笑顔で接し、ゆっくり優しく触る。「ワクチン1本でも、どれだけストレスを減らせるか。ぶるぶる震えていた子がおとなしく診察を受けてくれたり、何度か受診したワンちゃんが散歩の途中に病院へ遊びに来たり。対応次第で反応は変わる」
また、「健康を保つには、正しいホームケアが大事」と、飼い主向けのセミナーも開催。クリニックは、国際的な規格のキャットフレンドリークリニックの認定を受けている。
4人の子育て中の周本さん。根底にあるのは、「自分の子どもなら、どうされたらうれしいか」だ。「うまく言葉にできない子どもの代わりに、親に話を聞いて診断する。小児科と近い部分があると感じます」
もう一つ、「最期まで」には、自身の経験がある。動物病院に勤務中、高齢の動物に、体へ負担がかかる手術か、治療をやめるか、二つの選択肢しかないことが心苦しかった。「それ以外に、漢方や鍼灸、アロマなどで選択肢が増やせればと思った」
自身が飼っていたウサギを亡くした経験も影響している。「もっとできることはなかったか、と強く自分を責めたんです。動物の多くは飼い主よりも先に亡くなる。その時に、これをしてあげられてよかった、と思えるためのお手伝いをしたい」
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小学生のころ、社会の授業で地球温暖化と絶滅する動物のことを知り、「動物を救いたい」と獣医師を志した周本さん。大学時代はケニアへ渡航してアフリカゾウと人間の共生について学び、卒業後も動物病院で働くことは考えていなかった。
進む道を変えたのは、子育てだ。大学在学中に結婚し、国家試験直前に第一子を出産。卒業後は、子育てに専念した。沖縄への移住も子どもがきっかけだった。「首都圏での子育ては肩身が狭かったけれど、沖縄では食堂のおばちゃんが子どもを見てくれたり、いろんな人が優しく関わってくれた」。ここで子育てがしたい、と29歳で移住した。
動物病院勤務を経て、開院したのは4人目の子を出産した3カ月後のことだ。中獣医鍼灸師の資格は、昨年取得した。1年間毎月東京に通う必要があり、あきらめていたが、家族の協力で実現した。「椎間板ヘルニアのワンちゃんに施術したら、『ヘルニアになる前より元気になった』と喜んでもらえました」
今も、環境問題へ深い関心を寄せる周本さん。「抗菌薬やステロイドは動物にも環境にも負担になるので、使用は最小限にとどめています。小さなことだけど、最近、私の立場でできることがある、と気付きました」。現在、県産アロマを使ったクリームを開発中で、肉球ケアのほか、軽い皮膚炎に抗菌薬の代わりとして使えるという。思い描くのは、人にも動物にも地球にも優しい未来だ。
働き方改革でワークライフバランスを実現
がじゅまる動物クリニックは、周本さんの夫が経営する琉球動物医療センターと連携し、働き方改革に取り組んでいる。
スタッフ全員と理念を共有し、業務の見直しに取り組んだ。残業は大幅に減少。また、毎月スタッフ一人一人と面接し、全体でのミーティングを開催。スタッフの教育にも力を入れている。「優秀なスタッフに働き続けてほしいので、みんなが幸せに働ける職場にしたかった。夫も子どもの送迎や学校行事などに、参加できるようになりました」
久しぶりの自分時間
「40歳になって、自分が何がしたいのか分からなくなり、落ち込んだことがあったんです」と周本さん。仕事や子育てで日々多忙な中、純粋に自分が楽しむ時間がなかったことに気がついた。
周本さんは、中学高校と吹奏楽部で打楽器に熱中。全国大会へ出場し、音楽大学への進学も考えたほど、音楽が好きだった。 打楽器に関わりたいと一昨年、沖縄交響楽団に入団。22年ぶりに、演奏会でティンパニーを演奏した。「いろいろな国籍、職業、年齢のみなさんと、音楽でつながることが楽しい。母親でも獣医師でもない自分になれる場所です」
ビーチで息抜き
周本さんのお気に入りの場所は、南城市の新原ビーチ。
夏は泳いだり、キャンプをしたりと、たびたび出かけている。「何もなくて人が少ないのがいい。家にいたら家事に追われるけれど、家を離れて星空の下でのんびりできる。ぜいたくな時間です」
最近も、保育園が休みになった娘と2人、手作りの弁当を持って行ってピクニックをした。子どもたちとごみ拾いをすることもある。
■がじゅまる動物クリニック 電話=098(943)2272
プロフィル/しゅうもと ふみよ 1981年神奈川県出身。2008年酪農学園大学獣医学部卒業。10年に沖縄へ移住。動物病院に勤務する傍ら、沖縄ペットワールド専門学校で講師を務める。14年琉球動物医療センターに勤務。18年がじゅまる動物クリニック開院。獣医師。国際中獣医学院認定中獣医鍼灸師。日本ペット中医学研究会中医学アドバイザー。日本メディカルアロマテラピー協会認定ペット・メディカルアロマテラピスト。
[今までの彩職賢美 一覧]
文・栄野川里奈子
『週刊ほ〜むぷらざ』彩職賢美<1419>
第1850号 2023年1月19日掲載