彩職賢美
2023年1月5日更新
[沖縄・輝く女性を紹介]彩職賢美|YUIMAWARU(ゆいまわる)(株)代表取締役 仲間 知穂さん|作業療法を教育現場に
作業療法士の知識、技術を生かし、学校作業療法、学級経営コンサルに携わっています。先生が届けたい教育を自由に選べ、それが安全安心に子どもたちへ届き、先生も子どもたちもやりがいを持って参加する、そんな教育現場をデザインするお手伝いをしていきたいです。
撮影/比嘉秀明
届けたい教育をみんなに
YUIMAWARU(ゆいまわる)(株)代表取締役
仲間 知穂さん
先生も子どもも親も
やりたいをかなえる
学校で授業に参加できない、暴れる、集団行動が苦手など、うまくできないことで、身体的、精神的に苦しい状況に追い込まれている子どもたちと、それを解決しようと悩む教師、保護者が増えている。
学校訪問専門の作業療法士である仲間知穂さん(43)は「問題行動の解決ではなく、できるようになってほしいこと、見たい姿、届けたい教育に焦点を当てると、悩みは希望に変わる」と語る。
学校専門の作業療法士とは、その子の考える力、動く力、感じる力を授業中や休み時間に観察分析し、学校生活をうまく行えるためにどうすればいいか、情報を提供できる専門家。「解決方法を提示するのではない。分析の共有で、先生が自ら、じゃあこうしてみようと行動に移せる。子どもから学ぶ良い循環が生まれ、届けたい教育を軸に、先生も子どももやりがいを持って参加でき、学級経営も楽しくなる」と話す。
仲間さんは息子の保育園で発達面の指摘を受けたとき、多様性を前提とした学びの場がないことへ不安を感じた。「作業療法士として教育に役立ちたいと地元小学校で学級支援を始めた」ときっかけを話す。活動から必要性を実感した仲間さんは、2016年にうるま市で作業療法士による学校訪問専門の事業所「こども相談支援センターゆいまわる」を設立。その後、事業を発展させたYUIMAWARU(株)を設立した。
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仲間さんが支援に入ったある小学校。男児Aさんは勉強を全くせず、暴力、暴言があった。教師は対応に苦悩し疲れきり、母親も不安を抱えていた。教師に「Aさんに届けたい教育」を聞いた仲間さん。「友達と一緒に何かしたり、提案を嫌がらずやってみるなど、経験する機会をAさんにもあげたい」。そう話す教師に「一緒にチームを組み、かなえましょう」と声を掛けた。
Aさんは、視覚や聴覚、触覚といった情報が人の何倍も過剰に入り、パニックを起こすことが仲間さんの分析で分かった。生まれつきで、何かと比較し不快だと伝えることはできない。「みんなと一緒に学校で友達を作りたいのに、うまくいかない現実と自分に、納得できないでいた。暴力や暴言はこの状態を打破したいという彼の強い気持ちの現れ」。AさんのSOSを代弁した。
教師はAさんの成長を支えよう、できることを見つけて褒めようと考え、校長、教頭も学校総出で取り組んでくれたことを喜んだ。Aさんは刺激が少ない場所だと勉強ができることも分かった。机に座り、花の絵を描いたAさん。教師と仲間さんを見つけ、その絵を手に走り寄ってきた。「すごくいい色だったんです。『すごいね、ちゃんとやったんだ、かっこいいね』と言うと、暴言じゃなく、にこ~って笑った。すごくうれしい瞬間でした」と目を潤ませる。半年ほどたつと、Aさんは少しずつ刺激に勝てるようになった。「Aさんの問題行動がなくなったわけではない。でも先生たちは、できないことに悩んでいない。届けたい教育がかなっていく楽しさで、ワクワクしているんです」。級友たちも「Aは興奮するとたたくけど、手をつなげば落ち着く」と自主的に対応を発見。教室移動は、両側から手をつなぐ。「問題行動への解決法ではなくて、その子が学級でどう過ごせるかという学級運営のサポートがあることを広めたい」と語る。
南風原町では委託事業として学級経営コンサルに携わり、保育園から中学校まで支援している。「町全体で支援でき、専門家を取り入れた学級経営への意識の向上、教育文化が変わった」と手応えを感じている。
作業療法で教育の未来に希望の光を放つ。
17人の専門スタッフが活躍
「YUIMAWARU(株)」は、「こども相談支援センターゆいまわる」(うるま市)と「こどもセンターゆいまわる」(南風原町)を運営している。児童福祉法に基づき、福祉サービス事業として、保育所、幼稚園、小学校など、子どもが集団生活の中で成長できるようサポートする「保育所等訪問支援」や、遊びを軸とした運動や交流を通して心と体を育てる「児童発達支援」「放課後等デイサービス」を展開。その他、委託事業として「学級経営コンサル」、子どもと親が一緒に療育に通う「親子通園」などを行っている。
「保護者が願う教育、教師が届けたい教育、子どもが望むことなど、みんなの“やりたい”をかなえるのが目標」と仲間さん。作業療法士、理学療法士、保育士など、専門の知識と技術を持つ17人のスタッフが携わっており、毎月行っているケーススタディー=写真=では、「それぞれ意見交換し、悩んだときはみんなで考えるようにしています」と話す。
■こどもセンターゆいまわる 電話=098(851)7897
心と体の土台づくりをサポート
同社の小集団療育では、保育園児~18歳の福祉サービスを受けるための受給者証を持つ人を対象に、作業療法士など専門の知識を持ったスタッフが、ものづくりや実験、研究、クッキング、戸外遊びなど、楽しく学びながら、心と体の土台をつくるサポートをしている=写真。
親子通園では「検診で指摘され相談にくることがほとんどで、お母さんたちは、最初はうつむきがちで表情も暗いが、活動を通し、子どもたちの成長に触れるうちに、どんどん笑顔になり、積極的に関わるようになるんです」と仲間さんも笑顔を見せる。
専門家と一緒に楽しく遊びながら、子どもたちは多様な感覚を得て学んでいく(写真提供・こどもセンターゆいまわる)
プロフィル/なかま・ちほ 1979年、東京都出身。東京都立保健科学大学(現首都大学東京)卒。作業療法士。2005年、沖縄に移住。08年から学校を訪問し作業療法を開始。16年、作業療法士による学校訪問専門の事業所「こども相談支援センターゆいまわる」設立。18年、YUIMAWARU(株)を設立。学校作業療法、学級経営コンサルに携わる。3人の男児の母。
■問い合わせ先/こどもセンターゆいまわる
[今までの彩職賢美 一覧]
文・赤嶺初美(ライター)
『週刊ほ〜むぷらざ』彩職賢美<1417>
第1848号 2023年1月 5日掲載