シルバー『宝島』世代へむけて|新城和博のコラム|fun okinawa~ほーむぷらざ~

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COLUMN

新城和博

2019年2月2日更新

シルバー『宝島』世代へむけて|新城和博のコラム

ごく私的な歳時記Vol.48|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、この20年も振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。



 いつものように五歳児に叱られるテレビ番組を見ていた。そのなかで「シルバー」がなぜ高齢者をさすようになったのか、という質問があった。なんでも国鉄(現JR)が高齢者優先のシートを作ったときのシートの色がたまたまシルバーだったから、ということだった(1973年ごろ)。まぁなるほどね、と思ったのだけど、だいたい1980年代には世間的に浸透してきたこのシルバー=高齢者、当時の広辞苑にもいちはやく「シルバー」の意味に高齢者をさすという項目が掲載されていると紹介されていたのだが、その「高齢者」の説明が(定年後 55歳以上)と書かれていた画面を、ぼくは見逃さなかった。
 昭和の世なら、ぼくはもう「高齢者」なのである。2月生まれだから、今月で定年退職、あこがれの円満退社な世代だったのだ。チコちゃんに叱られるよりショックだった。昭和は遠くになりにけり……。平成も一足先にさよなら、と言っておこう。




 そんな年明け、長年勤めている出版社・ボーダーインクが、出版梓会という全国規模の出版会から賞をいただき、その授賞式のため、インフルエンザが猛威を振るっていた東京に出かけた。上京した3人中、1人だけインフルエンザになったが、なんとか授賞式、パーティーをこなした。
 その会場に、審査員のひとりである文芸評論家の斎藤美奈子さんがいらして、ぼくはつい先日新刊の『日本の同時代小説』(岩波新書)を読んだばかりだったので、なんとかお話をさせてもらった。1960年代から現代までの日本の文学史をたいへんわかりやすくまとめた本で、ぼくはいたく感動していたのだ。少年期、青年期、バブル期、中年期をへて、世が世なら定年退職となるシルバー期にいたる今日まで、ぼくが読んでいた日本文学の背景、傾向がみごとにばっさりと、気持ちいいくらいわかりやすく解説されていた。
 その本の中で、すこし余談めいた感じで沖縄を舞台にしたエンターテインメント小説が勢いがある、面白いという話を展開していた。その注目される作品の中のひとつに挙げていたのが『宝島』真藤順丈著である(ほかには『キジムナーKids』上原正三著と『ヒストリア』池上栄一著など)。
 その授賞式当日は直木賞発表の日であり、ぼくはその会場で斎藤さんから「『宝島』、直木賞とったわよ」と聞かされたのである。おーっと人ごとながら興奮した。
 じつは去年、『宝島』が刊行される前に、ニュース通信社から見本が送られてきて、ぼくはいちはやく書評を書いていたのだ。興奮して書いた。

<日本の作家が、沖縄という小説の器を選ぶ。そこに確固たる意志があるかどうか。ここ数年、長大な物語の舞台として沖縄が登場するようになった。しかし沖縄はただの背景ではない。怒濤(どとう)の物語そのものである。作者自身が沖縄という怒濤にダイブして、その現実に飲み込まれながらも、新たなる物語の地平にたどり着けるかどうか。>

 一人の作家が覚悟を決めて書き上げた渾身(こんしん)の一作、と思った。この見立ては間違っていなかった。しかし発売直後、中央の出版界で話題になっていたが、沖縄の書店と読者のなかではそれほどの話題を呼ばなかった。沖縄を舞台にした小説は沖縄ではあまり売れない、というか、小説が沖縄では全体的に売れないといわれているのだ。おかしいなぁ……。
 しかし今回は直木賞だ。沖縄に帰ったら本屋をのぞくのが楽しみだ、と思ったら、すでに読者が殺到してあっというまに品切れになっていた。予約殺到でなかなか店頭にも並ばない状態が続いている。実にうらやましい話である。
 年末の『入れ子の水は月に轢(ひ)かれ』オーガニックゆうき著といい、この『宝島』といい、戦後から復帰前にかけての沖縄にインスパイアされたエンターテインメント小説が今後も続くのでないだろうか、というのが、ぼくの沖縄同時代小説的な予測である。
『宝島』の登場人物たちが現代でも活躍するとした、もちろんシルバー世代である。アメリカ世育ちの、同時代のシルバー世代が繰り広げるハードボイルド小説なんぞ読みたいものだ。



 

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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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