水上店舗ミステリーツアー 『入れ子の水は月に轢(ひ)かれ』オーガニックゆうき著 より|新城和博のコラム|fun okinawa~ほーむぷらざ~

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COLUMN

新城和博

2019年1月1日更新

水上店舗ミステリーツアー 『入れ子の水は月に轢(ひ)かれ』オーガニックゆうき著 より|新城和博のコラム

ごく私的な歳時記Vol.47|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、この20年も振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。



年の初めにどんな本を読むのか。それによってその年の運命が定まる、というのが「初読占い」である。小説なのか、ダイエット本なのか、哲学書なのか、サブカル・エッセイなのか。無意識に手に取った本の、なにげに開いた頁の一文を心にとどめておいてください。そこに今年の貴方の生きる道があるはず……。とまぁ、年末にかってに思いついた「初読占い」ですが、意外と当たったりして。信じるも、信じないも、頁をめくるも、めくらないも、貴方次第です。
 


昨年は沖縄を舞台にした小説をいくつか読んだ。その中で特にはまったのが『入れ子の水は月に轢かれ』。ミステリーの新人賞であるアガサ・クリスティ賞(早川書房主催)の昨年度の受賞作で、作者オーガニックゆうき(もちろんペンネーム)さんは、沖縄・那覇出身の女性である。まだ大学生なのだ。そして作品の舞台が、あの「水上店舗」界隈(かいわい)なのである。
那覇の平和通りと牧志第一公設市場にはさまれて、与儀の農連市場(現のうれんプラザ)から国際通りまで続く、妙に細長い建物、それが水上店舗である。あの界隈を知っている人なら、なんとなく思い浮かぶだろう。
那覇の戦後復興の象徴ともいえる平和通り、公設市場界隈に、米軍統治下時代の1964年に出来たこの建物、最大の特徴は、ガーブ川の上に建てられていることである。建物の下は今も川が流れる、いわゆる暗渠なのである。でも普段はそんなこと地元民も観光客も気がつかない、気にしない。ガーブ川は戦後自然発生的にできた市場に面して、川沿いには簡素な作りの小さな店舗が軒を連ねていて、大雨が降ると川の水が溢れ、一帯が浸水するような状態だったという。

アメリカ世、復帰、昭和から平成へと時は流れて、通りを行く人たちや街角の風景が変わっていくなか、水上店舗はそのままの姿で、いやかなりレトロ感を醸しつつ、現在もたくさんの店舗を構えて、静かに市場界隈を支えている。



ぼくは水上店舗とほぼ同年代なので、その姿をみるとしみじみしてしまう。実家が開南だったので、小さい頃からのテリトリー、遊び場であり、買い物するところであり、ゆくる(一休みする)ところでもあった。中学校のころには2階のビリヤード場で遊んだり、大学生になると、開南から水上店舗の横を通り抜け、国際通りの小劇場・沖縄ジァンジァンへ通った。最近は知り合いが店を出したりして立ち寄る場所も少し増えて、今もぼくの行動範囲はあまり変わらない。
その水上店舗がミステリーの舞台になるなんて。いやはや盲点でした。アガサ・クリスティ賞を受賞したというニュースでざわつき、あらすじを聞いて興奮した。読む前からあれこれ想像たくましくしていたので、11月末に単行本が刊行されると、すかさず読みきって、その翌日には、事件の現場に向かった。そうミステリー作品だから、殺人事件が起こるのである。小説の中で実在の場所がリアルにどんどん出てくる。土地勘があればあるほど、あああそこか、いやここかと、主人公たちと一緒になって行動できるのである。フィクションと現実の風景が混ざり合い、いつも見慣れていたはずの水上店舗界隈がまた違ったふうに見えてくるのだからおもしろい。こうして水上店舗の暗渠から始まる事件の謎を追って、水上店舗ミステリーツアーを、ひとり楽しんだのでした。




 

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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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