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新城和博

2024年3月19日更新

春の行列|新城和博さんのコラム

ごく私的な歳時記Vol.115|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、これまでの概ね30年を振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。

どんな季節もめぐり来る。しかしそのフレーズが一番似合うのは「春」ではないか。ひとまわりした感は、ナツやアキやフユよりもある。陽気な気候と別れのにぎわいがあいまって、街角もわさわさしている。


去年の今ごろは、この連載をまとめた『来年の今ごろは  ぼくの沖縄〈おでかけ〉歳時記』を刊行して、行商ツアーをしていた。

そして今月がまさに「来年の今ごろ」である。でもはっきりいってこんな来年になるとは思ってもみなかった世界である。世界は去年よりも争いに満ちている。春なのにためいきひとつ。

いろいろ振り返りつつ通りを歩く。観光客であふれる国際通りを眺めると、かつて人影まばらでガランとした通りを懐かしく思う。むかしに戻ったという感慨になれないのは不思議なことだ。

今年の春、さーたーあんだぎーショップがむつみ橋交差点にできて、いつのまにか行列が出来ている。テイクアウトで、国際通りを歩いたりするみたい。



これまでの行列といえば、ポーク卵おにぎり屋さんとか、台湾観光客に人気のラーメン屋が定番の光景だったが、そこにさーたーあんだぎーという、沖縄おやつの最古参が参戦してブームになったりするとまさに春の珍事となるかもしれない。沖縄おみやげ、スイーツ界は、新たなスター、新商品を待っているような気がしていたが、まさかさーたーあんだぎーに、スポットライトがあたるとは。

少しちむどんどんしながら注視している。

 

もうひとつの行列を、真和志かいわいで見た。午前11時ころ、行き交う人も少ない通りに、三十名ほどの行列。車窓越しに唐突にあらわれた光景の先には、まだサッシが閉まったままのお店の入り口。

看板があるようないような、目立ったディスプレーもないので、いったいなんの行列かと思ったら、どうやらお弁当屋さんらしい。開店前から並ぶ弁当屋ってなんだろうかと思いつつ、いつも車を止められずにいる。

ここは観光客らしき人はまったくいない、地域感満載の行列である。安いのか、おいしいのか、ほかになにか理由があるのか。

沖縄の人の行列といえば、お盆の中日のカマボコ屋くらいしか思いつかないので、いつの日かそのヒミツに触れてみたい。

 
今朝、もうひとつ、春の行列を見つけた。

女の子がぽつり、ぽつりとお店の前に一列で並んでいる。小さな行列だ。

車窓越しにちらりと見えた入り口は「○○制服店」。そうか、新しい制服を受け取るために並んでいるんだ。高校入試合格発表の朝、赤信号で停車した仕事途中の車の中で、見知らぬ彼女たちの未来の倖せを、つい願ってしまった。

春だから、ためいきばかり、ついてはいられないよね。

新城和博

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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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