出産・子育て
2020年3月19日更新
[特集]発達障がい知ってますか?|生まれつきの個性 受け入れ認める
4月2日は、「世界自閉症啓発デー」。自閉症をはじめとする発達障害について取り上げます。近年増加していると言われている発達障害の人は、あなたの身近にいるかもしれません。発達障害がどんな障害か、どんな困りごとがあるのか、経験談や医師のインタビューを紹介します。
上の表は一例で、どんな能力に障がいがあるか、どの程度かは人によってさまざま。発達障がいの原因はまだよく分かっていないが、脳機能の障がいと考えられていて、小さなころから症状が表れ始める。「県発達障害者支援センターがじゅま~る」のホームページでは、県内の医療機関や支援機関、親の会・当事者団体のリストなど、発達障がいに関する情報を発信している
特性知って自己否定をなくす
周囲のサポートが力に
自身も発達障がいがあり、発達障がいのある双子を育てている知花さおりさん(48)。当事者の会ニヌファスターの代表として周知に力を入れる。「失敗をしないように常に気を張っていて、ずっと立ち泳ぎをしているような苦しさがある。子どもたちには、特性と自分を助ける方法を知って、自分らしく生きてほしい」と話す。
発達障がいについて、「車でいうとオートマではなくマニュアルのイメージ。同じことをするにも人の数倍労力が要るので、心身共に疲れやすい。私はADHD=上表参照=があり、やるべきことで頭がいっぱいになって脳が休まらない。時には一日中寝込んでしまうこともあります」と知花さん。
自身に発達障がいがあることを知ったのは、大人になってからだ。夫が出張の際、育児で精神的に不安定になり、病院を受診。そこで診断された。「つらさの理由が分かって救われた半面、どうして私が、という気持ちにもなりました」
当事者の会ニヌファスター代表の知花さおりさん。積極的に講演や授業を行う
発達障がいを知ってもらうために持ち歩いているイヤーマフ。騒音を遮断するので聴覚過敏の子に役立つ
知花さんは発達障がいに関する本を200冊ほど所有。相談に来た人に薦めることもある
子どもが1歳で診断
双子の娘と息子に発達障がいがあると分かったのは、2人が1歳のころ。乳幼児検診で息子の成長の遅れを指摘され、病院を受診。かんしゃくが激しい娘の相談をしたところ、2人とも発達障がいと診断された。最初はショックで受け入れられなかった。
それでも、「子どもには自分を否定したり、障がいを隠すことだと思ってほしくない。そこで、私自身に差別する気持ちがあるから受け入れられないんだと気付いたんです。できないことがあっても、子どもたちが欠けている存在ではない」と、意識が変わった。
息子が登校を渋った時、知花さんの手書きのイラストと「疲れメーター」を使って困りごとを聞いた。本人も学校には行きたいが、疲れることや悩んでいることが分かる
頑張れる環境を作る
子どもたちは児童デイサービス(障がい児専門の療育機関)に通い、療育を受けた。息子は当初、軽度知的障がいも診断されていたが、成長に伴いなくなった。「デイサービスでは、失敗の練習から始めて小さな成功体験を積み重ねていく。子どもの特性に合わせて療育をしてもらえた。早期に分かって本当に良かった」 2人は今、小学校の特別支援学級に在籍し、授業によっては通常学級に参加。家で予習復習をしていることもあり学習面での支障は無いが、それぞれに困りごとがある。
息子にはADHDがあり、座り続けることや字を書くことが不得意で、登校を渋ることがある。娘はコミュニケーションが苦手で、通常学級に行くことを不安に感じている。「『頑張ってもできない』が続くと、自信をなくす。頑張りやすいように、どうサポートをするか」。知花さんは学校に相談。息子は、本人が希望したジェルクッションを使用することで落ち着いた。また、知花さんは発達障がいや他人への理解を広げようと、学校で特別授業を行った。その後、娘は通常学級に行くようになった。「先生とお母さんはチーム。100%解決できなくても、不安の解消につながればいい」
子どもたちには、発達障がいのことを伝えている。「できないのは自分が悪いのではなく、特性だと知ることで心の健康を守れる。その上で課題を解決したり、周りと折り合いをつける力を身に付けて、夢をかなえてほしい」
「子どもたちが大人になったときに、生きやすい世の中になるように」と、当事者の会を設立。講演やイベントで周知を広める活動をしている。「子どもたちに『あなたたちは何にでもなれる』と言うからには、私がチャレンジする姿を見せないと。失敗も多く体当たりです」と笑う。
身をもって感じているのが、周囲のサポートの大切さだ。「夫や夫の職場、学校の先生、行政、親の会や当事者会のメンバーなど、周囲のおかげで子育てができている。心から感謝しています」
知花さんは学校で特別授業をし、発達障がいについて説明。生徒に「自分説明書」を書いてもらい、「お互いに何に困るか知ると、困りごとが減る。伝え合えるといいな」と話した
子どもが安心して育つことが大切
親と子を支援
発達障がいは、発達に凹凸がある生まれつきのもので、その子の個性。小児科医の高良幸伸さんは、「受診された方には、この子なりに一生懸命やっているけれどうまくいかないのは、親のせいでも子どものせいでもない。これまで頑張ってきましたね、と伝えます」と話す。
高良幸伸さん。沖縄中部療育医療センター院長
困り感が気付きに
発達障がいは大きく三つに分かれ、複数が重なることもある=左図参照。「自閉症スペクトラム」は対人関係や集団行動が苦手で、言葉の発達が遅れる子が多い。「注意欠陥多動性障害(ADHD)」は、注意力や集中力が弱い、落ち着きがなく多動などの特徴がある。「学習障害(LD)」は、知能は低くないが、読み書き計算などの学習が苦手。「自閉症スペクトラム」は乳幼児期、「ADHD」と「LD」は学校に通うようになって、診断されることが多いという。「早期に分かるほど、早くからその子に合う育ちを支援できます。親の子育てでの困り感が、気付きのヒントになる。気になることがあれば、乳幼児健診などで相談をしてみてください。ただし、早期でなければだめ、ということではありません。気になった時に相談へいらしてください」
市町村にもよるが、乳幼児健診で気になる子は、専門家に相談できる事後教室へ通い、病院へつながることが多いという。病院では発達検査などで発達の評価をする。「子どもの発達の特徴を保護者に説明し、理解してもらうことを重視しています。それから、その子の発達に適した支援を検討します」
子どものペースで
子育てで大切なのが、「子どもの情緒の安定」だという。 そもそも発達障がいのある子は環境になじみにくく、不安や不満などのストレスを抱えやすい傾向がある。「パッと見では分からないことも多く、わがまま、甘えと思われて、怒られることが多い」。頑張っても失敗を繰り返し、怒られてばかりいると、癇癪を起こしたり、我慢ができなくなったり、不安で動けなくなったりと問題が広がってしまう。将来的に不登校や非行、引きこもりなどのリスクが高まることがあるという。
「親は子どもが120%頑張っていると認めて、子どもが安心でき、守られていると感じられるように心がけて。そのためには、子どもの発達に合わせた子育てが大切です。ゆっくりだけど、子どもは確実に成長します」
子どもを受け止めるには、親に気持ちの余裕がないと難しい。「子どものためにも、親への支援は不可欠です。当センターでは、親の不安を軽くし、子育てに希望を持てるような支援を心がけています。また、親が孤立しないために、配偶者や祖父母、学校の先生といった協力者が多い方がいい。周囲の人は、親のしつけの問題だと遮断せず、特性がある子がいるということを理解して受け入れてほしい」
特性知って自己否定をなくす
周囲のサポートが力に
自身も発達障がいがあり、発達障がいのある双子を育てている知花さおりさん(48)。当事者の会ニヌファスターの代表として周知に力を入れる。「失敗をしないように常に気を張っていて、ずっと立ち泳ぎをしているような苦しさがある。子どもたちには、特性と自分を助ける方法を知って、自分らしく生きてほしい」と話す。
発達障がいについて、「車でいうとオートマではなくマニュアルのイメージ。同じことをするにも人の数倍労力が要るので、心身共に疲れやすい。私はADHD=上表参照=があり、やるべきことで頭がいっぱいになって脳が休まらない。時には一日中寝込んでしまうこともあります」と知花さん。
自身に発達障がいがあることを知ったのは、大人になってからだ。夫が出張の際、育児で精神的に不安定になり、病院を受診。そこで診断された。「つらさの理由が分かって救われた半面、どうして私が、という気持ちにもなりました」
当事者の会ニヌファスター代表の知花さおりさん。積極的に講演や授業を行う
発達障がいを知ってもらうために持ち歩いているイヤーマフ。騒音を遮断するので聴覚過敏の子に役立つ
知花さんは発達障がいに関する本を200冊ほど所有。相談に来た人に薦めることもある
子どもが1歳で診断
双子の娘と息子に発達障がいがあると分かったのは、2人が1歳のころ。乳幼児検診で息子の成長の遅れを指摘され、病院を受診。かんしゃくが激しい娘の相談をしたところ、2人とも発達障がいと診断された。最初はショックで受け入れられなかった。
それでも、「子どもには自分を否定したり、障がいを隠すことだと思ってほしくない。そこで、私自身に差別する気持ちがあるから受け入れられないんだと気付いたんです。できないことがあっても、子どもたちが欠けている存在ではない」と、意識が変わった。
息子が登校を渋った時、知花さんの手書きのイラストと「疲れメーター」を使って困りごとを聞いた。本人も学校には行きたいが、疲れることや悩んでいることが分かる
頑張れる環境を作る
子どもたちは児童デイサービス(障がい児専門の療育機関)に通い、療育を受けた。息子は当初、軽度知的障がいも診断されていたが、成長に伴いなくなった。「デイサービスでは、失敗の練習から始めて小さな成功体験を積み重ねていく。子どもの特性に合わせて療育をしてもらえた。早期に分かって本当に良かった」 2人は今、小学校の特別支援学級に在籍し、授業によっては通常学級に参加。家で予習復習をしていることもあり学習面での支障は無いが、それぞれに困りごとがある。
息子にはADHDがあり、座り続けることや字を書くことが不得意で、登校を渋ることがある。娘はコミュニケーションが苦手で、通常学級に行くことを不安に感じている。「『頑張ってもできない』が続くと、自信をなくす。頑張りやすいように、どうサポートをするか」。知花さんは学校に相談。息子は、本人が希望したジェルクッションを使用することで落ち着いた。また、知花さんは発達障がいや他人への理解を広げようと、学校で特別授業を行った。その後、娘は通常学級に行くようになった。「先生とお母さんはチーム。100%解決できなくても、不安の解消につながればいい」
子どもたちには、発達障がいのことを伝えている。「できないのは自分が悪いのではなく、特性だと知ることで心の健康を守れる。その上で課題を解決したり、周りと折り合いをつける力を身に付けて、夢をかなえてほしい」
「子どもたちが大人になったときに、生きやすい世の中になるように」と、当事者の会を設立。講演やイベントで周知を広める活動をしている。「子どもたちに『あなたたちは何にでもなれる』と言うからには、私がチャレンジする姿を見せないと。失敗も多く体当たりです」と笑う。
身をもって感じているのが、周囲のサポートの大切さだ。「夫や夫の職場、学校の先生、行政、親の会や当事者会のメンバーなど、周囲のおかげで子育てができている。心から感謝しています」
知花さんは学校で特別授業をし、発達障がいについて説明。生徒に「自分説明書」を書いてもらい、「お互いに何に困るか知ると、困りごとが減る。伝え合えるといいな」と話した
子どもが安心して育つことが大切
親と子を支援
発達障がいは、発達に凹凸がある生まれつきのもので、その子の個性。小児科医の高良幸伸さんは、「受診された方には、この子なりに一生懸命やっているけれどうまくいかないのは、親のせいでも子どものせいでもない。これまで頑張ってきましたね、と伝えます」と話す。
高良幸伸さん。沖縄中部療育医療センター院長
困り感が気付きに
発達障がいは大きく三つに分かれ、複数が重なることもある=左図参照。「自閉症スペクトラム」は対人関係や集団行動が苦手で、言葉の発達が遅れる子が多い。「注意欠陥多動性障害(ADHD)」は、注意力や集中力が弱い、落ち着きがなく多動などの特徴がある。「学習障害(LD)」は、知能は低くないが、読み書き計算などの学習が苦手。「自閉症スペクトラム」は乳幼児期、「ADHD」と「LD」は学校に通うようになって、診断されることが多いという。「早期に分かるほど、早くからその子に合う育ちを支援できます。親の子育てでの困り感が、気付きのヒントになる。気になることがあれば、乳幼児健診などで相談をしてみてください。ただし、早期でなければだめ、ということではありません。気になった時に相談へいらしてください」
市町村にもよるが、乳幼児健診で気になる子は、専門家に相談できる事後教室へ通い、病院へつながることが多いという。病院では発達検査などで発達の評価をする。「子どもの発達の特徴を保護者に説明し、理解してもらうことを重視しています。それから、その子の発達に適した支援を検討します」
子どものペースで
子育てで大切なのが、「子どもの情緒の安定」だという。 そもそも発達障がいのある子は環境になじみにくく、不安や不満などのストレスを抱えやすい傾向がある。「パッと見では分からないことも多く、わがまま、甘えと思われて、怒られることが多い」。頑張っても失敗を繰り返し、怒られてばかりいると、癇癪を起こしたり、我慢ができなくなったり、不安で動けなくなったりと問題が広がってしまう。将来的に不登校や非行、引きこもりなどのリスクが高まることがあるという。
「親は子どもが120%頑張っていると認めて、子どもが安心でき、守られていると感じられるように心がけて。そのためには、子どもの発達に合わせた子育てが大切です。ゆっくりだけど、子どもは確実に成長します」
子どもを受け止めるには、親に気持ちの余裕がないと難しい。「子どものためにも、親への支援は不可欠です。当センターでは、親の不安を軽くし、子育てに希望を持てるような支援を心がけています。また、親が孤立しないために、配偶者や祖父母、学校の先生といった協力者が多い方がいい。周囲の人は、親のしつけの問題だと遮断せず、特性がある子がいるということを理解して受け入れてほしい」
編集/栄野川里奈子
『週刊ほ〜むぷらざ』発達障がい、知っていますか?
第1703号 2020年3月19日掲載