カラフルでハッピーな布 “自分勝手”につくる|田原幸浩さん(テキスタイルアーティスト)|fun okinawa~ほーむぷらざ~

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2018年7月27日更新

カラフルでハッピーな布 “自分勝手”につくる|田原幸浩さん(テキスタイルアーティスト)

ヤマトンチュの沖縄ライフ『楽園の暮らし方』<vol.04>
沖縄に移住した人たちの「職」と「住」から見えてくる沖縄暮らしのさまざまな形を紹介します。

テキスタイルアーティスト
田原幸浩さん(南城市)


京都出身の田原幸浩さんは、南城市生まれの妻、琴子さんと二人で、“好きなものを好きなように、自由に楽しく作る”ことをモットーにテキスタイルデザイン工房「Doucatty(ドゥカティ)」を営む。上写真手前は人気の枝サンゴ柄の手ぬぐい
京都出身の田原幸浩さんは、南城市生まれの妻、琴子さんと二人で、“好きなものを好きなように、自由に楽しく作る”ことをモットーにテキスタイルデザイン工房「Doucatty(ドゥカティ)」を営む。上写真手前は人気の枝サンゴ柄の手ぬぐい

 

イラブチャーの手ぬぐいや沖縄そばのTシャツも

テキスタイルデザイン工房「Doucatty(ドゥカティ)」の田原幸浩さん(55)は、手ぬぐいやTシャツの図案を一つ完成させるのにも膨大な数の下絵を描く。
「たとえば牛の絵を描くとしますよね。最初は『牛ってどんな顔をしていたっけ』という感じで記憶はあやふや。だからまずは牛の写真をたくさん集めてきて、それを忠実に写生します」
写生から始めて何枚も何枚もひたすら牛の絵を描き続けるうちに、写真の助けを借りなくても、そらで牛を描けるようになる。その段階まで来ると、絵は写生の域を出て、「自分らしい線」で描かれた創作になっている。
「図案を一つ描き上げるのも結構大変です。でもね」と言って田原さんが七福神の布袋様をほうふつとさせる福々しい顔をほころばせた。「すごく楽しい」


2年前に新築した工房。「予算内でできるだけ広く、天井も高く」という二人の希望を南城市在住の建築家、山口博之さんがかなえた。「工房のサイズに合わせて仕事も広がってきています」と田原さん。琴子さんも、「仕事の運を引き寄せてくれた建物です」と大満足の様子。工房では商品の販売もしている。ヤギやユウナの花など、島の動植物をカラフルに描いた布製品は見ているだけで愉快になれる
2年前に新築した工房。「予算内でできるだけ広く、天井も高く」という二人の希望を南城市在住の建築家、山口博之さんがかなえた。「工房のサイズに合わせて仕事も広がってきています」と田原さん。琴子さんも、「仕事の運を引き寄せてくれた建物です」と大満足の様子。工房では商品の販売もしている。ヤギやユウナの花など、島の動植物をカラフルに描いた布製品は見ているだけで愉快になれる


 

絵を描きたくて沖縄に

京都府生まれの田原さんは、美大を出てから大手就職情報会社に入り、求人広告を制作する仕事に携わった。26歳の時、「覚えている限りの昔からずっと好きだった」絵画に本腰を入れて取り組んでみようと会社を辞め、友人が暮らす沖縄にやって来た。
「美大予備校の講師から工事現場の清掃員まで、いろんなアルバイトをしながら絵を描きました。スーパーに植わっていたヤシの木や浜辺に置いてあった貸しボートなど、身近な題材を描くことが多かったです」
40代初めに南城市出身の琴子さんと結婚してからは、ガイドブックなど印刷物のデザインを請け負う仕事を琴子さんと共同でするようになった。田原さんは画家で、琴子さんは東京で長く雑誌のデザインをしていたグラフィックデザイナー。二人の手にかかると、学校紹介のパンフレットなども、まるで雑誌のように見応え、読み応えのあるものが出来た。ある学校では、二人のパンフレットの効果もあって入学希望者が急増したほどだ。


Doucattyを立ち上げた12年前に作ったTシャツ。当時はプリントの工程を外注していたが、独学で技術を習得し、現在は自分たちでプリントや染めも行っている
Doucattyを立ち上げた12年前に作ったTシャツ。当時はプリントの工程を外注していたが、独学で技術を習得し、現在は自分たちでプリントや染めも行っている

沖縄そば柄のTシャツ。田原さんの図柄の多くはクスッと笑えるユーモアを感じさせるが、田原さん自身は「よくそう言われますが、笑わせようとかまるで考えずに真面目にやっています(笑)」と話す
沖縄そば柄のTシャツ。田原さんの図柄の多くはクスッと笑えるユーモアを感じさせるが、田原さん自身は「よくそう言われますが、笑わせようとかまるで考えずに真面目にやっています(笑)」と話す

 

もっと“自分勝手”に

しかし二人は、受け身の立場で委託された仕事を行うだけでは飽き足らなくなった。もっと自由に、もっと“好き勝手に”何かを作りたかった。「人が考えた企画に自分たちの技術や能力を注ぎ込む」のではなく、「自分たちの好きなものを好きなように作れる」仕事がしたかった。
そして始めたのが、オリジナルのTシャツ作りだ。田原さんが描いた絵を琴子さんがレイアウトして、外注でプリント。売れる見込みも不確かなのに、デザインの仕事で得た収入をつぎ込んで、いきなり20種類、数百枚を制作した。「若さが暴走していたとしか思えません(笑)」と琴子さんが当時を振り返る。
ブランド名は沖縄語の「どぅーかってぃ(自分勝手)」を横文字にして「Doucatty」に。あまり良い意味の言葉でないのは分かっているが、「実際に好き勝手にやっているし、少し粗っぽい感じの響きが自分たちらしい」と発案した琴子さんは言う。

 

型破りな図柄

Tシャツから始まり、手ぬぐい、最近では洋服作りまでもと幅が広がり続けるDoucattyの商品は、弾むようなカラフルな色使いとともに、「何が世間に受けるかをあまり考えずに自分が気になるものばかりを描いてきた」田原さんが生み出す、自由でユニークな図柄が楽しい。中には島ニンニクやイラブチャーや沖縄そばなど、一風変わった図柄もある。沖縄そば柄のTシャツを発売した時は、田原さんの才能を信頼する琴子さんもさすがにためらったという。
「沖縄そばのTシャツなんて、そんなヘンな商品は売れないと思っていました。だけど彼が強く望むので商品化してみたら、大ヒット作になりました」
好きなように、自分の気持ちに正直に作っていると話す田原さんと琴子さんだが、大切にしているのは自分たちの気持ちだけではない。
「僕らが楽しく作ったものが、買ってくれた人の暮らしに喜びをプラスするものであってほしい。それが僕らの願いです」
Doucattyを立ち上げてから12年。今では半年待ちや1年待ちのお客さんもいるほど多くの注文が舞い込んで来る。二人が心を躍らせて作る手ぬぐいやTシャツに心が躍る人が増えている。



群生するバナナが風に揺れる中庭をはさんで工房と向かい合わせに建つのが自宅。「倉庫みたいにちっちゃなおうちです」と琴子さんは謙遜するが、すっきりとシンプルな形の建物内にLDKと寝室が過不足なく配置されていて住み心地がよさそうだ
群生するバナナが風に揺れる中庭をはさんで工房と向かい合わせに建つのが自宅。「倉庫みたいにちっちゃなおうちです」と琴子さんは謙遜するが、すっきりとシンプルな形の建物内にLDKと寝室が過不足なく配置されていて住み心地がよさそうだ

そのままカフェができそうな室内。飼い猫がひっかいたり、売れ残ったりした商品の布をカーテンにして掛けているという色鮮やかな窓辺や、アンティークタイルを壁に張ったキッチン、“脚線美”が目を引くテーブルなど、おしゃれのスパイスをさりげなくきかせた自然体の空間づくりが心憎い
そのままカフェができそうな室内。飼い猫がひっかいたり、売れ残ったりした商品の布をカーテンにして掛けているという色鮮やかな窓辺や、アンティークタイルを壁に張ったキッチン、“脚線美”が目を引くテーブルなど、おしゃれのスパイスをさりげなくきかせた自然体の空間づくりが心憎い

「他にはちょっといないぐらい、おおらかな人」と琴子さんが言う、円満な人柄の田原さん。どこに暮らしてもなじめそうだが、ご本人は沖縄以外に住むことは考えられないと話す。「沖縄の人は、考え方が違う相手でも簡単に関係を切らないですよね。僕もその優しさを学びたい」
「他にはちょっといないぐらい、おおらかな人」と琴子さんが言う、円満な人柄の田原さん。どこに暮らしてもなじめそうだが、ご本人は沖縄以外に住むことは考えられないと話す。「沖縄の人は、考え方が違う相手でも簡単に関係を切らないですよね。僕もその優しさを学びたい」



文・写真 馬渕和香(ライター)


毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1699号・2018年7月27日紙面から掲載

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