彩職賢美
2018年7月19日更新
[彩職賢美]食物アレルギー対応食品専門店 かめさん商店代表の田村磨理さん|アレルギーの対応サポート
現在、日本国民の2人に1人は何かしらのアレルギーがあると言われている。誰もが安心して楽しめる観光バリアフリーを目指す沖縄では食物アレルギー対応が重要な意義を持つ。その環境整備のため精力的に活動しているのがアレルギー対応アドバイザーの田村磨理さん(42)。当事者家族、事業者、行政など各分野から大きな期待が寄せられている。
食のバリアフリー目指し
食物アレルギー対応食品専門店
かめさん商店代表
一般社団法人 アレルギー対応沖縄
サポートデスク理事
田村磨理 さん
田村さんもアレルギーのある2人の子どもを育ててきた。「今は笑って話せますが、当時はアレルギーに対する法律や支援、社会の理解や正しい知識もほとんどない。日々の食事は食材を買うのも作るのも大変。病院通いが続き心身が疲弊する中、心無い言葉に傷つき、自分を責め、孤独感は強まるばかりでした」と振り返る。
2011年、「同じように悩み、大変な思いをしている親子のために交流の場をつくり手助けがしたい」と糸満市の住宅街に食物アレルギー対応食品専門店を開業。「アレルギーは長い付き合いになる。ゆっくりのんびり焦らずいこう」とメッセージを込め「かめさん商店」と名付けた。
店で扱う商品は全て特定原材料7品目「乳・卵・小麦・そば・えび・かに・落花生」を使っていない。中には27品目不使用もあり、小さな子どもたちが喜びそうなおやつやレトルト食品をはじめ、ミックス粉、しょうゆ、みそ、グルテンフリーの麺、冷凍食品などさまざまな食品が並ぶ。同店には商品を求めて遠方から通う人や育児相談で訪ねてくる人もいる。
1歳の娘を連れ来店した稲吉舞さん(34)は、「娘に卵アレルギーの心配がある。県外出身で身近に頼る人がなく不安だったが、ここで食材の選び方やアレルギーの情報もいろいろ教えてもらっている。近所にこういう店があって良かった」と笑顔を見せる。
「お客さまが喜ぶその声が私の活力源。子どもが成長し、アレルギー除去が解除になったと報告を受けると自分のことのようにうれしい」と田村さん。一方、「学校で支援を断られるなど、悲しく悔しい思いをして相談にくる人も多い。アレルギーの理解や支援を後回しにして、人や対応を安易に排除したり回避したりするのは、教育、社会、沖縄の未来のために良くない」と言葉に力を込める。
田村さんはアレルギーの基礎知識を多くの人に知ってもらいたいと、自身の経験、知識を生かし、県内各地でアレルギー講習会を開催。専門医や栄養士と連携しながら、15年にはアレルギー対応沖縄サポートデスクも設立し、多くの出版物や商品開発に携わった。また、食物アレルギーを体系的に学べる講座「アレルギー大学」や沖縄調理師専門学校の講師として人材育成にも力を注いでいる。
日本では2015年に「アレルギー疾患対策基本法」、「食品表示法」といったアレルギーに関する法律が施行された。特に全国から修学旅行生が集まる京都では、行政が主体となってアレルギー対応の体制づくりが進んでいる。「沖縄も取り組んではいるが、より行政の積極性とスピード感が欲しい」と田村さん。
近年、ピーナツアレルギーのある観光客がジーマーミ豆腐を食べて救急搬送されるケースも発生しており、「みそあえにピーナツバターが使われていたり、中味汁の豚肉の下処理で小麦粉が使われていたり、沖縄ならではの注意喚起がある」と指摘。言語が違っても視覚的に分かるピクトグラムでのアレルゲン表示を提唱する。「課題はいろいろあるけど、誰でも笑顔で過ごせるよう沖縄のバリアフリー化を目指し、一歩ずつ前へ進んでいきたい」。未来を見つめる瞳に強い志が宿る。
商品開発・表示も指導
田村さんが理事を務めるアレルギー対応沖縄サポートデスクでは、宿泊・飲食事業者支援として、アレルギーの基礎知識、緊急時対応をはじめ、客室整備、厨房(ちゅうぼう)指導、表示指導、料理開発などを行う(写真)ほか、一般の受講も可能なアレルギー大学でより専門的に学べる講座も開催。現在、第13期を募集している。近年、盛んな教育民泊について安全面から危惧する田村さんは、「事故が起きる前に学ぶ機会を持ってほしい」と呼び掛ける。
<問い合わせ先>
098-996-2285
※写真は田村さん提供
「ゆいまーるブック」を総監修
田村さんは昨年、沖縄県が発行した「食物アレルギーゆいまーるブック」で総監修を務めた。同冊子では、食物アレルギーの基礎知識や緊急時にアレルギー症状を一時的に緩和するエピペンの使用法など、分かりやすく説明。食物アレルギーの原因となる特定原材料27品目はピクトグラムと呼ばれるイラストで紹介しており、「コピーして切り取り、メニューなどに貼り付けると、外国人観光客にも分かりやすく伝わるのでぜひ活用してほしい」と呼び掛ける。
表紙|特定原材料を示したピクトグラム
同冊子は、沖縄県のホームページからダウンロードが可能。
http://okibf.jp/pref/files/2017/yuimaru_book.pdf
※写真は田村さん提供
田村さんのハッピーの種
Q.お子さんの現在は?
鼻炎とアトピーがあった長男は高校1年生に、次男は卵、牛乳、肉類の食物アレルギーに鼻炎、ぜんそくの症状がありましたが小学6年生になり、それぞれ成長とともにアレルギー症状もほとんどなくなり、親子共に楽になりました。親離れして寂しいくらい(笑)。息子たちが小さいころの写真(右)を手帳に挟んで持ち歩いていて、時々癒やされています。
※写真は田村さん提供
PROFILE
たむら・まり
1976年、千葉県出身。大学は東京で過ごし、2000年、結婚を機に沖縄へ。01年に長男、07年に次男を出産。子どものアレルギー症状をきっかけに、沖縄でアレルギー対応の拠点が必要と感じ、11年、糸満市にアレルギー対応食品専門店「かめさん商店」を開業。15年、(一社)アレルギー対応沖縄サポートデスクを設立。理事に就任。アレルギー児とその家族のサポート、事業所支援に力を注ぐ。
[今までの彩職賢美 一覧]
撮影/比嘉秀明・ライター/文・赤嶺初美
『週刊ほーむぷらざ』彩職賢美<1305>
第1617号 2018年7月19日掲載