2021年1月21日更新
不妊治療のイマ⑦|治療と仕事は両立できる?
文・大嶺美幸(不妊症看護認定看護師)
不妊治療と仕事を両立している人は53.2%で、約35%は仕事を辞めたり、雇用形態を変えています=下グラフ。治療と仕事の両立には、周囲の理解が力になります。
仕事と不妊治療の両立状況
周囲の理解が力になる
近年、晩婚化などを背景に不妊治療を受けたことがあるカップルは、カップル全体の5.5組に1組で、生殖補助医療による出生児は約16.7人に1人(2017年 日本産科婦人科学会 ARTデータブックより)。
一方で、不妊治療と仕事の両立ができない人は約34.7%(約16%は離職)=上グラフ。両立が難しい理由として、精神面や体調面の負担の大きさ、通院回数の多さなどが挙げられています。厚生労働省は、仕事と不妊治療の両立支援に向けて取り組んでいますが、現場の浸透に至らない現状があります。また、センシティブな内容になるため、不妊治療を開示していない方は、58%です(厚生労働省「不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック」より)。
女性は、加齢に伴う妊娠率の低下や流産率の上昇を踏まえ、妊娠する力の保たれている時期に不妊治療を希望したい思いを抱えています。それと同時に、不妊治療にとらわれ過ぎないよう、不妊治療以外に大切にしたい時間(仕事など)もあります。
企業に求められる制度作り
企業として、何をすべきか見えないこともあるかもしれません。企業に求められることは、両立支援がしやすい時差出勤などの制度を整えることや受診しやすい職場の雰囲気作り、不妊について理解を深めるための上司の研修、当事者のプライバシーを確保し、ハラスメント対策を行うことなどです。
不妊治療と仕事の両立支援に取り組むことは、多様な働き方(時差出勤、時短勤務、休暇など)を推進し、当事者のモチベーションの向上となり、新たな人材を引きつけるメリットになります。
当事者には、不妊治療に伴う経済的負担やキャリアの向上、仕事を大切にしたいなど、さまざまな思いがあります。本人が伝えないといけないことが多いため、話しやすい雰囲気作りも大切です。
当事者は話せる場所の確保を
不妊治療は、身体的・社会的・心理的、経済的な負担が大きいです。仕事をしている女性は、プライバシーを保つことの難しさや上司の無理解、職場への気兼ね、プレッシャー、同僚の妊娠や出産で気持ちが揺れる、といった心境になることがあります。
両立が難しい場合、何に困っているのか、具体的に整理をしましょう。必要な時には、職場に伝えること、どこまで伝えるかを検討し、病院に治療日程の調整や方法を相談しましょう。また、厚生労働省の不妊治療連絡カードは、治療の時期や配慮すべきことについて医療施設に記載してもらえ、職場と調整を図るために、活用できます。今後のためにも、助成金制度や企業の取り組みなど、社会資源を知っておくことが大切です。
パートナーは、意識して話を聞くことや、お互いを尊重しありのままの気持ちを話し合って悩みをカップルで共有し、ストレス解消へ取り組めるといいですね。
周囲に知ってほしいこと
当事者カップルは、日々心身の状態を整え、管理しながら、治療と仕事の両立に向き合っています。仕事が気分転換になっている方も、職場の理解が得られず両立に苦しんでいる方もいます。中には、後に続く人にネガティブな思いをしてほしくないと、職場環境を整えるために尽力している方もいます。
これまで不妊治療と仕事の両立が難しかったのは、周囲の不妊症や不妊治療についての理解不足が要因の一つだと考えられます。
不妊治療は、望んだ結果が得られないこともあり、当事者は治療の過程で苦痛や苦悩を経験します。そうした不妊についての理解が深まると、当事者や関係者など、多くの方が報われます。
それぞれの背景や思い、価値観を尊重し合い、不妊症や不妊治療がより身近なこととして、職場でも当たり前に理解が得られる社会の実現が望まれます。
おおみね・みゆき。不妊症看護認定看護師。日本不妊カウンセリング学会不妊カウンセラー。友愛医療センター不妊外来に在勤。
毎週木曜日発行・週刊ほ〜むぷらざ
「第1746号 2021年1月21日紙面から掲載」