介護
2025年11月20日更新
介護が終わった後の喪失感や無力感、どう向き合えばいい? グリーフケアの専門家「自分を否定しないことが大事」|つらくない介護を⑯
介護は必ず終わりがくる。それが死という形で終わったときの喪失感や無力感など、さまざまな自分の気持ちにどう向き合えばいいか、グリーフケアに取り組む朝日さんに話を聞いた。

介護後のグリーフケア
「感情の波」との向き合い方
否定しないことが大事
気持ちを「こぼして」

◆朝日さん
/グリーフケア専門「ゑんぴつ堂」代表。ヒアリング、ワークショップ、似顔絵、遺骨ジュエリーなど、大切な人を亡くした悲しみの中にある人をサポートしている
-介護後の感情の波とは?
介護が終わったとき、人の心には悲しみだけでなく、安(あん)堵(ど)、罪悪感、孤独、虚無感など、さまざまな感情が同時に押し寄せます。「もっと優しくできたはずだ」という後悔や、「これでやっと休める」という安堵感。長く介護してきた人ほど、思いがけない感情に自分を責め、深い罪悪感に苦しむことがあります。
介護中は医療機関や家族など多くの人とつながっていますが、介護が終わると一気に人との接点が減ります。「自分の役割がなくなった」という喪失感と、張り詰めていた心が緩むことで無気力になり、何もやる気が起きない状態に陥る人も少なくありません。
-そうした複雑な感情とどう向き合えばいいか?
介護を終えた後に湧き上がる感情を否定しないことが大事だと思います。
亡くなってホッとしたというのは、すごく正直な気持ちです。それだけ一生懸命やってきた証し。感情は一つじゃないし、今日は大丈夫でも明日はきついという波があるのも当然。そういう自分を否定しないところからスタートすることが大切です。
まずは頑張ってきた自分自身をねぎらってください。
-具体的なケアの方法は?
支離滅裂でいいので、自分の気持ちを「話す」というより、「こぼして」ほしい。専門家でなくても、友人や親戚に話すだけで肩の荷が下りるものです。グリーフケアは特別なものではなく、本来は友達や親戚と思いを話し合うことが理想だと思っています。
話す相手がいない場合は、ノートに言葉を選ばず思いをぶちまけるのも効果的です。書くことで気持ちが整理されます。しかも無料でできるセルフケアです。
また、グリーフカフェや遺族の会など、同じような経験をした人たちと交流する場に参加するのも良いでしょう。私が主催する月1回のグリーフカフェでは、参加者同士が「わかる、私もそうだった」と共感し合い、自然な交流が生まれています。
最初は硬い表情で来た人が、みんな笑顔で帰っていく。それが一番うれしいです。
故人の写真に話しかけることも、自分でできるケアの一つです。気持ちを少しずつ整理できます。
また、自分の経験したことを誰かのために役立てるなど社会に還元することが、喪失感を消化する良い方法だと言われています。

-介護を終えた方へ一言
介護を終えた後の複雑な感情は、決して異常なものではありません。安堵も、罪悪感も、すべて人間として自然な反応です。大切なのは、その感情を否定せず、まず自分自身を認めること。1人で抱え込まず、誰かにこぼす。それだけで心は軽くなります。
感情は波のように訪れます。その波を感じながら、少しずつ前に進んでいけばいい。あなたの気持ちは間違っていない。そう信じて、自分を大事にすることから始めてみてください。
取材/赤嶺初美(ライター)
毎週木曜日発行・週刊ほ〜むぷらざ
「第1997号 2025年11月20日紙面から掲載」














