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COLUMN

新城和博

2020年4月1日更新

春はいつもとおなじようにやってきて|新城和博のコラム

ごく私的な歳時記Vol.70|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、この20年も振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。



春はいつもとおなじようにやってきて

 学校が突然お休みになって、子どもたちはいつもとは違う時間の過ごし方を余儀なくされていた。小学生のお子さんを抱えるお母さん、お父さんたちは大変だろうと、子育てを終えた僕は、ばくぜんと考えていた。

 テレビやネットの情報をチェックしつつ思う。春はやってきた。今年の3月はとてもいい天気がおだやかに続き風もあたたかい。街角でみかける自然の風景は、いつにもまして鮮やかだった。右往左往しているのは人類だけ。春はいつもと同じだ。

 そんなころ、朝、仕事場に向かって車を走らせていた。識名のトンネルをぬけて、傾斜のきつい広い2車線を下る。小中学校が休みになると、車は混雑しない。ゆっくりとバス停横を過ぎる。ふと目をやると、今日もいた。小学3年生くらいのリュックを背負った男の子と、そのお母さん。淡いピンクのガーディガンを羽織りマスクをしているお母さんのまわりを、ぴょんぴょん跳ねるようにして、小さな青いリックを背負った男の子がじゃれている。

 臨時休校になってからその親子はこの朝の時間帯にバスを待つようになった。信号待ちでふとみると、ふたりはじゃんけんして、指を右にむけたり下にむけたりして遊んでいる。「あっちむいてほい」だ。あまりにも楽しげな様子に、僕は瞬間、心を奪われた。

 男の子を見つめるお母さんのまなざしのあたたかさ、見上げる男の子のうれしさを隠せない笑顔。子育てしていたあのとき、なんども味わった至福の小さい子どもとのドリームタイム。

 お母さんの職場に一緒に行くのか、その近くの学童保育に預けに行くのか、それともおばぁちゃんちに行くのか。バス停でバスを待つ、ほんの少しの時間、ふたりはとても楽しそうだった。

 信号が変わり僕は車を走らせる。サイドミラーでその親子の姿をちらっと見る。バスはまだ来ないようだ。ふたりは、もうしばらく、あっちむいてほいが出来るはず。


 今年の春は今までと違う世界にいるような気分。世界はそのまま変わってしまうのかもしれない。

 でも春はいつものようにやってきて、やがて夏の風が吹いてくる。あの親子の時間も確実に過ぎていく。

この記事のキュレーター

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新城和博

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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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