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新城和博

2017年11月24日更新

アコークローの娘『本日の栄町市場と、旅する小書店』(宮里綾羽著)の裏話|新城和博のコラム

ごく私的な歳時記Vol.35|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、この20年も振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。

長年、沖縄で編集者として本作りに関わってきたのだが、今度刊行される本で初めての経験をすることとなった。感慨深いその一冊とは『本日の栄町市場と、旅する小書店』である。

あれは27年前のこと。まだなんとか20代だった僕は、ある個人誌を手にした。某役所の職員がごく私的に出している、手作り感満載のミニコミであった。当初は役所の組合関係のことを書いていたらしいのだが、それだけじゃ面白くないと、僕が読んだ頃には、自らの旅の話や沖縄にまつわるエッセイがメインにつづられていた。僕もあちこちに沖縄に関するコラムを書いていたのだが、その手書き文字で書かれた文章を読んで、あまりの面白さに驚愕(きょうがく)してしまった。身近な沖縄文化の問題を、大上段にかまえず冗談満載な文体で自由奔放に、時に鋭く書かれたエッセイ群。負けた、すごい。こんな書き手がいたなんて!! その後しばらくして、僕は初めて会った飲み会の席で、「ぜひ本にしましょう」と迫ったのだ。そのごく沖縄的面白個人誌の名は「アコークロー」。1年後に同じタイトルで単行本が出た。著者の名は、宮里千里。




初めての著作なのだが、その本は当然のごとく評判を呼び、千里さんは、以後、役所勤めと平行しつつ、沖縄を代表するエッセイストとして、沖縄だけではなく全国出版をするような存在になった。僕にとっても、この素晴らしいエッセイ本を編集したことが、その後の仕事の励みになった。

『アコークロー』には、千里さんの家族のこと、特に当時まだ小学生だった娘さんのことが多く描かれていた。父娘でアジアを旅した話、幼稚園の頃に家出(!?)した話などなど。父親が幼い娘に対してどのような思いをもって接しているのか。それも『アコークロー』の魅力のひとつだった。

<ボクには帰る島も、共同体社会も存在しない分だけ、自分の子供も含めてのあらたな共同体を築いていきたいという思いが最近は強い、ウチナーンチュらしさを失ってきた自分自身を少しでも取り戻したい、のだ> そう千里さんは『アコークロー』の最後の方で書いていた。

あれからそれなりの時間が、沖縄にも、千里さんにも、僕にも流れた。そして今年2017年11月のボーダーインクの新刊『本日の栄町市場と、旅する小書店』が出た。その著者の名は、宮里綾羽。そう『アコークロー』でたびたび登場していた娘さんなのである。

彼女の肩書きは「宮里小書店副店長」。実はその本屋、千里さんが退職後に始めた古書店なのだ。とっても小さいので「小書店」(こしょてん)というらしい。いろいろあって娘である綾羽さんが現在副店長として、日々カウンター越しに座って店番している。ちなみに店は店長と副店長しかいない。



この本は、那覇市栄町市場の端っこにあるその小さな本屋さんで店番をしながらつづられたエッセイ集。栄町市場で出会った魅力的なお店の人たちやお客さんのこと。自らの旅と忘れられない本との出会い。そして幼い頃からの家族との思い出。ゆったりと流れる市場の時間そのままにつづられた、著者初めての単行本である。その中ではあの『アコークロー』で描かれた自分のことや父との旅の思いも書いてある。詳しくはぜひ手にして頁をめくっていただきたい。爆笑、かつ心震える傑作です。

親子2代にわたって初めての本の編集をさせてもらうなんて、なかなか出来るものではないなぁと出版人としてしみじみしつつ、さぁてどうやって売り出していこうか、これから怒濤(どとう)の日々がはじまるのであった。




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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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