春のクジラでタイムトラベル|新城和博さんのコラム|fun okinawa~ほーむぷらざ~

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COLUMN

新城和博

2024年2月22日更新

春のクジラでタイムトラベル|新城和博さんのコラム

ごく私的な歳時記Vol.114|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、これまでの概ね30年を振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。

沖縄に長年生活していても見たこと、やったことないことは数多い。この時期になんとなくいいなぁと思っているのが、ホエール・ウオッチングである。わざわざツアー船に乗ってまで見るということもないくせに、ここ数年、知り合いのSNSで、仕事おわりに浜辺や岬からクジラを見に行った、見えたー! という写真、動画があげられるようになり、陸地から見えるんだったら、いいね! なんていう心持ちだった。



2月に入り、今年2度目の「いーしょぐゎちでーびる」(旧正月)をあいさつした日、久々に「遠くに出かけたい、近場ですませたい」と、首里から車で北上した。ふと思いついて、クジラが見えるらしい読谷の残波岬あたりに向かってみる。久しぶりだったので、若干どのルートがいいのかと迷ってしまった。観光客みたい……。
穏やかな天気で、残波岬には、それなりに国際色ゆたかな観光客がわさわさしていた。なんかその風景も懐かしい。いろいろコロナ前に戻ったんだなぁ。琉球石灰岩が浸食されて出来たツンツンと先端とがった岩場には、記念撮影をする観光客の向こう側に、海原を眺めている人たちが、あちこちにいた。とりあえず灯台に登ってみた。
春の海は遠くかすんでいるけれど群青色でゆったりとうねり、灯台のてっぺんは風あたりは強いけれど、暖かな日差しも心地よい。下を見ると、岩場に小さな椅子をはめてその海原を眺めている人たちがちらりほらりいる。クジラを見に来た人たちだ。下に降りて、移動しない移動パーラーでホットコーヒーをもらい、再び岬の突端へむかう。イガイガしている岩場をよちよちと歩き、ホエール・ウオッチング常連っぽい人たちが向いている方向を眺めてみた。………そう簡単に現れるわけはないとは思うが、意外にサクッと見られたりして……なんてこともなく、春の海はゆったりとうねっていた。



いろいろ物思いつつぼぅと海原を眺めていたら、いきなり、あっ、いた! という声がした。ぼくたちが向いていたところとは逆の方向を指さしている。岬の突端にいた人たちは、一斉に同じ方向に向いて、目をこらす。椅子の向きを変えた常連さんが、あの岩と岩の間の方向にいたというが、まるでわからない。すると、あっ、また潮を吹いたとの声に目をこらすが、やっぱり探せない。双眼鏡で見ている常連さんは、2頭いるから親子連れかも、暴れているねぇなんてつぶやいている。とりあえずその方向を眺めていたら、とつぜん、水平線近くの海原から、ぷしゅーと白い水しぶきが上がった。えっ、と思ったら、それがクジラだった。潮を吹いているのだ。あんなに遠くなのに、今度ははっきりわかった。なんか砲弾が海上に落ちたのかと思うように、高々とぷしゅーと上がったのだ。でもほんの一瞬だ。クジラの姿は肉眼では見えない。でも、春の海に、かすみのようにあがったぷしゅーだけでも、「クジラを見た」と言ってもいいのでないだろうか、と自分なりに納得してみた。



お昼ちかくになったので、ついでに何年も行ってない万座毛にいって、移動しない移動パーラーでハンバーガーでも食べようかと、恩納の海岸線をドライブする。思いがけず「岬めぐり」となる(昭和フォーク世代)。
しかしたどり着いてびっくりした。万座毛って今や立派な観光施設が出来ていたのですね。整備された大きな駐車場にとまどい、道の駅のような施設の中のこぎれいなお土産品、フードコートにへぇーと驚き、万座毛入り口でしぶしぶ入場券を購入した。昔の雰囲気がもう思い出せなくなってしまった。移動パーラーでなにか食べようかと思った自分が時代に取り残されたような、もしくはタイムトラベルして未来に来てしまったかのような心持ちになる。ちょっと恥ずかしい。
万座毛は遊歩道がこぢんまりときれいに整備されていた。そこからみる沖縄の海の光景はかわらず雄大である。国際色ゆたかな観光客の記念撮影のそばで、代表的な琉球石灰岩の地形として、かならずといっていいほど紹介される、象の鼻のように浸食された、万座毛から見る岬の突端と久々に対面する。そこだけは変わらない。



遊歩道をぐるりとまわると、本部半島の山並みも見える。かすんだ海の先には、掘削されて山肌があらわになった姿も確認できる。辺野古の海岸を埋め立てるために使われる岩、土砂がそこから運ばれていくのだ。沖縄の現在がかすんでいるけれどしっかりと見ることができる。長年沖縄に暮らしていると、どうしてこうなったのか、わからなくなることがたくさんある。クジラを見に来ただけなのに、なんだかタイムトラベルしたかのような一日となってしまったのだった。

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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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