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新城和博

2021年1月18日更新

市場で三枚肉を買う楽しみについて|新城和博のコラム

ごく私的な歳時記Vol.79|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、この20年も振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。

市場で三枚肉を買う楽しみについて

 
例年とは違う年末年始といいつつ、大掃除して、お正月の料理を作り、紅白見て、那覇の港から響く汽笛の音に新年の喜びを感じるのは一緒だ。お正月は首里の寺院をまわる、いわゆる「首里十二カ所廻り」的な長距離散歩を行っているのだが、今年は、各寺院とも、参拝客は、ぐっと減っていた。それでも、できるだけ密を避け、そそくさと手を合わせて、何事かを祈ってみた。



ふと、一年前がまるで十年前のようだと思う。来年の今頃はどうなっているのだろうかと、すでに一年後のことを考えてしまったりして。
 

今年の正月は、初めてラフテーの味噌味に挑戦した。三枚肉は、ここ数年、牧志の公設市場で買うことにしている。第一牧志公設市場は、現在、改築工事のため移動して仮設の建物で営業している。移転後、首里城正殿の火災、さらにそのあとの新型コロナ騒ぎで、訪れる観光客がぐっと減った市場界隈だけど、年末は正月の地元の買い物客で、すこしだけ賑わっていた。

知り合いのお肉屋さんに直行して、三枚肉をみた。ラフテーにするんだけど、脂身が少ないのがいいんですよねー、というと、
「あー、もうそれは今日は売り切れたねー。あるのはこんな感じ」
店頭に並べられている皮付き肉の断面は、確かに脂身の存在がなかなかである。これはこれで美味しかったりするのだ。うーん、どうしようかなと考えていると、お店のお姉さんは、すぐに「うちにはないけど、ほかのところにあるはずよ。まわったらいいですよ」と、すっと並んでいる肉屋さんに目をむけた。

お客さんが欲しい肉を売る。なければ、よそを紹介する。市場ならでの商いである。市場ぜんたいで儲かればいいという、ナチュラルな接客にじんわりと感動しつつ、お目当ての脂身少なめの三枚肉を買った。今年は夫婦ふたりだけの正月料理なので、肉の量も少なめなのだけど、いやな顔せずに肉のブロックを半分にしてくれた。



そのあと、豚の中味(ビービーという柔らかい方)、コンニャク、かまぼこ、椎茸と、市場内のお店をあちこちまわって買った。なんか楽しくなって、テンションがすこしあがる。年末気分ということもあるけど、すこし大げさにいえば、買い物本来の快感があったのかもしれない。年中行事にまつわる買い物を市場ですると、ぐっと雰囲気がたかまるのだ。那覇の公設市場の特徴は、肉や魚や野菜、乾物など、それぞれ同業者の店舗が一緒にずらっと並んでいることと、お客さんと会話しながら商いしていく相対売りである。それは琉球国時代から続くマチグヮー(市場)の伝統。

コロナ禍の仮設の公設市場で、「3密」ではなくて、お客の要望を「親密」に聞いてくれる相対売りの買い物が出来た記憶は、1年後もきっと憶えていることだろう。

コロナ禍でのんびりとゆんたくもできないけれど、帰りにおなじみの冷やしレモンを飲んで、新年の扉へ向かったのでした。
 

味噌味のラフテーは、初めてにしてはまあまあの出来だった。やっぱり豚肉は気持ち多めに買ってゆでるのがいいみたいです。
 
 
 

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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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